インテジャーズ

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数、特に整数に関する記事。

ロジェ・アペリーと奇跡の証明〜数学界を震撼させた伝説の老兵〜

この記事ではApéryの定理

Apéryの定理 \ \zeta (3)は無理数である。ここで、
\displaystyle \zeta (3) = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^3}=1.20205690315959428539\dots
である(Apéry定数と呼ばれることもある)。

のApéryによる証明に纏わる歴史および証明の解説を行います。

アペリー・ショック

フランスはマルセイユのルミニーで1978年の6月に開かれた研究集会
"Journées Arithmétiques"

その集会にて、当時61歳(!)であるApéryが"Sur l'irrationalité de \zeta (3)"なるタイトルの伝説の講演を行いました*1

Apéryが\zeta (3)の無理性を証明したと主張するのではないかと噂も流れていたようですが、懐疑的に思っている人の方が多かったようです。講演後も、彼の知名度のなさや年齢、
あるいはその講演の内容(どうやら分かりにくかったらしい)から即座には受け入れられませんでした。

しかし、Cohenは彼の証明が正しいと信じたようで、PoortenおよびLenstraの3人のディスカッションにおいて、CohenはApéryの主張する殆どの部分が実際に正しいことを証明したのです。ある一箇所を除いては。。。

その一箇所というのはApéryの証明において最もミステリアスな部分であり、しかしながら数値レベルではApéryの言っていることはどうやら正しいのです!

後述するように、それもApéry講演の2ヶ月後にはZagierとCohenによって証明され、\zeta (3)の無理性はApéryによって証明されたということが共通認識となりました。


数学において最重要関数と言われることもあるRiemannのゼータ関数\zeta (s)*2。その特殊値も極めて重要な研究対象であり、最初の研究成果はEulerによるバーゼル問題*3の解決

\displaystyle \zeta (2) = \frac{\pi^2}{6}

でした。その後、Euler自身によって正の偶数における値\zeta (2n)\pi^{2n}の正の有理数倍であることも証明されました。

\displaystyle \zeta (2n) = \frac{(-1)^{n-1}2^{2n-1}B_{2n}}{(2n)!}\pi^{2n}.

すると、\piの数としての性質が分かれば\zeta (2n)の数としての性質についても何かを言える場合があり、例えば\piは超越数であることが知られているので*4\zeta (2n)も超越数となります。

一方、正の奇数における\zeta (2n+1)についてはあまり多くのことは分かっておらず、

\displaystyle \zeta (3) = \frac{2\pi^2}{7}\log 2 + \frac{16}{7}\int_0^{\frac{\pi}{2}}x\log \sin x dx

などの表示式*5は得られていても、無理性などの数としての性質は何一つ分かっていない状況でした。

この何も分かっていない状況においては、挑戦する数学者も相当怖かったはずです。というのも、当時の数学では100年たっても解きようのない難問である可能性だってあったからです(時代の流れで解けるはずだという確信を持てる研究を除けば、この怖さは未解決問題に取り組む全ての数学者が味わうものだと思います)。

このような状況にも関わらず、Apéryはこの問題に一人果敢に取り組み、\zeta (3)が無理数であることを証明したのです。更に、WilesがFermatの最終定理を解決したときなどとは異なり、Eulerの時代には既に知られていたような初等的な議論のみで証明しているため、当時の数学者達に相当の驚きをもって迎えられました。

これが、世に言う"アペリー・ショック"です。

また、Apéryの証明が謎めいているのは(Apéryの結果を受けて相当の数の数学者が取り組んだものと想像できますが)、一般化が容易ではないというか全然できないのです。進展らしい進展と言えるのは

定理 (Rivoal 2000) \zeta (5), \zeta (7), \zeta (9), \zeta (11), \zeta (13), \dotsの中には無理数が無数に存在する。

定理 (Zudilin 2001) \zeta (5), \zeta (7), \zeta (9), \zeta (11)の少なくとも一つは無理数である。

のみです。

全然進展のない分野に大きなニュースが舞い降りたにも関わらず、結局その分野はろくに進展していないという状況にあるのです*6。例えば、\zeta (3)の超越性や\zeta (5)の無理性*7は未だに解決の兆しもないのです。

第二次アペリー・ショックが待ち望まれています。


Apéryの生涯

Roger Apéry (1916年11月14日 - 1994年12月18日)

父はコンスタンティノープル出身のエンジニアGeorges Apéry (1887-1978)で、彼はピアノの先生であるJustine Vander Cruyssen (1892-1965)とルーアンで結婚。

Rogerは一人っ子でルーアン生まれ。
1920-1926の4年間はリール。
1926からパリに移り住む。
1928にはEuclidの平行線公理に魅せられたという。
リセ・ルイ=ル=グランで勉強し、1932年頃には代数幾何に傾倒する。
1935年に一度試験に失敗し、翌年エコール・ノルマル・シュペリオールに入学。
1947年 代数幾何とイデアルに関する学位論文を提出(イタリア学派の代数幾何だったらしい)。

同年Denise Bienaiméと結婚。
3人の息子がいる。Denys (1948年生まれ)、François (1950生まれ)、 Robert (1953生まれ)。
Françoisは数学者になる。
Apéryの結婚生活については順風満帆とはいかず、1971年に離婚。1972年にはClaudine Lamotteと再婚し、1977年に再度離婚。

レンヌで2年働いた後、1949年からカーン大学勤務。
1953年から教授。

50年代からは数論に興味を持ち、例えばRamanujan-Nagell型方程式の特殊な場合である

x^2 + A = p^n

を研究し(A > 0pは素数)、A=7, p=2の場合を除くと解の個数は2個以下であることなどを証明している。

数学の哲学へも興味があり、幾つかの論文を執筆している。
圏論を推進した最初のフランス人数学者の一人でもあるらしい。

1994年にパーキンソン病のため死去。パリにある両親と同じ墓に埋葬され、公式

\displaystyle \frac{1}{1} + \frac{1}{8} + \frac{1}{27} + \frac{1}{64} + \cdots  \neq  \frac{p}{q}

が刻み込まれている。

f:id:integers:20160804040318j:plain


Apéryの論文に書かれていること

Apéry自身による論文[A]があり、彼の結果を述べる際には大抵引用されますが、驚くべきことにたったの3ページしかありません。この論文は最善を尽くして書かれたわけではなく、通常の数学論文の水準の証明は一切ありません。

書かれていることは3つで、

  1. どのような手順で無理性を示すか
  2. \zeta (2)の場合のその手順
  3. \zeta (3)の場合のその手順

です。特に、3つ目に何が書かれているかを1つ目の内容と若干ミックスさせて再現すると大体次のようになります:

\displaystyle \frac{1}{n^3} \equiv \frac{1}{n(n^2-1)}-\frac{1}{n(n^2-1)(n^2-4)}+\cdots + \frac{(-1)^k(k!)^2}{n(n^2-1)\cdots (n^2-(k+1)^2)}+\cdots

によって、有理数列u_{k, n}を構成する(0 \leq k \leq n)。それは各kについてn \to \infty\zeta (3)に収束する数列で、kが増えるほど収束スピードは速くなっていき、u_{0, n}は収束スピードの遅い級数 

\displaystyle \zeta (3) = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^3}

を与え、対角に進むu_{n, n}は収束スピードの速い級数

\displaystyle \zeta (3) = \frac{5}{2}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n^3\binom{2n}{n}}

を与える*8p_n \leq e^{3(1+\varepsilon)n}なる正整数列p_nがあって、

\displaystyle p_nu_{k, n}\binom{n+k}{k} \in \mathbb{Z}

が成り立つ。しかしながら、これだけでは無理性はまだ示せない(分母が大きすぎる)。実際にはこれらのnに依存する正整数係数線形結合によって、分母が大きすぎない、しかし同じく\zeta (3)に収束する近似列v_n/u_nを上手く構成する。

