§9 A pseudorandom measure which majorisies the primes を読みます。
(無限版)Szemerédiの定理は整数からなる集合が任意の長さの等差数列を含むための(上漸近密度が正であればよいという)十分条件を与える定理でした。従って、実際に個々のケースで等差数列の存在定理を証明するには上漸近密度を計算する必要があります。
例えば(失敗例ですが)、素数全体のなす集合にSzemerédiの定理を適用するにはを計算する必要があって(答えは)、簡単とはいえ、それは素数分布の問題です。
前節までに証明した擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理 (Thm 3.5)も同様で、等差数列の存在証明の擬ランダム測度の構成+関数の期待値計算への帰着が示されただけなので、最終的帰結を得るためにはまだやることがあります。
実際、Green-Taoの定理およびその拡張である素数版Szemerédiの定理を証明するために必要となる擬ランダム測度(=Green-Tao測度)の構成は簡単ではありません(素数分布論。-トリックを使っています)。一方、関数の期待値計算には素数定理で十分です。
-トリックのため、を(以降の議論が全て成り立つだけ)十分増加速度の遅いを満たすような実数値関数とし、
とします(は素数)。
次がGreen-Tao論文の後半の主結果です:
と定義する。また、と互いに素な整数をとる()。
このとき、-擬ランダム測度であって、任意のに対して
これを示せば最終結論
が従うことを確認しましょう。
定理 素数版Szemerédiの定理の証明
とし、以下のに属するような素数の個数をとすると、
ここに書いていた議論が一部間違っていたため一旦非公開にします。議論の修正案はあり、書く余裕が出来たら修正版を載せます。
なので、十分大きいに対して、と互いに素な或る整数が存在して
が成り立つ(鳩ノ巣原理)。
十分大きいに対してが成り立つようなを一つ固定して、それに対するGreen-Tao測度をとる。十分大きいを固定して、と略記する。を
と定義する。すると、
と評価でき、定理から
が成り立つので、擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理(Thm 3.5)によってが存在して、
が得られる。期待値におけるの寄与は
なので、が十分大きければ、が存在して
が成り立つ。このとき、の定義より
かつ
である。とする。なので、である。とするとからとなって矛盾するので。に対して
および
が成り立つ。とおく。より
なので*1、
が確定する。すなわち、
はの元のみから構成される長さの等差数列である。 Q.E.D.
よって、後はGreen-Tao測度を構成するだけとなりました。とします。
切断約数和を用いてを構成します。
これが所望の性質を満たすことを示していきます。まずは、満たすべき不等式を証明しましょう。代表元をとる関数をと表します。
が十分大きければ、に対してが成り立つ。
証明. 最初の主張は定義より自明。として二つ目の主張を示す。が素数でない場合はで下から押さえるだけなので同じく自明。に対してが十分大きければ
すなわち、が成り立つ。よって、が素数であれば、の和はの項のみとなり、
となる。従って、確認すべきことは
すなわち、
の成立である。これは、が十分遅く増加する関数であれば実際に成立する。 Q.E.D.
後は、①測度になっていること、②-線形形式条件を満たすこと、③-相関条件を満たすことを示す必要がありますが、これらは次の二つの定理から導出されます(切断約数和に関する解析的整数論の結果。本質的にはGoldston-Yıldırımの貢献):
は素数を表します(以下ずっと)。これら重要定理の証明は後にまわして、①、②、③が導出されることを確認します。
証明. Goldston-Yıldırım型定理Aを次の状況で適用する: *3, , *4とする。このとき、定理Aからの帰結は
であり、
と書き直せる。また、定義よりに対してはなので、
である。よって、
を得る*5。 Q.E.D.
②、③については以降の記事で確認します。