インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

最密球充填

n次元Euclid空間に合同なn次元球をオーバーラップがないように充填した際の密度の最大値を\Delta_nとします。現在までに\Delta_nが決定されているものは以下の通りです。


\begin{align}\Delta_1&=1 \\ \Delta_2&=\frac{\pi}{\sqrt{12}}=0.9068... \\ \Delta_3&=\frac{\pi}{\sqrt{18}}=0.7404... \\ \Delta_8&=\frac{\pi^4}{384}=0.2536... \\ \Delta_{24}&=\frac{\pi^{12}}{12!}=0.001929... \end{align}



\Delta_1=1だけは簡単にわかりますが*1n=2, 3, 8, 24\Delta_nが決定されていることは著しく感じます。上記の値よりも密な球充填は絶対に存在しないということが数学的に証明されているというのです。想像するだけでその凄さに震えます。我々はどれだけ頑張って八次元空間に25.4%以上八次元球を詰めようと思っても、もはやそれは無駄な努力なのです。

以下、非常に簡単にではありますが、最密球充填にまつわるお話をしようと思います。

球充填密度

1.1 \mathbb{R}^nn次元Euclid空間とする。Euclid距離を| \cdot |で表し、内積\langle \cdot, \cdot \rangle

\langle x, y\rangle := \frac{1}{2}\left(|x|^2+|y|^2-|x-y|^2\right)

と定める。\mathrm{Vol}( \cdot )をLebesgue測度とする(nは文脈判断で省略)。

1.2 B_n(x; r)を中心x、半径rn次元球とする(x, r \in \mathbb{R}^n)。V_n(r):=\mathrm{Vol}(B_n(x; r) )とすると(xには依存せず)

\displaystyle V_n(r) = \frac{\pi^{\frac{n}{2}}}{\Gamma(\frac{n}{2}+1)}r^n

が成り立つ。n次元球の体積 - INTEGERS

1.3 \mathcal{P}n次元球充填であるとは、相異なる二点x, y \in Xに対して|x-y| \geq 2sが成り立つような集合X \subset \mathbb{R}^nを用いて

\displaystyle \mathcal{P} = \bigcup_{x \in X}B_n(x; s)

と表せるときにいう(s > 0)。

1.4 n次元球充填\mathcal{P}の密度を

\displaystyle \Delta_{\mathcal{P}}:=\limsup_{r \to \infty}\frac{\mathrm{Vol}(\mathcal{P} \cap B_n(0; r) )}{V_n(r)}

と定義する。また、\Delta_n

\displaystyle \Delta_n := \sup_{\mathcal{P}}\Delta_{\mathcal{P}}

と定める。ただし、\mathcal{P}n次元球充填をわたる。

1.5 次の定理が示されている([Gr])。

定理 (Groemer) 任意のnに対し、或るn次元球充填\mathcal{P}が存在して、任意の空でないコンパクト集合F \subset \mathbb{R}^nおよび任意のx \in \mathbb{R}^nに対して
\displaystyle \Delta_n=\lim_{r \to \infty}\frac{\mathrm{Vol}(\mathcal{P} \cap (rF+x) )}{\mathrm{Vol}(rF)}
が成り立つ。

つまり、最密球充填は必ず存在する。

ハニカム球充填

2.1 正六角形による平面充填を行い各正六角形の内接円を考えることによって二次元球充填\mathcal{H}が得られる。\Delta_{\mathcal{H}}=\frac{\pi}{\sqrt{12}}は容易にわかる。

定理 ハニカム球充填\mathcal{H}は最密構造を与える。すなわち、\displaystyle \Delta_2=\frac{\pi}{\sqrt{12}}が成り立つ。

Thue ([Th])が1890年にこの定理の証明を宣言しているが間違いがあると考えられており、Tóth ([Tó])が1943年に厳密な証明を出版している。ここではHales ([H1])に書かれているRogersのアイデアに基づいた証明を紹介する。

2.2 定理2.1の証明 二次元球充填\mathcal{P}を任意にとる。半径はs=1であると仮定して一般性を失わない。\mathcal{P}の各円について半径\frac{2}{\sqrt{3}}の同心円を考える(大きい円と呼ぶ)。大きい円が共通内点を持つ場合は二交点と各円の中心を結んで得られる二つの二等辺三角形を考える。

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\mathcal{P}の円がオーバラップしないことより、二等辺三角形の共通底辺に対する角は60^{\circ}を超えないことに注意。また、三つの大きい円が共通内点を持つことはない。というのも、\mathcal{P}の三つの円が最も近づいたとしても次のようになっている。

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よって、二等辺三角形がオーバーラップすることはない。大きい円達の外側からなる集合を \rule[-1mm]{5mm}{5mm}、考えている二等辺三角形達のなす集合\triangle、大きい円の内部から考えている二等辺三角形を引いたもの達からなる集合を\bigcircとすると、\mathbb{R}^2=\rule[-1mm]{5mm}{5mm} \sqcup \triangle \sqcup \bigcircと平面の分割が得られる。各 \rule[-1mm]{5mm}{5mm}, \triangle, \bigcircにおける\mathcal{P}の密度がそれぞれ\frac{\pi}{\sqrt{12}}以下であることを示せばよい。まず、\rule[-1mm]{5mm}{5mm}における\mathcal{P}の密度は0である。また、\bigcircにおける\mathcal{P}の密度は面積比を考えて\frac{3}{4}であることがわかり、これは\frac{\pi}{\sqrt{12}}より小さい。よって、後は\triangleにおける\mathcal{P}の密度を考察すればよい。