整数列u_n : \ \ \ \ \ \  (1, 5, 73, 1445, 33001, \dots )

有理数列 v_n : \ \ \ \ \ \  \displaystyle (0, 6, \frac{351}{4}, \frac{62531}{36}, \dots )

これらは共に漸化式

(n+1)^3a_{n+1}-(34n^3+51n^2+27n+5)a_n+n^3a_n=0

を満たす。そうして、

\displaystyle \lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{u_n} = \lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{v_n} = \lambda = 17+12\sqrt{2},

\lambda > e^3

なので、\zeta (3)は無理数である。



Riemannの1859年の論文で証明の概略のみが書かれている定理の証明を復元することに匹敵するぐらい*9、Apéryの論文は解読不能な書かれ方をしています。

しかしながら、幸いにも我々にはPoortenによるApéryの証明に関する報告論文[P]があるので、この記事ではそれに沿ってApéryの証明を完全に理解することを目標にしましょう。Poortenに書かれている以上に計算の詳細を書くことによって、この記事の存在価値が少しはあることを祈ります。全て読めば、Apéryの論文が一体何を言っているのかわかるようになるでしょう。


ちなみに、Apéry論文に書いてある数値で近似値を出すと、

\begin{align}\frac{0}{1} &= 0 \\ \frac{6}{5} &= 1.2 \\ \frac{351/4}{73}&=\frac{351}{292}≒1.20205479452 \\ \frac{62531/36}{1445} &=\frac{62531}{52020}≒1.20205690119 \end{align}

となります。この次は

\displaystyle \frac{11424695/288}{33001}=\frac{11424695}{9504288}≒1.20205690315782

です。定義通りの計算

\displaystyle 1+\frac{1}{2^3}+\frac{1}{3^3}+\frac{1}{4^3}+\frac{1}{5^3}+\frac{1}{6^3}+\frac{1}{7^3}+\frac{1}{8^3}+\frac{1}{9^3}+\frac{1}{10^3}≒1.19753198567

に比べて非常に収束が速いことが見て取れます。


無理数であることを示すには何を示せばよいか

与えられた実数が無理数であることを証明する方法には幾つかの方法がありますが*10、基本的には有理数と無理数を分かつものは
integers.hatenablog.com
の冒頭でも述べたように、高い近似精度を持った近似列があるかどうかです。

つまり、十分に収束の速い近似列を与えることができれば無理数であることを証明できます。この観点に基づいた証明法を、次のようにまとめることができます*11

補題1 \xi \in \mathbb{R}とする。整数列\{a_n\}, \ \{b_n\}およびI_n:=b_n\xi-a_nに関する次の仮定を考える:

  • (Hyp1) \displaystyle \lim_{n \to \infty}I_n = 0
  • (Hyp2) 無数の自然数nに対して、\displaystyle I_n \neq 0

(Hyp1)と(Hyp2)が成り立つような整数列\{a_n\}, \ \{b_n\}が存在すれば、\xiは無理数である。

証明. (Hyp1)と(Hyp2)が成り立つような整数列\{a_n\}, \ \{b_n\}が存在すると仮定する。\xiが有理数であると仮定して矛盾を導けば良い。そこで、p \in \mathbb{Z}, \ q \in \mathbb{N}が存在して、\xi = p/qと書けたと仮定しよう。(Hyp1)および(Hyp2)より、十分大きい自然数nI_n \neq 0かつq|I_n| < 1が成り立つようなものが存在するので、

0 < q|I_n| = |pb_n-qa_n| < 1

を得る。しかし、pb_n-qa_nは整数なので、01の間に整数が存在することになってしまい矛盾が生じる。 Q.E.D.

仮定(Hyp1)および(Hyp2)は、補題に現れる数列による近似

\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{a_n}{b_n} = \xi

が非常に速い収束スピードを持つことを意味しているのです。

Apéryによる\zeta (3)の無理性証明も近似列構成によるものですが、いきなり(Hyp1)および(Hyp2)を満たすような整数列二つを与えるのは難しいため、次の補題のように「分母をコントロールできる良い有理数列から良い整数列を作る」という形で証明します:

補題2 \xi \in \mathbb{R}とする。有理列\{p_n\}, \ \{q_n\}およびI_n:=q_n\xi-p_nに関する次の仮定を考える:

  • (Hyp ⅰ) \varepsilon > 0が存在して、|I_n| < \varepsilon^nが成り立つ。
  • (Hyp ⅱ) 無数の自然数nに対して、\displaystyle I_n \neq 0
  • (Hyp ⅲ) ある自然数列\{\delta_n\}が存在して、\delta_n p_n, \ \delta_n q_n \in \mathbb{Z}が成立する。
  • (Hyp ⅳ) \Delta > 0およびC > 0が存在して、\delta_n < C\Delta^nが成立する。

このとき、(Hyp ⅰ)〜(Hyp ⅳ)が成り立つような有理数列\{p_n\}, \ \{q_n\}が存在して、\varepsilon \Delta < 1ならば、\xiは無理数である。

証明. a_n := \delta_np_n, \ b_n := \delta_nq_nとすれば補題1の状況になる。 Q.E.D.


数には同じ数であっても一般に様々な表示法があります。

1=0.9999999999\cdots

などもその一つと言えるでしょう。

さて、Riemannゼータの特殊値の無理性を示すことが何故難しいのかというと、定義する級数の収束が極めて遅いことに起因します。無理数であるならば必ず収束スピードの速い表示を持ちますが、収束スピードの遅い表示を持ってはいけないわけではないのです。eなんかは

\displaystyle e =1+ \frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+\frac{1}{4!}+\cdots

をその定義と採用すれば、定義そのものが極めて速い収束スピードを持つ級数なのでeが無理数であることを示すのは容易いのです。

\zeta (2)の収束スピードが遅く、その近似値を求めることが容易でなかった歴史はバーゼル問題についての記事に書きました。

\zeta (2n)の場合はアペリー・ショックの節で述べたEulerの定理によって円周率を用いた表示を持ち、円周率の方は無理性を証明しやすいので\zeta (2n)の無理性は分かります*12。しかしながら、\zeta (2n+1)の方は収束スピードの速い級数表示を見つけることが全く容易ではないのです。

このように、無理性証明は宝探しのような側面を持つのですが、Apéryは\zeta (3)の場合にその宝を発見したのです!


証明の概略

この節ではApéryの論文に曖昧に書いていることをもっと正確に書き、証明の概略を理解することを目標とします。この節で証明が書かれていない事実については次節で証明を与えます(ある一つの主張を除いて。それについては次々節を参照してください)。証明を後回しにするものについては(*)と記しをつけておきます。


整数列\{u_n\}および有理数\{v_n\}

\begin{align} u_n &:= \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{n+k}{k}^2,\\ v_n &:= \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{n+k}{k}^2u_{k, n}\end{align}

と導入します。u_nはApéry数と呼ばれています:
integers.hatenablog.com

また、u_{k, n}

\displaystyle u_{k, n} := \sum_{m=1}^n\frac{1}{m^3}+\sum_{m=1}^k\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}}

で定義されます。この\{u_n\}, \ \{v_n\}が補題2の仮定を全て満たすことを確認すれば、\zeta (3)が無理数であることが証明されます。


d_n := \mathrm{lcm}[1, 2, \dots, n]とすると、\displaystyle 2u_{k, n}\binom{n+k}{k} \in \frac{1}{d_n^3}\mathbb{Z} ー(*)が成り立つので、a_n := 2d_n^3 v_n, b_n := 2d_n^3 u_nで定義される数列\{a_n\}, \ \{b_n\}は整数列になることが分かります。

また、記事
integers.hatenablog.com

で証明したように、十分大きいnに対してd_n < 3^nが成り立つので、\delta_n = 2d_n^3, \Delta = 27として補題2の(Hyp ⅲ)および(Hyp ⅳ)が成り立つことが確認できました*13


