ですから、を自然数の分割数としましょう。すなわち、を例えば非増加の順に自然数の和として分割するときの分割*1の総数がでした。
より、が分かります。便宜的に、負の整数に対してとしておきましょう。の母関数は
で与えられたことを思い出しておきます。Ramanujanは分割数の定義からは予想できそうにもない、の美しいarithmetic propertyを見出しました。
など確かに成立していることを数値例で確かめることができます。映画はまだ見ていないので内容は知らないのですが、この定理の証明ぐらいは紹介するのではないか?と期待しています*2。
Ramanujanは
It appears that there are no equally simple properties for any moduli involving primes other than these three.
と述べています。
と素な任意の整数に対して、或る整数が存在して
が任意の整数に対して成り立つことが示されていますが、としても
が全ての整数に対して成立するというのが実例の一つなので、Ramanujanの発見した合同式と比べると複雑と言えます。そこで、素数に対して
が任意の整数に対して成立するような整数が存在するかを問うことにしましょう。かようなが存在するときをRamanujanの奇跡の素数と呼ぶことにします*3。
このとき、Ramanujanの言葉は次のような形で実現されました:
というわけで、この記事ではこの定理の証明の概略を
S. Ahlgren, M. Boylan, "Arithmetic properties of the partition function", Invent. Math., 153(3) (2003), p. 487-502.
に従って紹介することにしましょう。以下、ですます調からである調に転調します。
なのではRamanujanの奇跡の素数ではない。更に、なのでもRamanujanの奇跡の素数ではないことが分かる。以下、ずっととして固定しよう(なる条件を課すこともある)。は自然数となる。
Ramanujanの奇跡の素数については、Ahlgren-Boylanの定理が証明されるよりも前に次の重要な結果が証明されていた:
この定理からはで一意に決まることが分かる。よって、Ahlgren-Boylanの定理を証明するには
がのときに成立することを示せばよい。をRamanujanのデルタとし、とする。すると、の展開と分割数の母関数表示から
が得られる。よって、作用素を
と定めれば
が得られたことになる。これを元にに対して(1)を示すのであるが、モジュラー形式の-weightに関する議論を用いて証明する。
を偶数として、をに対する重さの正則モジュラー形式全体のなす線形空間とする。Fourier係数がに属するようなもののなす加群をとして、に対してを で定義する。そうして、
とする。このとき、に対して、の-weight を
と定義する。がモジュラー形式でない場合でも、で一致するようなモジュラー形式の持ち上げが存在すればを定義できる。
である。、、ならばが成り立つことはの作用を見れば分かる。また、なる性質を持つ(は自然数)。
を
と定義し、係数で考えたものを同じくで表すことにする。
が正の偶数のときにEisenstein級数
を考える。は関-Bernoulli数ではの約数の乗和。これは、ならモジュラー形式である。
が整数のときに に対して、によってを定める(に依存)。このとき、の作用を計算すればが確かめられる。von-Staudt−Clausenの定理およびKummerの合同式よりおよびが成り立つので、
が得られる。従って、であれば、ではに持ち上げが存在する。これで、補題1の不等式までは証明できた。等号成立条件については省略。
と計算できる。なので、
である。、とする。の基底として、展開の先頭項がであるものからなるものが取れるので、
でなければならない。一方、次元公式よりなのでとなって補題2の証明が完了する。
なので、補題1よりが成立。もう一度補題1を用いると
が成り立ち、でなければ等号が成立する。そのとき、である。
なので、
かつと仮定する。このとき、はで定数*4。定数項をみればと分かる。すると、ということになるが、なので矛盾。これで補題3の証明完了。只今より、として(1)を証明する。背理法で証明するので
と仮定する。すると、幾分前に示した合同式よりということになる。故に補題3より
さて、と仮定すると補題1より
を得るが、これはということだから補題2に矛盾。しからば
と言える。なので補題1を繰り返せばが得られ、これにもう一回補題1を適用すると等号が成立しない場合で、或るに対して
が成り立つ(の話を思い出そう)。補題2と合わせると
となるが、なので
に至る。(2)よりであってなる最小のを取れる。(3)に補題1を適用すれば
およびよりと確定する。(3)より
との-weightを決定できる。展開は
である。がの倍数であることに注意して、の基底を
と選べば、直前で得られた情報から
なる合同関係が成り立たなければならないことが分かる。
なので、の定義から
であるが、一方
である。従って、比較すれば
が得られる。これより、が得られ、ということになる。これは不成立*5。