インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

ディリクレ指標

Dirichlet指標に関する基本事項をまとめておきます。差し当たって、Dirichletの算術級数定理の証明の準備的記事のため、必要最小限のことしか記述していません(例えば、原始的指標などを導入していません)。

有限アーベル群の指標

定義1 Gを有限アーベル群とする。準同型写像 f \colon G \to \mathbb{C}^{\times}のことをG指標という。\mathbf{1}_G\colon G \to \mathbb{C}^{\times}, \mathbf{1}_G(a) = 1 \ ({}^{\forall}a \in G)のことを自明指標という。Gの指標全体のなす集合を\widehat{G}:=\mathrm{Hom}(G, \mathbb{C}^{\times})と定義し、指標 f, g \in \widehat{G}の積 fg \in \widehat{G}fg(a):=f(a)g(a) ({}^{\forall}a \in G)と定めることによって\widehat{G}は有限アーベル群になることが分かる(f^{-1}f^{-1}(a) = f(a^{-1})で定義され、\mathbf{1}_Gが単位元)。なので、\widehat{G}G指標群と呼ばれる。

命題1 Gを位数nの有限アーベル群とする。このとき、Gの指標群\widehat{G}の位数もnである(実際は、non-canonicalにG\simeq \widehat{G})。

Gが巡回群の場合の証明. Gが位数nの有限アーベル群であると仮定する。このとき、明らかに

\widehat{G} = \mathrm{Hom}(G, \mu_n)

である。ただし、\mu_n \subset \mathbb{C}^{\times}1n乗根のなす位数nの巡回群。ここからはGを位数nの有限巡回群と仮定し、その生成元をaとする。また、1の原始n乗根\zeta_nを一つ固定する。すると、\widehat{G}\sigma (a) := \zeta_nで定まる\sigma \in \widehat{G}によって生成される位数nの巡回群となる(\sigma\widehat{G}の元として位数nであることは容易に分かる)。というのも、f \in \widehat{G}を任意にとったとき、それは f(a) \in \mu_nによって決まるが、或る整数kが存在して f(a) = \zeta_n^kが成り立ち、そのときf=\sigma^kが成立する。 Q.E.D.

一般の場合は有限生成アーベル群の基本定理を用いれば巡回群の場合に帰着できることが分かります*1。しかし、それはインテジャーズでは証明していないので、次の補題を用いる証明を採用します:

補題 Gを有限アーベル群とする。HGの部分群であり、fHの指標であれば、fGの指標に拡張される。

証明. 群指数(G:H)に関する帰納法で証明する。(G:H)=1のときは自明。(G:H) > 1と仮定する。このとき、a \in G \setminus Hがとれる。a^n \in Hとなる最小の自然数をn_0とする。f \in \widehat{H}を任意にとって、これがGの指標に拡張されることを示す。b:=f(a^{n_0}) \in \mathbb{C}^{\times}とする。方程式x^{n_0}=bの複素根c \in \mathbb{C}^{\times}を一つとる。H \subsetneq H':=\langle a, H\rangle \lhd G. \ f' \in \widehat{H'}

f'(a^nh) := c^nf(h), \ \ (n \in \mathbb{Z}, h \in H)

によって定める。ただし、準同型性は明らかであるが、これがH'の元の表示の仕方に寄らないことを示しておかなければならない。n' \in \mathbb{Z}, h' \in H'であって、a^nh=a^{n'}h'が成り立ったと仮定する。このとき、a^{n'-n} = hh'^{-1} \in Hなので、或る整数kが存在してn'-n=kn_0が成り立ち、

c^nf(h) = c^nf(a^{n'-n}h')=c^nf(a^{n'-n})f(h')=c^nb^kf(h')=c^nc^{kn_0}f(h')=c^{n'}f(h')

が確認出来る。よって、f'はwell-definedであり、(G:H') < (G:H)に対する帰納法の仮定からGの指標に拡張される。f'Hの指標fH'への拡張になっているから、結局fGの指標に拡張されたことになる。 Q.E.D.

この補題が何を言っているかというと、完全列

1 \longrightarrow H \longrightarrow G \longrightarrow G/H \longrightarrow 1

から完全列

1 \longrightarrow \mathrm{Hom}(G/H, \mathbb{C}^{\times}) \longrightarrow \mathrm{Hom}(G, \mathbb{C}^{\times}) \longrightarrow \mathrm{Hom}(H, \mathbb{C}^{\times}) \longrightarrow 1

すなわち、

1 \longrightarrow \widehat{G/H} \longrightarrow \widehat{G} \longrightarrow \widehat{H} \longrightarrow 1

が得られるということです。

命題1の証明. Gの位数に関する帰納法で証明する。Gが自明群のときは自明なので、Gは自明群ではないと仮定する。自明群ではない巡回群であるようなGの部分群Hを一つとる。このとき、\#H=\#\widehat{H}であり、帰納法の仮定から\#(G/H) = \#\widehat{G/H}が成り立つ。上記完全列より

\#\widehat{G}=\#\widehat{H}\cdot \#\widehat{G/H}

なので、証明が完了する。 Q.E.D.