次に、(驚くべきことに!!!)数列\{u_n\}および\{v_n\}は同じ漸化式

(n+1)^3u_{n+1} - (34n^3+51n^2+27n+5)u_n+n^3u_{n-1}=0

(n+1)^3v_{n+1} - (34n^3+51n^2+27n+5)v_n+n^3v_{n-1}=0

を満たしますー(*)。それぞれに\times v_n, \ \times u_nとした

(n+1)^3u_{n+1}v_n - (34n^3+51n^2+27n+5)u_nv_n+n^3u_{n-1}v_n=0

(n+1)^3u_nv_{n+1} - (34n^3+51n^2+27n+5)u_nv_n+n^3u_nv_{n-1}=0

の辺々を引くことにより(下から上を引く)、

(n+1)^3(u_nv_{n+1}-u_{n+1}v_{n}) = n^3(u_{n-1}v_{n}-u_{n}v_{n-1})

が得られます。従って、

\displaystyle u_{n-1}v_{n}-u_{n}v_{n-1} = \frac{u_0v_1-u_1v_0}{n^3} = \frac{6}{n^3}

が分かります。

\displaystyle A_n := \frac{v_n}{u_n}-\zeta (3)とおきます。
このとき、\{u_n\}, \ \{v_n\}は実際に\zeta (3)の近似列になっており、

\displaystyle \lim_{n \to \infty}A_n = 0 ー(*)

が成り立ちます。よって、

\displaystyle A_n-A_{n-1} = \frac{v_n}{u_n}-\frac{v_{n-1}}{u_{n-1}} = \frac{u_{n-1}v_n-u_nv_{n-1}}{u_{n-1}u_n} = \frac{6}{n^3u_{n-1}u_n}

と合わせると、望遠鏡級数によって

\displaystyle \sum_{k=n+1}^{\infty}(A_k-A_{k-1}) = -A_n

なので、

\displaystyle \zeta (3)-\frac{v_n}{u_n}  = \sum_{k=n+1}^{\infty}\frac{6}{k^3u_{k-1}u_k} \leq \frac{1}{u_n^2}\sum_{k=n+1}^{\infty}\frac{6}{k^3} \leq \frac{6\zeta (3)}{u_n^2} ー★

と評価できることがわかりました(u_nが単調増加であることに注意)。特に、最初の級数表示によって補題2の(Hyp ⅱ)の成り立つことが示されました。

\{u_n\}の漸化式は

\displaystyle \left( 1+\frac{1}{n} \right)^3u_{n+1} - \left( 34+\frac{51}{n}+\frac{27}{n^2}+\frac{5}{n^3} \right)u_n +u_{n-1} = 0 ー(♩)

と変形でき、多項式x^2-34x+11より大きい方の根が

\lambda := 17+12\sqrt{2} = (1+\sqrt{2})^4

であることから、u_n

\displaystyle u_n = \lambda^ne^{o(n)}, \ \ (n \to \infty) ー(*)

なる漸近挙動を示します(eの肩に乗ってるのは"スモール・オー"です)。

冪乗と指数関数の速度関係に注意して、\nu > 0に対して

\displaystyle 0 < u_n\zeta (3)-v_n \leq \frac{6\zeta (3)}{u_n} = 6\zeta (3)\lambda^{-n}e^{o(n)} < (\lambda^{-1} + \nu)^{n} = \{(\sqrt{2}-1)^4+\nu\}^n

が十分大きいnに対して成立することが、★より分かります。すなわち、補題2の(Hyp ⅰ)が示されました。

(\sqrt{2}-1)^4\times 27 = 0.794805791\dots < 1

なので、\nu > 0を十分小さくとることにより、数列\{u_n\}, \ \{v_n\}は補題2の全ての仮定を満たすことが示されました。すなわち、\zeta (3)が無理数であることが結論づけられます。


証明の細部

それでは証明を後回しにしていた細部を埋めましょう。

補題3 \ \ \ \displaystyle 2u_{k, n}\binom{n+k}{k} \in \frac{1}{d_n^3}\mathbb{Z}.

証明. 明らかに\displaystyle \sum_{m=1}^n\frac{d_n^3}{m^3} \in \mathbb{Z}なので、m \leq k \leq  nに対して

\displaystyle \frac{d_n^3\binom{n+k}{k}}{m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}} \in \mathbb{Z}

を示せばよい。それは任意の素数pに対して

\displaystyle \mathrm{ord}_p\left( \left. m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}\right/\binom{n+k}{k}\right) \leq 3\mathrm{ord}_p d_n = 3[\log_pn]

を示すことに他ならない。Legendreの公式より、二項係数のp指数について

\displaystyle \mathrm{ord}_p\binom{n}{m} = \mathrm{ord}_{p}\left( \frac{n!}{m!(n-m)!} \right)= \sum_{i=1}^{[\log_pn]}\left( \left[ \frac{n}{p^i} \right] - \left[ \frac{m}{p^i}\right] - \left[ \frac{n-m}{p^i} \right] \right)

が成り立つ。一般に[x+y]-[x]-[y]=0, 1であることと、xが整数ならば[x+y]-[x]-[y]=0であることは容易に確かめられるので、

\displaystyle \mathrm{ord}_p\binom{n}{m} \leq [\log_pn] - \mathrm{ord}_pm

と評価できる。\displaystyle \left. \binom{n+k}{k} \right/ \binom{n+m}{m} = \left. \binom{n+k}{k-m} \right/ \binom{k}{m}に注意して、

\begin{align} \mathrm{ord}_p \left( \left. m^3\binom{n}{m} \binom{n+m}{m} \right/ \binom{n+k}{k} \right) &= \mathrm{ord}_p \left( m^3\binom{n}{m} \binom{k}{m} \left/ \binom{n+k}{k-m} \right. \right) \\ &\leq 3\mathrm{ord}_pm+[\log_pn]+[\log_pk] -2\mathrm{ord}_pm \\ &= \mathrm{ord}_pm+[\log_pn]+[\log_pk] \\ &\leq 3\mathrm{ord}_p[\log_pn]\end{align}

が示された。 Q.E.D.

補題4 \ \ \ \displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{u_n}{v_n} = \zeta (3).

証明. \displaystyle \binom{n}{m}\binom{n+m}{m} \geq n^2に注意すると、0 \leq k \leq nに対して

\displaystyle \left| \sum_{m=1}^k\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}} \right| \leq \frac{\zeta (3)}{2}\frac{1}{n^2}

と評価できる。すなわち、kについて一様に

\displaystyle u_{k, n} = \sum_{m=1}^n\frac{1}{m^3} + O(n^{-2})

であるから、

\displaystyle v_n=u_n\left(  \sum_{m=1}^n \frac{1}{m^3} + O(n^{-2}) \right)

となって、両辺をu_nで割ってn \to \inftyとすれば所望の極限公式を得る。 Q.E.D.

命題 u_n = (17+12\sqrt{2})^ne^{o(n)}, \ (n \to \infty) .

証明. (♩)および多項式x^2-34x+1の根が17\pm12\sqrt{2}であることより、Poincaréの定理
integers.hatenablog.com
から

u_n = \pm(17\pm12\sqrt{2})^ne^{o(n)}

が成り立つ。u_nの一般項からu_nは正かつ単調増加なので、複合は共に+となる。 Q.E.D.

