リーマンゼータの解析接続には様々な証明が知られています。このブログでも、Riemann自身による二つの証明のうち、テータ関数を使う方を紹介しました:
integers.hatenablog.com
Riemannのもう一つの証明はコンタワー積分を使うもので、どちらも関数等式も同時に示せる優れものです。
Euler-Maclaurinの和公式を用いるものやRiemann-Siegelの方法を含め、Titchmarsh の"The Theory of the Riemann Zeta-Function"には七通りもの証明が掲載されています。
これらは全て、積分表示を用いる証明です。しかしながら、tsujimotterさんの代表的な記事である
で用いられているリーマンゼータの解析接続を与える式
はTitchmarshに載っているどの手法とも異なるものであり、積分表示ではなく二項係数を含む(二重)級数表示で与えられています*1。
私はtsujimotterさんの記事を読むまでこの公式を知らなかったのですが、証明が気になって勉強したので記事にまとめておきます*2。
若干見た目がtsujimotterさんの記事にある式と異なりますが、全く同じ式です。MathWorldによればこれはKnoppによって1930年に予想され、同年にHasseが証明。1994年にはSondowが再証明を与えているということです。Hasseの論文よりSondowの論文の方が入手しやすく英語のため、
J. Sondow, Analytic Continuation of Riemann's Zeta Function and Values at Negative Integers via Euler's Transformation of Series, Proc. Amer. Math. Soc. 120 (1994), 421-424.
に従って証明を解説します。Sondowの論文にはHasseについて言及がないのが気がかりですが、とりあえず証明を知りたいので今は歴史的考察は入れないでおきます。この記事では、とします。
数列の収束に関する準備
1. 任意の固定した非負整数に対して.
2. 或るが存在して、任意のに対して.
を満たすと仮定する。このとき、任意の複素数列でを満たすものに対して、によって複素数列を定義するならば、が成り立つ。
証明. 任意にをとる。に対する仮定から、なる番号が存在する(固定)。このとき、仮定2. から
が成り立つ。更に、仮定1. から番号が存在して、
とできる。すると、に対して、を得る。 Q.E.D.
証明. 非負整数を固定すれば
であり、
なので、補題1が適用できる。 Q.E.D.
作用素
複素数列のなすベクトル空間上の作用素を、に対して、で定義します*3。
個人的には好きではないですが*4、慣習に従ってをと書きます。また、非負整数に対してはの回合成を表します。すなわち、
と帰納的に定義されます(も先ほどと同じ略記)。
はを意味します()。
証明. に関する帰納法で証明する。のときはOK。で成立すると仮定すると、
とのときも成立することがわかる。 Q.E.D.
Eulerの級数変換公式
証明. 和の順番を入れ替えて良いので、
は容易にわかる。 Q.E.D.
証明. まず、正の整数に対して
が成り立つことをに関する帰納法で証明する。のときは補題4に他ならない。次に、が絶対収束して、のときに①が成立すると仮定する。このとき、に対して補題4を適用することにより
が成り立つので、に対する①と合わせて、のときの①が得られることが分かる。
あとは、
を示せばよい。補題3より
であるが、が絶対収束交代級数なので、
である。よって、補題2より②が示された。 Q.E.D.
定理の証明
補題3より、定理の式はを用いて表すと
と書けることに注意する。
まず、において等号が成立することを証明する:
と絶対収束交代級数が得られるので、Eulerの級数変換公式により、では確かに
が成り立つ。
はが単純極であり、他には極がないことは明らかなので、後は
が複素平面全体で絶対局所一様収束することを示せばよい。任意の正整数および複素数に対して、
が成り立つことに注意する。ただし、はPochhammer記号
であり、積分は逐次積分として定義され、のときは両辺とする。証明はに関する帰納法。
しばしを固定する。この積分表示から、 ()ならば
と評価できるので、右半平面における任意のコンパクト集合に対して、とすれば
は収束し、優級数定理によっては絶対一様収束する。従って、この交代級数に対してEulerの級数変換公式を適用することにより、
も上絶対一様収束する()。すると、倍してを加えた
も当然上絶対一様収束する。こうして、でこの級数は絶対局所一様収束することが示されたが、は任意なので、全平面で同じことが言える。 Q.E.D.
収束の証明においてもEulerの級数変換公式を使う所が若干トリッキーに感じました。
関-Bernoulli数に関するWorpitzkyの公式
以上で級数表示による解析接続の証明は終わりましたが、これを応用してリーマンゼータの負の整数点における値を導出しようと思います。代入してハイ終わりとはいかず、関-Bernoulli数に関する公式を一つ証明する必要があります。
関-Bernoulli数については関-ベルヌーイ数 - INTEGERSを参照してください。「定義'」ではなく、やはり「定義」の方を採用します。
この節で証明するのは次の公式です:
Garabedianが1940年に"新しい公式"として発表したことに影響を受けてCarlitzが1953年に発表した証明を紹介します。Carlitzが指摘しているように、実際には1883年にWorpitzkyが既にこの公式を得ていました。
まずは作用素を用いて
と書き直せることに注意します(補題3)。
Bernoulli多項式は
によって定義され、
が成り立つことを思い出します。また、この証明では
によって定義されるEuler多項式を用います。
証明. 母関数の計算
より、
が得られるので、とすればよい()。 Q.E.D.
証明. 母関数の計算
より従う。 Q.E.D.
証明. 母関数の計算
より従う。 Q.E.D.
証明. 補題7でとして、補題5と組み合わせればよい。 Q.E.D.
Worpitzkyの公式の証明
補題6より
が成り立つ。③より、ならばなので(ー⑤とする)、④より
が従う()。故に、系より
を得る。 Q.E.D.
負の整数点での値
最初に証明した定理とWorpitzkyの公式を組み合わせることによってリーマンゼータの負の整数点での値を計算することができます。
証明. リーマンゼータの級数表示による解析接続によりおよび⑤より
が得られる。よって、Worpitzkyの公式より所望の等式が得られる。 Q.E.D.
他の標準的方法によってこの定理を証明しておけば、本記事の解析接続はWorpitzkyの公式の別証明を与えます。また、関数等式によってひっくり返せばリーマンゼータの正の偶数点における値に関するEulerの公式が得られます。
のときに上記定理の場合分けが発生しないこともなる関-Bernoulli数の定義の利点の一つです。
*1:単にこのような表示があるという面白さだけではなく、後で述べるように負の整数点での値への応用等もありますが、関数等式の別証明を与えることができるかについてはまだ考えていません。
*2:積分がない表示であり、Dirichlet級数による定義式の収束範囲外での値の計算を一から実装しやすいことからこの公式に着目したそうです。
*3:のことをと書くことの方が多いと思われるので注意(前進階差作用素)。
*4:というか非常に良くないと思っています。と書くと、定数列にを作用させたもの(すなわち列)と勘違いする可能性があるからです。「括弧を省略しているが、はにではなくに付いている」と主張するのなら良いですが、直後に述べるという記号の慣習からそうではないことが分かります。