Dirichlet指標に関する基本事項をまとめておきます。差し当たって、Dirichletの算術級数定理の証明の準備的記事のため、必要最小限のことしか記述していません(例えば、原始的指標などを導入していません)。
有限アーベル群の指標
が巡回群の場合の証明. が位数の有限アーベル群であると仮定する。このとき、明らかに
である。ただし、はの乗根のなす位数の巡回群。ここからはを位数の有限巡回群と仮定し、その生成元をとする。また、の原始乗根を一つ固定する。すると、はで定まるによって生成される位数の巡回群となる(がの元として位数であることは容易に分かる)。というのも、を任意にとったとき、それは によって決まるが、或る整数が存在して が成り立ち、そのときが成立する。 Q.E.D.
一般の場合は有限生成アーベル群の基本定理を用いれば巡回群の場合に帰着できることが分かります*1。しかし、それはインテジャーズでは証明していないので、次の補題を用いる証明を採用します:
証明. 群指数に関する帰納法で証明する。のときは自明。と仮定する。このとき、がとれる。となる最小の自然数をとする。を任意にとって、これがの指標に拡張されることを示す。とする。方程式の複素根を一つとる。を
によって定める。ただし、準同型性は明らかであるが、これがの元の表示の仕方に寄らないことを示しておかなければならない。であって、が成り立ったと仮定する。このとき、なので、或る整数が存在してが成り立ち、
が確認出来る。よって、はwell-definedであり、に対する帰納法の仮定からの指標に拡張される。はの指標のへの拡張になっているから、結局がの指標に拡張されたことになる。 Q.E.D.
この補題が何を言っているかというと、完全列
から完全列
すなわち、
が得られるということです。
命題1の証明. の位数に関する帰納法で証明する。が自明群のときは自明なので、は自明群ではないと仮定する。自明群ではない巡回群であるようなの部分群を一つとる。このとき、であり、帰納法の仮定からが成り立つ。上記完全列より
なので、証明が完了する。 Q.E.D.
証明. 命題1よりなので、が単射であることを示せば十分である。そのためには、次の主張を示せば十分である:
とする。の位数をとすれば、であったので、なるが存在する
(で定義されるものを考えれば十分)。これを補題によっての指標に拡張すればよい。 Q.E.D.
命題2の観点から、はの双対です。
証明. 一つ目の式を示せば十分である(二つ目は双対を取ればよい)。が自明指標の場合は自明なので、非自明指標であるとする。このとき、であってであるようなものが存在し、
が成り立つ。よって、
から、和がであることが従う。 Q.E.D.
Dirichlet指標
が成り立つときにいう。を法とする自明なDirichlet指標とは、なる任意のに対してなる指標のことをいう。
位数の有限アーベル群を考えます(はEulerのトーシェント関数)。の指標を任意にとったとき、からDirichlet指標を
と定義することができます。を法とするDirichlet指標全体のなす集合をとすると、
は全単射です(容易に確認出来る)。よって、命題1よりを法とするDirichlet指標は個存在することが分かります。を固定して考えるとき、それらを
と表すことにしましょう(ただし、は自明なDirichlet指標とする)。
証明. 全単射と命題3から従う。に対して、であることに注意。 Q.E.D.
*1:有限アーベル群に対して、が成立。