Cohenはより詳しい漸近挙動

\displaystyle u_n = \frac{(1+\sqrt{2})^2}{(2\pi\sqrt{2})^{3/2}}\frac{(1+\sqrt{2})^{4n}}{n^{3/2}}\left( 1-\frac{48-15\sqrt{2}}{64n}+O(n^{-2}) \right)

を示しているのらしいですが、私は証明を知りません。


Apéryの驚くべき主張〜Beukersの証明との比較〜

アペリー・ショックの節で述べたようにCohen等若手数学者は当初Apéryの証明において一箇所証明を復元できないクリティカルな箇所がありました。それは

\begin{align} u_n &:= \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{n+k}{k}^2,\\ v_n &:= \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{n+k}{k}^2u_{k, n}\end{align}

\displaystyle u_{k, n} := \sum_{m=1}^n\frac{1}{m^3}+\sum_{m=1}^k\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}}

で定義される数列\{u_n\}, \ \{v_n\}が共に同じ漸化式

(n+1)^3u_{n+1} - (34n^3+51n^2+27n+5)u_n+n^3u_{n-1}=0

(n+1)^3v_{n+1} - (34n^3+51n^2+27n+5)v_n+n^3v_{n-1}=0

を満たすことの証明です*14

しかしながら、彼らはApéryの証明は正しいと確信を得ていました。というのも、二項係数を用いた具体的な式で与えられる一般項を幾つかのnで計算してみると、漸化式において初項u_0=1, u_1=5, v_0=0, v_1=6としたときの数値と確かにことごとく一致するからです。


それにしても、この漸化式を見て「この式が一般項になっているよ」と言われても、「何でそんなことがわかるんだ!!」と言いたくなります。

とりあえず、u_2, \ u_3だけ二通りの計算をしてみましょう:

\begin{align} u_2&=\binom{2}{0}^2\binom{2}{0}^2+\binom{2}{1}^2\binom{3}{1}^2+\binom{2}{2}^2\binom{4}{2}^2\\ &= 1^2\times 1^2+2^2\times 3^2+1^2\times 6^2 \\ &= 1+36+36 = 73\end{align}

漸化式の方では

8u_2-(34+51+27+5)\times 5+1=0

8u_2=117\times 5-1 = 584 = 8\times 73

u_3についても

\begin{align} u_3 &= \binom{3}{0}^2\binom{3}{0}^2+ \binom{3}{1}^2\binom{4}{1}^2+ \binom{3}{2}^2\binom{5}{2}^2+ \binom{3}{3}^2\binom{6}{3}^2 \\ &= 1^2\times 1^2 + 3^2\times 4^2+ 3^2\times 10^2+1^2\times 20^2 \\ &= 1+144+900+400=1445\end{align}

である一方、

27u_3-(34\times 8+51\times 4+27\times 2+5)\times 73+8\times 5=0

27u_3=535\times 73-40 = 39015 = 27 \times 1445

と確かに一致しています!

ところで、\{u_n\}があの漸化式を満たしておきながら整数列であるというのは尋常ならざる事態です。最後にu_{n+1}を計算するステップで残りの部分は必ず(n+1)^3で割り切れるというのですから*15

コンピュータプログラムを書ける方は試しに他の初項で整数列になるものがあるかサーチしてみるのもよいと思います。如何にApéry数が奇跡的であるかが分かることでしょう。


Apéryを信用できない状況において「これが一般項さ」と俄かには信じがたいことを言われ、しかし数値実験してみるとそれがどうやら正しそうだということを初めて知ったときのPoorten達の驚きは果たしてどれほどのものだったのでしょうか。少し引用しましょう:

In Marseille, our amazement was total when our HP-67s*16, calculating \{b_n\}*17 on the one hand from the definition above and on the other hand by the recurrence (2)*18, kept on producing the same values!


今、計算しても驚きの内容なので、彼が報告論文に"miraculous"だとか"fantastic"などと書いてしまう気持ちが分かります。


ここで、一度Beukersの仕事[B]に目を移したいと思います。彼はApéryの証明の直後*19に極めてエレガントな別証明を与えました*20
integers.hatenablog.com

それは


{\small \displaystyle \iint_{\Box^2}\frac{-\log xy}{1-xy}P_n(x)P_n(y)dxdy = \iiint_{\Box^3} \left\{ \frac{x(1-x)y(1-y)z(1-z)}{1-(1-xy)z} \right\}^n \frac{dxdydz}{1-(1-xy)z}} ー(B)


と積分の等式を証明し、左辺の表示から補題2の(Hyp ⅲ)、(Hyp ⅳ)を、右辺の表示から(Hyp ⅰ)、(Hyp ⅱ)を示すというものでした(\Box := [0, 1])。

つまり、ApéryもBeukersも基本的には補題2のレシピに従って\zeta (3)の無理性を証明しています。


今取り扱っている無理性証明は「良い有理近似を与える」ことによる証明法でしたが、それが実際に"良い"ということを補題2に従って証明するには確かめることが5つもあります( (Hyp ⅰ)〜(Hyp ⅳ), \varepsilon \Delta < 1) *21

そして、それらは(整数性証明など)代数的な性質のものであったり、(不等式評価など)解析的な性質のものであったりします((Hyp ⅲ)+(Hyp ⅳ)は代数的、(Hyp ⅰ)は解析的な性質です。(Hyp ⅱ)は代数的に示されることもあれば、解析的に示されることもあります)。

このように、有理近似が良いものであることを示すには、その近似列に代数的側面および解析的側面の二面性を持っていて欲しいのです。

ここで重要になるのが

同一の数の表示方法は一通りではない

ということです。補題2による無理性証明の例を幾つか吟味してみると、考察している有理近似に対して、代数的な性質の証明および解析的な性質の証明がそれぞれ上手く機能するような二通りの表示を与えることによって証明しています。

このように考えると、二つの表示が等しいことを証明するというステップが補題2に基づいた無理性証明の一つのキーポイントになることが了解されます。


Beukersによる\zeta (3)の無理性証明の場合、このキーポイントがすなわち(B)を証明することなのです(左辺が代数的に扱いやすい表示で、右辺が解析的に扱いやすい表示)。


そして、Beukersによる証明が非常にエレガントであると私が感じる一つの理由が、(B)の証明が周期に関するKontsevich-Zagier予想の思想に則っていることです。


KontsevichとZagierは[KZ]において、それまでの数学者が陰に陽に考えていた事柄について、周期の定義を明文化することによって明確な視点を与えました:

定義 周期とは実部と虚部が共に有理数係数有理関数の有理数係数多項式の不等式で与えられるようなEuclid空間内の領域上の絶対収束積分として与えられる複素数のことを言う。

一言で言えば、周期とは("有理的な")積分で書ける数のことを言います。周期全体のなす集合を\mathcal{P}と表すことにすると、

  • \mathcal{P}は可算集合
  • \mathcal{P}\mathbb{Q}代数をなす
  • \overline{\mathbb{Q}} \subset \mathcal{P}
  • \pi, \log 2, \zeta (3) \in \mathcal{P}

などが成り立ちます。すなわち、周期環は全ての代数的数を含みながら、円周率やゼータ値などの重要な超越数(や超越数と予想される数)をも含む可算な新しい数体系なのです。

論文[KZ]も傑作ですが、周期に関する良書が出版されたので、詳しいことについてはそちらを参照してください:
[Y] 周期と実数の0-認識問題-Kontsevich-Zagierの予想-問題・予想・原理の数学-吉永-正彦

この本のメインテーマであるKontsevich-Zagier予想とは、周期に関する次の予想のことを指します(詳しくは[KZ], [Y]を参照のこと):

Kontsevich-Zagier予想 二つの表示で与えられる周期\alpha_1, \alpha_2が実数として等しいならば、等式\alpha_1=\alpha_2を積分に関する線型性・変数変換・Stokesの定理(微分積分学の基本定理)のみを有限回用いること(=積分の基本変形)によって証明できるであろう。

この予想は非常に美しい予想ですが、[Y]のまえがきには

個人的には, Kontsevich-Zagierの予想は, そこに予想としてあってくれるだけで幸せな予想, 解けなくてもよいが, その予想を心の中で唱え, それが予言する世界に思いを馳せるだけで幸せになり, 自分でも何かやりたいという冒険心を書き立てられる予想である.

