インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Grahamの第二論文を読む ー①

過去の記事を読むには上のカテゴリーをクリックしてください。前の記事で導入した記号・用語については説明を省略しています。

前回までにGrahamの第一論文を読み終えました。


一連のプロジェクトの目標は
integers.hatenablog.com

で紹介したGrahamの定理を証明することです。


それは分母が平方数であるようなエジプト分数の有限和として表すことができる有理数の特徴付けを与えるものですが、第二論文では平方数に限定せず、一般のn乗数の場合にも適用できる形で定理を証明します。


nを正の整数とし、n乗数を小さい順に1^n, 2^n, 3^n, 4^n, \dotsと並べてできる数列をE(n)と表すことにします。すると、E(n)^{-1}n乗数を分母に持つようなエジプト分数を大きいものから順に1^{-n}, 2^{-n}, 3^{-n}, 4^{-n}, \dotsと並べてできる数列になります。


このとき、目標は「集合P(E(n)^{-1})を決定すること」と表現することができます。正の実数からなる数列Sに対して、集合\mathrm{Ac}(S)

\mathrm{Ac}(S) := \{ \alpha \in \mathbb{R}_{\geq 0} \mid \alpha\text{は}S\text{-近似可能}\}

と定めます。すると、第一論文の主定理から次の定理が得られます:

定理1 集合の等号
P(E(n)^{-1}) = \mathrm{Ac}(E(n)^{-1}) \cap \mathbb{Q}
が成り立つ。

証明. 定義上、0は両辺ともに入る。よって、正の有理数p/q (p, qは互いに素な正の整数)に対して、

\displaystyle \frac{p}{q} \in P(E(n)^{-1}) \Longleftrightarrow \frac{p}{q} \in \mathrm{Ac}(E(n)^{-1}) ー①

を示せばよい。

まず、E(n) = M(E(n) )であることに注意する。Spragueの定理より、E(n)は半完全である。

E(n)=\{a_k\}_{k=1}^{\infty}とすると、

\displaystyle \frac{a_{k+1}}{a_k} = \frac{(k+1)^n}{k^n} = \left( 1+ \frac{1}{k} \right)^n \xrightarrow{k \to \infty} 1

なので、\{a_{k+1}/a_k\}_{k=1}^{\infty}は有界である。qE(n)のある項を割り切ることは自明(q \mid q^nである)。

従って、Grahamの第一論文の主定理Grahamの第一論文を読む -② - INTEGERSより①が従う。 Q.E.D.

定理1によって、P(E(n)^{-1})を知るには\mathrm{Ac}(E(n)^{-1})を知ればよいことがわかりました。なので、第二論文は正の実数からなる数列Sに対して、\mathrm{Ac}(S)をより明示的に与える一般論を展開することから始まります。

この記事では定義一つと補題三つを片付けておくことにしましょう。

定義1 正の実数からなる数列S=\{a_n\}_{n=1}^{\infty}の項a_nSにおいて滑らかに置換可能であるとは、
\displaystyle a_n \leq \sum_{k=1}^{\infty}a_{n+k}
が成り立つときにいう。

補題1 正の実数からなる数列S=\{a_n\}_{n=1}^{\infty}に対し、或る正整数mが存在して、
n \geq m \Longrightarrow a_n \leq 2a_{n+1}
が成り立つと仮定する。このとき、n \geq mならば、a_nSにおいて滑らかに置換可能である。

証明. \displaystyle \sum_{k=1}^{\infty}a_k = \inftyなら主張は自明となるため、\displaystyle \sum_{k=1}^{\infty}a_k < \inftyと仮定する。このとき、

\begin{align}n \geq m &\Longrightarrow a_{n+k} \geq \frac{1}{2}a_{n+k-1}, \ \ (k =1, 2, 3, \dots) \\ &\Longrightarrow \sum_{k=1}^{\infty}a_{n+k} \geq \frac{1}{2}\sum_{k=1}^{\infty}a_{n+k-1} = \frac{1}{2}a_n+\frac{1}{2} \sum_{k=1}^{\infty}a_{n+k}\end{align}

が成り立つ。最後の条件はa_nSにおいて滑らかに置換可能であることと同値である。 Q.E.D.

これは、128より大きい任意の整数は相異なる平方数の和として表すことができる。 - INTEGERSにおいて紹介したSierpinskiの補題とBrownの命題における条件の関係と似ています。

補題2 正整数kk \leq (2^{\frac{1}{n}}-1)^{-1}を満たし、k^{-n}E(n)^{-1}において滑らかに置換可能であると仮定する。このとき、(k+1)^{-n}E(n)^{-1}において滑らかに置換可能である。

証明. 条件は

\begin{align}k \leq (2^{\frac{1}{n}}-1)^{-1} &\longleftrightarrow \frac{1}{k} \geq 2^{\frac{1}{n}}-1 \longleftrightarrow \left( 1+\frac{1}{k} \right)^n \geq 2 \longleftrightarrow \frac{(k+1)^n}{k^n} \geq 2 \\ &\longleftrightarrow k^{-n} \geq 2(k+1)^{-n}\end{align}

であり、仮定より

\displaystyle k^{-n} \leq \sum_{j=k+1}^{\infty}j^{-n}

が成り立つので、

\displaystyle 2(k+1)^{-n} \leq \sum_{j=k+1}^{\infty}j^{-n}

を得る。これは

\displaystyle (k+1)^{-n} \leq \sum_{j=k+2}^{\infty}j^{-n}

と書き換えられ、(k+1)^{-n}E(n)^{-1}において滑らかに置換可能であることが示された。 Q.E.D.

補題3 正整数kk \geq (2^{\frac{1}{n}}-1)^{-1}を満たすと仮定する。このとき、k^{-n}E(n)^{-1}において滑らかに置換可能である。

証明. 正整数rr \geq kを満たすならば、補題2の証明と同様の変形によって

r^{-n} \leq 2(r+1)^{-n}

が成り立つ。よって、補題1よりr \geq kなるrに対して、r^{-n}E(n)^{-1}において滑らかに置換可能であることがわかる。特に、r=kとしてもそうである。 Q.E.D.