Sophie Germainは1776年4月1日にパリで生まれた女性数学者です。
彼女のよく知られた仕事はFermatの最終定理(FLT)への貢献です。彼女がFLTへ挑戦した時点ではの場合しか証明されていませんでした。
なお、FLT()を証明したのはEulerでFLT(
)を証明したのはFermatです。証明は
の付録で読むことができます。歴史的には1823年にLegendre、1825年にDirichletがFLT()を、1839年にLameがFLT(
)を証明しています。
Sophie Germainは個別のに対するFLT(
)を解くのではなく、全ての素数でFLTを解決することを目論みました。この記事では彼女の"グランドプラン"とその失敗について解説します。
Sophie Germainのグランドプラン
を奇素数とします。このとき、
が
の補助素数であるとは、
が素数であり、なおかつ或る正整数
で
と書けるときに言います。
例1) の補助素数
は非隣接条件を満たすが、補助素数
は非隣接条件を満たさない。
例2) の補助素数
は非隣接条件を満たすが、補助素数
は非隣接条件を満たさない。
Sophie GermainはFLTを解決するためのグランドプランを1819年3月12日のGaussへの手紙に綴っています。グランドプランの最終目標は次を証明することでした。
実際、この最終目標が達成されるとFLTが解決することを彼女は証明しています。
証明. がいずれも
で割り切れないと仮定しよう。
を
の
における逆元とする*1。このとき、
が成り立ち、と
はともに
で割り切れないため、
は非隣接条件を満たさないことになる。これは矛盾。 Q.E.D.
グランドプランによるFLTの証明. を奇素数とし、
を
を満たすような整数とする。最終目標が達成されれば、補題1によって
のうち少なくとも一つは無数の素数で割り切れることになる。それに耐え得る整数など
しか存在しない。つまり、
は非自明な整数解を持ち得ない。 Q.E.D.
グランドプランの失敗
残念ながら、Sophie Germainはの時点で最終目標は破れることをLegendreへの手紙において自身で示してしまいました。それどころか後になって任意の奇素数
に対して非隣接条件を満たすような補助素数は有限個しか存在しないことが証明されています(Libri, Pellet, Dickson)。つまり、グランドプランは失敗に終わったのです。この記事では
の場合の証明を紹介します。
証明. を
の中の一つとする。このとき、合同式
が整数解を持つための必要十分条件は
が成り立つことである。実際、
であれば
と計算できる。逆にであるとしよう。
のときは自明なので
とする。
を
に関する原始根とする*2。 このとき、或る整数
が存在して
と書けるので、
となる。よって、
であり
は
の倍数であることがわかる。つまり、
は解を持つことがわかった。このことによって、
における
冪剰余であるような
の個数は
を満たす
の個数に一致することがわかった。
を
における原始根とすると、
が
乗すると
で
と合同になる相異なる全ての剰余類になっているので、その個数は
個であることがわかる。 Q.E.D.
証明. を
より大きい素数とし、
の中に隣接する立方剰余(CR)を含まないと仮定して背理法で証明する。非立方剰余をNCRと表す。
更にがCR, NCR, CRという並びも含まない場合. 補題2より
の中にCRは丁度
個存在する。CRとCRの"間"が
個あるが、各"間"には少なくとも二つのNCRがあるので
個のNCRが必要である。実際には
個のNCRが存在するので、残り2個のNCRはどこかの"間"に分布することになる。可能性としては
- 三つのNCRを挟むような"間"が二つある
- 四つのNCRを挟むような"間"が一つだけある
のいずれかの状況になる(両端は必ずCR)。
さて、なので
と
は必ずCRである。仮定により
はNCR。
もNCRである。何故ならば、もし
がCRであれば
もCRとなってしまうからである。そして、
はCRである。何故ならば、もし
がNCRであれば、
は絶対にCR(NCRが5連続することはない)。すると、二つのCRである
と
の間にNCRになり得る数が
しか存在せず、
という並びになって仮定に矛盾するからである。つまり、
CR | NCR | NCR | NCR | CR | NCR | NCR | CR |
となっており、先ほどの二つの可能性における1.の状況になっていることがわかった。また、自明の事実として、CRはにおいて対称に分布するので、CRは
となっている。特に、と
以外のCRは
で割った余りが
であることに注意。
より大きい最小の素数は
であるが、既に見たように
は非隣接条件を満たさない。よって、
のケースのみを考えればよい。このとき、
はCRであるが、これは
の倍数である。すなわち、矛盾が導かれた。
がCR, NCR, CRという並びを含む場合. CR, NCR, CRという並びを一つとって、二つのCRのうち大きい方を
、小さい方を
とする。
である。
を
の原始根とする。
は背理法の仮定によりNCRなので或る整数
が存在して
−①であることに注意。
であることを示す。もし、
であれば、
よりとなる。これは
を意味するから、
となって矛盾する。
従って、は
で可逆であり、或る
から
の間の整数
が存在して
が成り立つ。ここで、が
の倍数であれば
においてと
はともにCRなので、
で考えれば隣接するCRが存在することになる。従って、
は
の倍数ではなく、或る整数
が存在して
と書けることがわかった。実は①と②の符号は一致している。というのも、もし一致していなければ、
となってがCRになってしまう。すると
においてと
はともにCRなので、
で考えれば隣接するCRが存在することになる。従って、①、②は符号が一致しており、
を得る。より
であり、この式はやはりで考えれば隣接するCRが存在することを言っている。これで、全ての場合において矛盾に到達した。 Q.E.D.
次回はSophie Germainの定理を解説します。
*1:逆元の存在は integers.hatenablog.com で証明しています。
*2:原始根の存在は integers.hatenablog.com で示しています。