と書かれています。また、彼らは周期間の等号を証明しようとする際には実際に積分の基本変形で証明せよと提言しています([KZ, Principle 2])。


さて、(B)は各nについて周期の等号になっていることが分かります(注意:左辺はBeukers-Hadjicostasの定理の証明の観点で\logが入っていますが、

\displaystyle \frac{-\log xy}{1-xy} = \int_0^1\frac{dz}{1-(1-xy)z}

なので周期の表示と考えることができます)。そうして、Beukersによる(B)の証明は確かにKontsevich-Zagierの言うとおりに、積分の基本変形のみで証明されています*22

このように、今証明を見直してみると、Beukersによる証明はKontsevich-Zagierの指導原理に従っているところが一つのエレガントさだと感じます(つまり、単発的な証明ではなく、ある種の王道*23の証明になっている)。


さて、Beukersの論文には"the shape of which is motivated by Apéry's formulas"とは書いているものの、その論文を読んだだけでは読み取れない驚きの事実があります。

実は、Beukersの扱っている近似列はApéryのそれと全く同一なのです!!!

Beukersの証明に対するApéry現象
数列\{a_n\}, \ \{b_n\}
\displaystyle \displaystyle \iint_{\Box^2}\frac{-\log xy}{1-xy}P_n(x)P_n(y)dxdy = a_n\zeta (3) -b_n
で定義すると、
a_n = 2u_n, \ b_n = 2v_n
が成り立つ。

どうやって証明するかはこの記事では一旦置いておきますが、私はこの事実の数値レベルにおける確認作業を行い、感動のあまり泣いてしまいました。

Apéry現象とは

「Apéry以降、多数の数学者が\zeta (3)の無理性証明を発表しているが、それらはどれもこれもApéryの与えた近似列と同一のものを別表現で扱っているにすぎない」

現象のことを言います(全てがそれに該当するというわけではありません)。

つまり、Apéryが裸の姿で発見した近似列に積分という衣を着せ、Kontsevich-Zagierの美しい理論のレール上で証明を与えたのがBeukersによる別証明だったのです。


このように分析すると、Apéryによる証明の状況が見えてきます。すなわち、裸の近似列に対して、いかにしてその二面性を見出したのかという疑問が生じるのです。


積分などという高度な武器を使えない状況で、どのように素手で立ち向かったのか*24


彼がどこに近似列の二面性を求めたか。それは既に証明の概略の節で見たように

数列の漸化式とその一般項

です。

こう考えると、(B)に対応するApéryによる証明のキーポイントは

漸化式を解く

となります。

数列の漸化式を解く。これは高校の数学Bで習います。

私も高校生の頃、色々なパターンの解法を学んだのを思い出します。

mathtrain.jp

とは言っても漸化式はいつでも解けるというわけではありません。高校で扱った漸化式は基本的には解けるもののみです。一般の漸化式を考えると、いつでも解けてしまうような万能な解法はありません。

Apéryの漸化式も複雑な漸化式なため、「こうやったら解けるよ」というマニュアルはないのです。


さて、大変奇妙なのは、Apéryがどうやってこの漸化式を解いたのか分からないことです。

彼は、「この漸化式の一般項はこのように与えられる」と答えのみを宣言して、その証明をどこにも発表していません。

結局、Apéryの証明が正しいことを検証しようとしたCohenやPoortenはこの部分を証明できないままに二ヶ月が過ぎ去ります*25


そんな中、この話があのZagierの耳に入りました。


すると、彼はたちどころに\zeta (2)の場合に対応する漸化式の半分を解いてしまったのです!!(この記事では\zeta (3)のみを扱っていますが、ApéryやBeukersの手法は\zeta (2)の場合にも機能します。)

証明の突破口さえ分かれば後はルーチンワークで、その後、Zagierのアイデアに基づいて\zeta (3)の場合についてもCohenによって全ての証明が完成されました。

そうして、1978年にヘルシンキで開催された国際数学者会議において、8月18日(金)17:00にCohenが\zeta (3)の無理性のApéryによる証明の解説講演を行い、Apéryがそれに続いてMotivation等を語った(次節参照)ということです。

肝心の証明ですが、それは別記事で紹介することにしました:

integers.hatenablog.com

というわけで、最後までApéryが全ての証明を与えることができていたかについては疑問が残ります。状況としては"Theorem (Apéry-Cohen-Zagier)"のように表現されてもおかしくないと思います*26

しかしながら、Poortenの報告[P]は相当にApéryに敬意を表す書き方がなされており、その書き方が全クレジットをApéryに与えるような広まり方になったのだと想像されます。

個人的にはPoortenによる数学的貢献はなかったのか?ということに興味がありますが、少なくともApéryの論文が解読できない以上、英語による詳しい解説記事を書いた功績は極めて大きいと言えるでしょう*27


Apéryはどのようにして近似列を見つけたのか?

さて、漸化式を解くというステップはCohen-Zagierによって切り抜けられたわけですが、その証明は答えが初めから分かっているという状況に依存しています。

一般項を知らない状況から漸化式を論理的にいじっていけば、あの和(u_nv_nの公式)が得られるというわけではないのです。

なので、Apéry-Cohen-Zagierによる漸化式解法における最も重要な部分は、結局のところApéryがあの一般項と漸化式を発見したことだと思います*28


可能性としては

  1. 漸化式を発見し、その後一般項の形を発見した。
  2. 一般項の形で表される数列を発見し、それがあの漸化式を満たすことを発見した。
  3. 両方同時に発見した。

があると思いますが、これは2. であろうと推測します*29


Apéryの出発点はそれ自体が驚くべきものである級数表示

\displaystyle \zeta (3) = \frac{5}{2}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n^3\binom{2n}{n}}

です。なお、これはApéryが発見したとする文献も見られますが、[P]で指摘されているように1953年にはHjörtnæsが発表しています。また、今では1890年にMarkovがより一般的な級数の等号である

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(a+n)^3}=\frac{1}{4}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^nn!^6}{(2n+1)!}\frac{5(n+1)^2+6(a-1)(n+1)+2(a-1)^2}{\{a(a+1)\cdots (a+n)\}^4}

を示していたことが分かっています(a=1としてn \mapsto n-1とすればよい)。

例えば、

\begin{align}\frac{5}{2}\sum_{n=1}^{6}\frac{(-1)^{n-1}}{n^3\binom{2n}{n}} &≒ 1.2020551 \\ \frac{5}{2}\sum_{n=1}^{9}\frac{(-1)^{n-1}}{n^3\binom{2n}{n}}&≒ 1.202056914\end{align}

と数値計算できますが、この級数表示は\zeta (3)の定義級数に比べて非常に収束が速いことがわかります(そして、Apéryが最終的に見出した近似列よりは遅い)。

ここで、

\displaystyle u_{k, n} := \sum_{m=1}^n\frac{1}{m^3}+\sum_{m=1}^k\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}}

であったことを思い出しましょう。以前の記事

integers.hatenablog.com

において②=③とした式により、

\displaystyle u_{n, n} = \frac{5}{2}\sum_{m=1}^n\frac{(-1)^{m-1}}{m^3\binom{2m}{m}}

が成り立つので、

\displaystyle \lim_{n \to \infty}u_{n, n} = \frac{5}{2}\sum_{m=1}^{\infty}\frac{(-1)^{m-1}}{m^3\binom{2m}{m}}

