Fermatの最終定理に関するSophie Germainの定理とその証明を解説します。
前回の記事でSophie Germainによるグランドプランが失敗に終わったことを紹介しました:
しかし、彼女は転んでもただでは起きません。
奇素数を固定します。グランドプランは「非隣接条件を満たすようなの補助素数の無限性を示そう」というもので、事実は「有限個しか存在しない」というものでした。そこで、彼女が到達したのは
「非隣接条件にもう一つ条件を加えたの補助素数が一つでも存在すれば、FLT()のファーストケースは解決する」
というものです。まず、Sophie Germain以降、FLT()はファーストケースとセカンドケースに分けて考えられることが多いです。
ファーストケースとセカンドケースでは難しさが異なり(セカンドケースの方が難しい)、成果が少なかった時代においては、ファーストケースだけでもとりあえず解ければ大きな進展であると考えてよいでしょう。
そうして、グランドプランは失敗に終わったものの、Sophie GermainはFLT()のファーストケースを解決するに関する十分条件を与えたのです。これは立派な定理であると言え、FLT研究における最初のブレイクスルーでした。
定理を具体的に述べると次のようになります。実際にはファーストケースよりも強いことを示しています:
文献によってはに対する結果はLegendreによるものとされることもあるそうですが、Sophie Germainは確かにに対する結果を得ており、そのことをLegendreも明記しているとのことです。
Sophie Germainは定理の仮定を満たすような補助素数を具体的に計算することにより、未満の奇素数に対してはファーストケースが成立することを確認しています。
次の系がSophie Germainの定理と呼ばれることが多いです:
これを言うには、がSophie Germain素数であるときにが定理の仮定を満たすようなの補助素数であることを示せば十分です:
とする。このとき、なので、Fermatの小定理によりで割り切れないような任意の整数は
すなわち、を満たす。これより、とは成り得ないことがわかり、はにおける冪剰余ではない。また、が非隣接条件を満たさなければ
を満たすようなで割り切れない整数が存在することになるが、
と言っていて、それはあり得ない。 Q.E.D.
定理の証明
奇素数に対して定理の仮定が満たされ、でない整数がを満たしていると仮定する。FLTでは毎度の如く、はどの二つをとっても互いに素であると仮定してよい。
とおく。
証明. とは異なる素数がとを割り切ると仮定する。このとき、であるから
を得る。であることとであることからとなり、と合わせると。これはが互いに素であるという仮定に反する。残りの場合も同様。 Q.E.D.
証明. がを割り切らないと仮定して背理法で証明する。
であり、であることから主張1よりとは互いに素であることがわかる。よって、整数が存在して
が成り立つ。同様にして、整数が存在して
が成り立つ。を定理の仮定を満たすようなの補助素数とする。非隣接条件を満たすことから、はの少なくとも一つを割り切る(前記事の補題1)。としても一般性を失わない。すると、
となるので、非隣接条件からの少なくとも一つはで割り切れることがわかる。もし、であれば、もで割れることになりが互いに素であることに反する。よって、。同様に。したがって、でなければならない。
なので、。これより
一方、であることから、はにおける冪剰余である。ももでは割れないのだから、②よりは冪剰余となる。これはに関する定理の仮定に反する。 Q.E.D.
主張2によりはのいずれかを割り切るが、であると仮定しても一般性を失わない(すると、はでは割れない)。この仮定のもとで次が成り立つ:
証明. とおく。すると、
と展開できるが、Fermatの小定理よりであるから、
がわかる。これはすなわち、はでは割り切れるがでは割り切れないことを意味する。従って、および主張1より整数が存在して
が成り立つことが分かる。一方、①はこの場合にもそのまま成り立つ。すると、
であり、これはを導く!*1
およびがわかったので、
これはを示している。 Q.E.D.
以上でSophie Germainの定理の証明が完了します。
参考記事
R. Laubenbacher, D. Pengelley, "Voici ce que j'ai trouve": Sophie Germain's grand plan to prove Fermat's Last Theorem.
C. Alkalay-Houlihan, Sophie Germain and Special Cases of Fermat’s Last Theorem.
以下の記事でSophie Germain素数を取り扱ったことがあります。
*1:一見、からを導いており、「そんな馬鹿な。。」と思われるかもしれませんが、証明は簡単です。Fermatの小定理よりからが導かれますが、すなわち、なる整数が取れるので、これの乗を二項展開すればわかります。