命題2 Gを有限アーベル群とし、自然な準同型写像F\colon G\to \widehat{\widehat{G}}a \in Gに対して、
F(a)(f):= f(a),\ \ (f \in \widehat{G})
により定める。このとき、Fは同型写像である。

証明. 命題1より\#G=\#\widehat{\widehat{G}}なので、Fが単射であることを示せば十分である。そのためには、次の主張を示せば十分である:

主張 1 \neq a \in Gに対して、f(a) \neq 1なる f \in \widehat{G}が存在する。

H:=\langle a \rangle \lhd Gとする。aの位数をnとすれば、\widehat{H} \simeq \mu_nであったので、\sigma (a) \neq 1なる\sigma \in \widehat{H}が存在する
(\sigma (a) =\zeta_nで定義されるものを考えれば十分)。これを補題によってGの指標に拡張すればよい。 Q.E.D.

命題2の観点から、\widehat{G}G双対です。

命題3 (直交関係式) Gを位数nの有限アーベル群とし、f \in \widehat{G}とする。このとき、
\displaystyle \sum_{a \in G}f(a) = \begin{cases}n & (f: \text{自明指標}) \\ 0 & (f: \text{非自明指標})\end{cases}
が成り立つ。また、a \in Gに対して、
\displaystyle \sum_{f \in \widehat{G}}f(a) = \begin{cases}n & (a=1) \\ 0 & (a \neq 1)\end{cases}
が成り立つ。

証明. 一つ目の式を示せば十分である(二つ目は双対を取ればよい)。fが自明指標の場合は自明なので、非自明指標であるとする。このとき、b \in Gであってf(b) \neq 1であるようなものが存在し、

\displaystyle f(b)\sum_{a \in G}f(a) =\sum_{a \in G}f(ab) = \sum_{a \in G}f(a)

が成り立つ。よって、

\displaystyle (f(b)-1)\sum_{a \in G}f(a)

から、和が0であることが従う。 Q.E.D.

Dirichlet指標

定義2 nを自然数とする。写像\chi \colon \mathbb{Z} \to \mathbb{C}nを法としたDirichlet指標であるとは、

  1. \chi (a) = \chi (b), \ \ (a \equiv b \pmod{n})
  2. \chi (ab) = \chi (a) \chi (b), \ \ ({}^{\forall}a, b \in \mathbb{Z})
  3. \chi (a) = 0 \Longleftrightarrow (a, n) \neq 1

が成り立つときにいう。nを法とする自明なDirichlet指標とは、(a, n)=1なる任意のaに対して\chi (a)=1なる指標\chiのことをいう。

位数\varphi (n)の有限アーベル群(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}を考えます(\varphi (n)はEulerのトーシェント関数)。(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}の指標f \in \widehat{(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}}を任意にとったとき、fからDirichlet指標\chi_f

  • \chi_f(a) := f(a \bmod{n}), \ \ (a, n)=1
  • \chi_f(a) := 0, \ \ (a, n) \neq 1

と定義することができます。nを法とするDirichlet指標全体のなす集合を\mathcal{DC}(n)とすると、

\chi_{\bullet}\colon \widehat{(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}} \to \mathcal{DC}(n)\ ; \ \ \ f \mapsto \chi_f

は全単射です(容易に確認出来る)。よって、命題1よりnを法とするDirichlet指標は\varphi (n)個存在することが分かります。nを固定して考えるとき、それらを

\chi_1, \chi_2, \dots, \chi_{\varphi (n)}

と表すことにしましょう(ただし、\chi_1は自明なDirichlet指標とする)。

定義3 \chi \in \mathcal{DC}(n)に対して、\overline{\chi} \in \mathcal{DC}(n)
\overline{\chi}(a) := \overline{\chi (a)}
によって定める。ただし、バーは複素共役を表す。

命題4 (Dirichlet指標の直交関係式) nを法とするDirichlet指標に関する次の直交関係式が成立する(ただし、anと互いに素であると仮定する):
\displaystyle \sum_{i=1}^{\varphi (n)}\overline{\chi_i}(a)\chi_i(b) = \begin{cases} \varphi(n) & (a \equiv b \pmod{n}) \\ 0 & (a \not \equiv b \pmod{n}).\end{cases}

証明. 全単射\chi_{\bullet}と命題3から従う。\xi \in \mu_mに対して、\overline{\xi}=\xi^{-1}であることに注意。 Q.E.D.

*1:有限アーベル群G, Hに対して、\widehat{G\times H} \simeq \widehat{G}\times \widehat{H}が成立。