が成り立つことがわかります。


u_{0,0}
u_{0,1}, u_{1,1}
u_{0,2}, u_{1,2}, u_{2,2}
u_{0,3}, u_{1,3}, u_{2,3}, u_{3,3}
u_{0,4}, u_{1,4}, u_{2,4}, u_{3,4}, u_{4,4}
u_{0,5}, u_{1,5}, u_{2,5}, u_{3,5}, u_{4,5}, u_{5, 5}
u_{0,6}, u_{1,6}, u_{2,6}, u_{3,6}, u_{4,6}, u_{5, 6}, u_{6,6}
u_{0,7}, u_{1,7}, u_{2,7}, u_{3,7}, u_{4,7}, u_{5, 7}, u_{6,7}, u_{7,7}
u_{0,8}, u_{1,8}, u_{2,8}, u_{3,8}, u_{4,8}, u_{5, 8}, u_{6,8}, u_{7,8}, u_{8,8}
u_{0,9}, u_{1,9}, u_{2,9}, u_{3,9}, u_{4,9}, u_{5, 9}, u_{6,9}, u_{7,9}, u_{8,9}, u_{9,9}


どのルートを通っても、下に行けば行くほど\zeta (3)に近づき、左端のルート(\{u_{0, n}\})では

\displaystyle \sum_{m=1}^{\infty}\frac{1}{m^3}

の速さで、右端のルート(\{u_{n, n}\})では

\displaystyle \frac{5}{2}\sum_{m=1}^{\infty}\frac{(-1)^{m-1}}{m^3\binom{2m}{m}}

の速さで\zeta (3)に収束します。

このように、Apéryは2番目のステップとして

\displaystyle \sum_{m=1}^{\infty}\frac{1}{m^3} \longrightarrow \cdots \longrightarrow  \frac{5}{2}\sum_{m=1}^{\infty}\frac{(-1)^{m-1}}{m^3\binom{2m}{m}}

なる補間を与える数列\{u_{k, n}\} \ (k=0, \dots, n)を見出したのでしょう。


しかし、どのルートを通っても無理性を証明するには収束が遅いです*30(収束を速くしようと思うと右方向のルートに行く(kを大きくする)べきですが、そうすると補題3の観点から分母がでかくなりすぎてしまいます(\binom{n+k}{k}が悪さをする) )。

  • 左の方のルートは分母のgrowthがマイルドというメリットがあるが、収束が遅いというデメリットがある。
  • 右の方のルートは収束が速いというメリットがあるが、分母のgrowthも速いというデメリットがある。


そこで、この状況を打開するために、彼は各ルートを上手く線形に重ね合わせて収束を加速させる*31という発想を得ました*32


各ルートのメリットを強調し、デメリットを抑えるような理想的な状況を作るのです。

まず、

\displaystyle \frac{\displaystyle \sum_{k=1}^np(k)\left( \sum_{m=1}^n\frac{1}{m^3}+\sum_{m=1}^k\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}}\right)}{\displaystyle \sum_{k=1}^np(k)}

を考えれば、n \to \inftyで常に\zeta (3)に収束することがわかります(補題4の証明を参照せよ)。更に、補題3より

\displaystyle \frac{\displaystyle \sum_{k=1}^nq(k)\binom{n+k}{k}\left( \sum_{m=1}^n\frac{1}{m^3}+\sum_{m=1}^k\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}}\right)}{\displaystyle \sum_{k=1}^nq(k)\binom{n+k}{k}}

を考えると常に補題2の(Hyp ⅲ), (Hyp ⅳ)を満たすことが分かります(q(k)は整数列)。


後は試行錯誤で(Hyp ⅰ)を満たすようなq(k)を見つけることができれば勝利です。


さて、そんなに簡単にq(k)は見つかりません。Apéryは次のような複雑なステップを経て最終的な近似にたどり着いたと言っているらしいのですが、正直言ってこの部分は何をしているのかあまりよく分かりません。

還暦まで無名の数学者であったApéryが数学人生最後の気持ちで渾身の力で見つけ出したのではないかと勝手に想像しています。

先ほど\{u_{k, n}\}の三角形を書きましたが、今度は二つの三角形を書きます。

\displaystyle u_{k, n}^{(0)} := u_{k, n}\binom{n+k}{k}

u_{0,0}^{(0)}
u_{0,1}^{(0)}, u_{1,1}^{(0)}
u_{0,2}^{(0)}, u_{1,2}^{(0)}, u_{2,2}^{(0)}
u_{0,3}^{(0)}, u_{1,3}^{(0)}, u_{2,3}^{(0)}, u_{3,3}^{(0)}
u_{0,4}^{(0)}, u_{1,4}^{(0)}, u_{2,4}^{(0)}, u_{3,4}^{(0)}, u_{4,4}^{(0)}
u_{0,5}^{(0)}, u_{1,5}^{(0)}, u_{2,5}^{(0)}, u_{3,5}^{(0)}, u_{4,5}^{(0)}, u_{5, 5}^{(0)}
u_{0,6}^{(0)}, u_{1,6}^{(0)}, u_{2,6}^{(0)}, u_{3,6}^{(0)}, u_{4,6}^{(0)}, u_{5, 6}^{(0)}, u_{6,6}^{(0)}
u_{0,7}^{(0)}, u_{1,7}^{(0)}, u_{2,7}^{(0)}, u_{3,7}^{(0)}, u_{4,7}^{(0)}, u_{5, 7}^{(0)}, u_{6,7}^{(0)}, u_{7,7}^{(0)}
u_{0,8}^{(0)}, u_{1,8}^{(0)}, u_{2,8}^{(0)}, u_{3,8}^{(0)}, u_{4,8}^{(0)}, u_{5, 8}^{(0)}, u_{6,8}^{(0)}, u_{7,8}^{(0)}, u_{8,8}^{(0)}
u_{0,9}^{(0)}, u_{1,9}^{(0)}, u_{2,9}^{(0)}, u_{3,9}^{(0)}, u_{4,9}^{(0)}, u_{5, 9}^{(0)}, u_{6,9}^{(0)}, u_{7,9}^{(0)}, u_{8,9}^{(0)}, u_{9,9}^{(0)}

\displaystyle \binom{n+k}{k}

\binom{0}{0}
\binom{1}{0}, \binom{2}{1}
\binom{2}{0}, \binom{3}{1}, \binom{4}{2}
\binom{3}{0}, \binom{4}{1}, \binom{5}{2}, \binom{6}{3}
\binom{4}{0}, \binom{5}{1}, \binom{6}{2}, \binom{7}{3}, \binom{8}{4}
\binom{5}{0}, \binom{6}{1}, \binom{7}{2}, \binom{8}{3}, \binom{9}{4}, \binom{10}{5}
\binom{6}{0}, \binom{7}{1}, \binom{8}{2}, \binom{9}{3}, \binom{10}{4}, \binom{11}{5}, \binom{12}{6}
\binom{7}{0}, \binom{8}{1}, \binom{9}{2}, \binom{10}{3}, \binom{11}{4}, \binom{12}{5}, \binom{13}{6}, \binom{14}{7}
\binom{8}{0}, \binom{9}{1}, \binom{10}{2}, \binom{11}{3}, \binom{12}{4}, \binom{13}{5}, \binom{14}{6}, \binom{15}{7}, \binom{16}{8}
\binom{9}{0}, \binom{10}{1}, \binom{11}{2}, \binom{12}{3}, \binom{13}{4}, \binom{14}{5}, \binom{15}{6}, \binom{16}{7}, \binom{17}{8}, \binom{18}{9}

一つ目を分子、二つ目を分母と思うことによって(k, n)毎に有理数ができます。やはり、kについて一様にn \to \infty\zeta (3)に収束します。

この二つの三角形をそれぞれ次のように段階的に変換していきます:

分子

\begin{align}u_{k, n}^{(0)} &\longrightarrow u_{k, n}^{(1)}:=u_{n-k, n}^{(0)} \\ 
u_{k, n}^{(1)} &\longrightarrow u_{k, n}^{(2)}:=\binom{n}{k}u_{k, n}^{(1)} \\
u_{k, n}^{(2)} &\longrightarrow u_{k, n}^{(3)} := \sum_{i=0}^k\binom{k}{i}u_{i, n}^{(2)}\\ 
u_{k, n}^{(3)} &\longrightarrow u_{k, n}^{(4)} := \binom{n}{k}u_{k, n}^{(3)} \\ 
u_{k, n}^{(4)} &\longrightarrow u_{k, n}^{(5)} := \sum_{i=0}^k\binom{k}{i}u_{i, n}^{(4)}\end{align}
 

分母

\begin{align}\binom{n+k}{k}&\longrightarrow \binom{2n-k}{n} \\ 
&\longrightarrow \binom{n}{k}\binom{2n-k}{n} \\
&\longrightarrow \sum_{i=0}^k\binom{k}{i}\binom{n}{i}\binom{2n-i}{n}\\ 
&\longrightarrow \sum_{i=0}^k\binom{k}{i}\binom{n}{i}\binom{n}{k}\binom{2n-i}{n}\\ 
&\longrightarrow \sum_{j=0}^k\sum_{i=0}^j\binom{k}{j}\binom{j}{i}\binom{n}{i}\binom{n}{j}\binom{2n-i}{n}\end{align}
 

三つ目と五つ目の変換で和を取っているので、最終的にできた二枚の三角形の商における各ルートは最初の三角形のルートの線形結合になっています。

この最後の三角形商における右端のルート(k=n)が所望の近似列

\displaystyle \zeta (3) = \lim_{n \to \infty}\frac{\displaystyle \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{n+k}{k}^2\left( \sum_{m=1}^n\frac{1}{m^3}+\sum_{m=1}^k\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom{n}{m}\binom{n+m}{m}}\right)}{\displaystyle \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{n+k}{k}^2}

を与えるというのがApéryの考察です。実際、k\mapsto n, i\mapsto kとすると

\displaystyle \sum_{j=0}^n\sum_{k=0}^j\binom{n}{j}^2\binom{j}{k}\binom{n}{k}\binom{2n-k}{n} = \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{2n-k}{n}^2

となり、n\mapsto n-kとすれば*33、これはu_{n}に等しいことが分かります。すなわち、\displaystyle q(k)=\binom{n}{k}^2\binom{n+k}{k}とすればよいという結論です。

上記恒等式の証明.

\begin{align}\sum_{j=0}^n\sum_{k=0}^j\binom{n}{j}^2\binom{j}{k}\binom{n}{k}\binom{2n-k}{n} &= \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}\binom{2n-k}{n}\sum_{j=k}^n\binom{n}{j}^2\binom{j}{k} \\ &= \sum_{k=0}^n\binom{n}{k}^2\binom{2n-k}{n}\sum_{j=k}^n\binom{n}{j}\binom{n-k}{j-k} \end{align}

ここで、\displaystyle \binom{n}{j}\binom{j}{k} = \binom{n}{k}\binom{n-k}{j-k}を用いた。あとは

\displaystyle \sum_{j=k}^n\binom{n}{j}\binom{n-k}{j-k} = \binom{2n-k}{n}

を示せばよいが、これはChu-Vandermonde型の恒等式である。 Q.E.D.

正直、上のApéryの変換は何をやっているのかわかりませんが、「これで無理性が示せる!!」と信じることができたのは何故なのでしょうか?

もしかしたら、愚直に上手くいくまでq(k)を探し続けた可能性も否定できません(自分だったら途方に暮れてしまいそうです)。

\displaystyle \lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{u_n} = 17+12\sqrt{2} ≒ 33.97056275

が言えれば補題2の(Hyp ⅰ)が言えるのですから、\sqrt[n]{u_n}を計算していけば自信を持てるかもしれません。

\sqrt[10]{u_{10}}=\sqrt[10]{13657436403073}≒20.58433867

\sqrt[100]{u_{100}}=\sqrt[100]{2824\cdots 001(150\text{桁})}≒31.22551825

とじわじわ成長していくので、最初の数十項を計算する程度では不安ですが*34、本気で計算すれば極限値の大体の大きさの確信は持てるかもしれないです(当時のコンピュータのスペックを把握していないので適当なことを言っていますが)。

しかし、です。一連の議論によって「この近似列で無理性証明が絶対にできる!」と確信を持てたとしても、(Hyp ⅰ)やその他の細かいところのApéryの証明はあの漸化式に依っているのですから、この得られた近似列\{u_n\}, \ \{v_m\}から漸化式を見出すという作業が残っています。


これに関しては私はお手上げです。本当にどうやって見つけたのでしょうか?


一度発見しさえすれば、Cohen-Poortenのようにコンピュータでチェックすることによって確信を得ることはできるでしょう。しかしながら、例えばアペリー数の記事に載っている数を眺めても、私にはあの漸化式は浮かび上がってきません。

34n^3+51n^2+27n+5などという特徴的な多項式には何か裏がありそうですが、そこらへんについてはPoorten[P]には一切書かれていません。


更に、\{v_n\}\{u_n\}全く同じ漸化式を満たすという現象は何なのでしょう?(漸化式の解全体はベクトル空間をなしますが、\{u_n\}\{v_n\}は一次独立です。)

別に全く同じ漸化式を満たさなくとも無理性証明が上手くいくことはありそうですが、何故か全く同じ漸化式を満たし、証明の細部でも美しさの観点で活躍します。

Zagier-Cohenによる漸化式を満たすことの証明はu_{k, n}の定義に強く依存した計算で行われていて(実際、\{u_n\}が漸化式を満たすことより\{v_n\}が漸化式を満たすことの証明の方が複雑です)、当然u_{k,n}を別の形に変えれば同じ漸化式は満たしません。



どれだけ解説をしようと試みても、やはりApéryの証明は奇跡の証明としか言いようがないと感じます。

Apéryの仕事は、Andrew WilesがFermatの最終定理を解決したときのような、その後の数学を劇的に進歩させる仕事ではなかったかもしれませんが、確かに彼は一つの歴史的難問を解決したのです。



私はRoger Apéryに敬意を表します。



最後に、Apéryの伝説の講演に出席したPhilip Gibbsによる証言を引用してこの記事を締めくくりたいと思います:


When someone asked him

"where do these identities come from?"

he replied

"They grow in my garden."


参考文献

  • [A] R. Apéry, Irrationalité de \zeta(2) et \zeta (3), Astérisque 61 (1979), 11–13.
  • [B] F. Beukers, A note on the irrationality of \zeta (2) and \zeta (3), Bull. London Math. Soc. 11 (1979), 268–272.
  • [C] H. Cohen, Démonstration de l’irrationalité de \zeta (3), (d’après R. Apery), Séminaire de théorie des nombres de Grenoble Vol. 6, (1977-1978), 1-9.
  • [KZ] M. Kontsevich, D. Zagier, Periods, Mathematics unlimited-2001 and beyond, Springer, Berlin (2001), 771-808.
  • [P] A van der Poorten, A proof that Euler missed ..., The Mathematical Intelligencer 1 (4) (1979), 195-203.
  • [E] E. Reyssat, Irrationalité de \zeta (3) selon, ApérySéminaire Delange-Pisot-Poitou. Théorie des nombres, Vol. 20, Issue: 1, (1978-1979), 1-6.
  • Apery biography

*1:それは木曜日の14:00だったらしく、6/1, 6/8, 6/15, 6/22, 6/29のいずれかの可能性があります。

*2:integers.hatenablog.com

*3:integers.hatenablog.com

*4:integers.hatenablog.com

*5:integers.hatenablog.com

*6:この言い方は一部の数学者から反感を買うかもしれませんが、少なくともRiemannゼータ値の無理性・超越性については間違ったことを言っていないはずです。

*7:幾つか解決宣言をした文献がありますが、私が読んだものは全て間違っています。

*8:integers.hatenablog.com

*9:それはHadamard, Poussin, Mangoldtなどの努力によって成し遂げられたのでした。

*10:例えば、記事 integers.hatenablog.com ではeが無理数であることの5通りの証明を書いています。代数的無理数については全然異なるアプローチが割とある気がします。典型例は\sqrt{2}で、この場合は近似列を与えることなく初等的に証明できることはよく知られた通りです。

*11:専門家向けの注意。この記事では無理数度等は扱わないことにするため、このような背理法の書き方を採用します。

*12:円周率の場合は収束スピードの速い表示を持つというよりは、その数学的特異性から無理性を証明しやすいと理解した方が良いかもしれません。 integers.hatenablog.com

*13:Apéryの論文にあるように、任意の\varepsilon > 0に対して\Delta = e^{3(1+\varepsilon)}と取れますが、\zeta (3)の無理性証明としては\Delta = 27で十分です。

*14:どうでもいいですが、34n^3+51n^2+27n+5=(2n+1)(17n^2+17n+5)と因数分解出来ます。

*15:漸化式から即座に分かるのはa_n=O(n^3)であって、\{v_n\}の分母の小ささについてもかなり非自明です。

*16:計算機です。 HP-67/-97 - Wikipedia

*17:この記事でいう\{u_n\}。これはApéryの記号を踏襲しています。

*18:\{u_n\}の満たす漸化式。

*19:これが個人的に謎です。Apéryが証明に成功した以上は別証明の存在可能性は急に高まり、数学者も心情的にはそれまでより楽に挑戦できるとは言え、何故ここまで瞬間的に美しい証明を発見できたのでしょう。少なくとも私はApéryの証明を読んだからと言ってBeukersの証明を発見できる気がしません。

*20:[P]には"Frits Beukers ~ has found an elegant approach to Apéry's proofs which entirely avoids explicit identities, recurrences and other magic."と紹介されています。やはり、Apéryの証明法は"magic"だと思っているのですね。

*21: \zeta (5)などの無理性証明が未解決の問題では、近似列の候補を探す際に仮定の幾つかを満たすようなものは作れるが、全部を同時に満たすものを作るのが難しいという状況にあります。もう少し正確に言うと、全部を満たすようにすると他のゼータ値がくっついてきます。アペリー・ショックの節で述べたZudilinの結果は\zeta (5)だけは難しいけれど、\zeta (7), \zeta (9), \zeta (11)もつければ全ての仮定を満たす数列が構成できるというタイプの証明法です。"少なくとも一つが無理数"ということが帰結される理由は次の補題を適用するからです:

補題 \xi _1, \dots, \xi_m \in \mathbb{R}とする。有理数列\{p_n^{(0)}\}, \dots, \{p_n^{(m)}\}およびI_n:=p_n^{(0)}+p_n^{(1)}\xi_1+\cdots +p_n^{(m)}\xi_mに関する次の仮定を考える:
(Hyp ⅰ) 正の数\varepsilonが存在して、|I_n| < \varepsilon^nが成り立つ。
(Hyp ⅱ) 無数の自然数nに対して、\displaystyle I_n \neq 0
(Hyp ⅲ) ある自然数列\{\delta_n\}が存在して、\delta_n p_n^{(0)}, \dots, \delta_n p_n^{(m)} \in \mathbb{Z}が成立する。
(Hyp ⅳ) 正の数\DeltaおよびCが存在して、\delta_n < C\Delta^nが成立する。
このとき、(Hyp ⅰ)〜(Hyp ⅳ)が成り立つような有理数列\{p_n^{(0)}\}, \dots, \{p_n^{(m)}\}が存在して、\varepsilon \Delta < 1ならば、\xi_1, \dots, \xi_mの少なくとも一つは無理数である。
証明は補題2と同様ですが、\xi_1, \dots, \xi_mが全て有理数だと仮定して背理法で証明されます。

*22:[B]と[KZ]では[B]の方がはるかに前に出版された論文であり、[B]はKontsevich-Zagier予想を裏付ける一つの根拠と考える方が正確です。Kontsevich-Zagier予想の主張自体は、どのような手順で基本変形を行えば良いかというアルゴリズムまでは要求していないですが、Beukersによる(B)の証明の変形は一箇所非凡な変数変換を行っています。私のブログ記事ではMillerによるもう少し凡庸な変形手順を紹介しました。

*23:\zeta (5)の無理性などの証明には至っていないですが、Beukers型の積分にはその後多数の研究があります。

*24:見かけ上ApéryよりBeukersによる証明の方が短くスマートに感じますが、証明を完全に理解しようとすると、当然「積分の変数変換公式」等の積分論における定理の証明を全て理解しておく必要があります。実際には大学初学年度レベルなのでこのようなことを気にする人はいないと思いますが。

*25:なお、証明すべきことは「恒等式の証明」に過ぎません(一般項の候補が実際に漸化式を満たすことを証明すればよい)。Littlewoodの言葉に「正しいことが分かっている恒等式の証明はいつだって簡単だ」(Any identity, once verified, is trivial.)というものがあるそうですが、Poortenは、このApéryの漸化式の証明はLittlewoodの言葉に対する殆ど反例であると言えるだろうと主張しています。

*26:例えば、Fermatの最終定理に関するFreyの仕事は不完全で、Serreを経てRibetが完全なる証明を与えました。この一連の内容の全クレジットをFreyに与えるような文脈は聴いたことがなく、Ribetに最大の功績が与えられるのが通常のような気がします。もちろん、Apéryのケースとは数学的難しさが異なりますが。

*27:[C], [E]のようにフランス語の似たような解説論文もありますが、Poorten以上に詳しいというわけではありません。また、"creative telescoping"という用語はPoortenの記事で初めて使われたものらしいですが、その後のcreative telescopingの理論の発展に最も影響を与えた論文と言えます。

*28:今でこそ"Apéry-like"な数列や漸化式が幾つか研究されていますが、Apéry-likeな対象に恐らく世界で最初に取り組んだであろうApéryにとってはかなり難しいことだったに違いありません。

*29:[P]の論文構成は変わっていて、演習問題を出してその解答を解説するというスタイルで書かれています。演習問題③が次のような書かれ方をしています(記号表記が異なることに注意):

③ 次の漸化式を考える:
n^3u_n+(n-1)^3u_{n-2}=(34n^3-51n^2+27n-5)u_{n-1}, \ n \geq 2.
\{b_n\}b_0=1, b_1=5, b_n=u_n ({}^{\forall}n)で定義される数列と定義するとき、b_nは全て整数であることを示せ!また、\{a_n\}a_0=0, a_1=6, a_n=u_n ({}^{\forall}n)で定義すると、2\mathrm{lcm}[1, 2, \dots, n]を割り切るような分母を持つ有理数であることを示せ。
一般項のヒントなしにこれを解くのは絶望的に難しいのではないかと思います。。

*30:ちゃんと説明していなかったですが、無理性を証明する際に要求される"収束の速さ"はただ単に速い(絶対的な速さ)だけでなく、"分母の大きさに対する相対的な速さ"が重要になることに注意します(詳しくはDirichlet近似を参照してください)。単に速い収束列なら有理数・無理数に関係なく作れますが、"分母が小さいにも関わらず考えている数にかなり近い"有理数を作れるかが勝負なのです。例えば、

\displaystyle \frac{314159}{100000} = 3.14159
\displaystyle \frac{355}{133} = 3.14159292\dots
では、三桁の分母である後者の方が円周率への近似としてはるかに優秀なのです(cf. 密率。ちなみに314159エマープです)。

*31:ただし、スカラーはnに依存して良い。

*32:別に本人に聴いたわけではないですがw この節は私の妄想も入っています。とは言っても似たようなことは彼の論文の1ページ目にも書いてあります。

*33:Apéryの5段変形の一回目においてn \mapsto n-kが行われていた。

*34:追記:\sqrt[10]{u_{10}} > e^3なので、(Hyp ⅰ)が成り立つという確信は割と簡単に得られるかもしれません。勿論、厳密な証明のためには漸化式が必要です。