\triangleの二等辺三角形を一つとって考察する。この二等辺三角形を点Vは固定したまま一辺の長さが\frac{2}{\sqrt{3}}の正三角形に写す線形変換Tを考える。

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このとき、中心V\mathcal{P}の円はTで楕円に写るが、二等辺三角形およびその二等辺三角形と\mathcal{P}の円との共通部分(上図でV, A, Bに囲まれる部分)について、Tで変換した後も面積の比は不変である。また、もとの二等辺三角形の等辺の長さは\frac{2}{\sqrt{3}}なので、VC=VD=1がわかる。よって、考えている密度は正三角形に占める半径1の扇型VCDの密度で上から押さえることができる(先ほどの60^{\circ}を超えないという注意から楕円は縦長である)。そして、それは\frac{\pi}{\sqrt{12}}である。

2.3 ハニカム球充填の場合は \rule[-1mm]{5mm}{5mm} \ =\bigcirc=\varnothingであり、線形変換Tは恒等変換である。

Kepler予想

3.1 密度が\frac{\pi}{\sqrt{18}}であるような三次元球充填が存在する。

面心立方格子構造 - Wikipedia
六方最密充填構造 - Wikipedia

これらが最密構造を与えるだろうということは非常に古くから予想されていた(HarriotとKeplerに始まる)。

Kepler予想 \displaystyle \ \ \ \Delta_3=\frac{\pi}{\sqrt{18}}.

Gauss ([Ga])は格子球充填(4.6)に限定した場合にKepler予想を解決していた。

3.2 Kepler予想はHalesを主導に証明されているが、この記事では詳細を述べることができない。1998年には証明を宣言し、2005年に核となる論文([H2])が出版されている。彼の証明は複雑なコンピュータ計算を伴うものであるが([HF])、2015年には形式的証明のプロジェクトが成功したことが報告されている。

格子

格子があれば付随する球充填を得ることができる。n=8, 24の場合には非常に良い格子が存在する。
4.1 \Lambda \subset \mathbb{R}^nが格子であるとは、\mathbb{R}^n\mathbb{R}-線形空間としての基底v_1, \dots, v_nを用いて

\displaystyle \Lambda = \mathbb{Z}v_1+\cdots +\mathbb{Z}v_n

と表されるときにいう。\langle v_i, v_j\rangleが全て整数であるとき\Lambdaは整格子であるといい、|v_i|^2が全て偶数であるとき\Lambdaは偶格子であるという。\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)=|\det(v_1, \dots, v_n)|が成り立ち、\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)=1であるとき\Lambdaはユニモジュラーであるという。二つの格子が同型であるとは直交線形変換で移り合うときにいう。

4.2 \mathbb{Z}^nはユニモジュラーな整格子であるが、偶格子ではない(奇格子)。

\displaystyle D_n:=\left\{(x_1, \dots, x_n) \in \mathbb{Z}^n \ \left| \ \sum_{i=1}^nx_i \in 2\mathbb{Z}\right. \right\}

で定義されるD_nは偶格子であるが、ユニモジュラーではない。

4.3 \Lambda \subset \mathbb{R}^nを格子とする。このとき、\Lambdaの双対格子\Lambda^{\ast} \subset \mathbb{R}^n

\displaystyle \Lambda^{\ast}:=\{y \in \mathbb{R}^n \mid \langle x, y\rangle \in \mathbb{Z} \ ({}^{\forall}x \in \Lambda)\}

で定める。\Lambdaが整格子であれば\Lambda \subset \Lambda^{\ast}が成り立ち、更にユニモジュラーであれば\Lambda=\Lambda^{\ast}が成り立つ(自己双対)。

4.4 E_8-格子\Lambda_8 \subset \mathbb{R}^8

\displaystyle \Lambda_8:=\left\{\left. (x_1, \dots, x_8) \in \mathbb{Z}^8\cup \left(\mathbb{Z}+\frac{1}{2}\right)^8 \ \right| \ \sum_{i=1}^8x_i \in 2\mathbb{Z}\right\}

と定義することができる。名前の由来は\Lambda_8E_8-ルート系に付随するルート格子になっていることから。\Lambda_8の二点間距離は\sqrt{2k} \ (k=1,2, ...)である。次の定理はMordell ([Mo])による。

定理 (Mordell) n \leq 8であれば、ユニモジュラーな整格子は同型を除いて\mathbb{Z}^nおよびE_8-格子\Lambda_8しか存在しない。特に、\Lambda_8n \leq 8で唯一のユニモジュラーな偶格子である。

4.5 Leech ([Le])はLeech格子\Lambda_{24} \subset \mathbb{R}^{24}を構成した。\widetilde{G}を拡張二元Golay符号(解説略)とし、L^{\epsilon} \subset \mathbb{Z}^{24} \ (\epsilon \in \{0, 1\})

\displaystyle L^{\epsilon}:=\left\{(x_1, \dots, x_{24}) \in (2\mathbb{Z})^{24} \ \left| \ \sum_{i=1}^{24}x_i \equiv \epsilon \pmod{2}\right.\right\}

と定義すると

\displaystyle \Lambda_{24}:=\frac{1}{\sqrt{2}}\left\{(\widetilde{G}+L^0)\cup \left(\widetilde{G}+L^1+\frac{1}{2}\right)\right\}

はLeech格子の一つの構成となっている。\Lambda_{24}の二点間距離は\sqrt{2k} \ (k=2,3, ...)である。Conway ([Con])はLeech格子の次の特徴付けを与えた。

定理 (Conway) ルートを持たないユニモジュラーな24次元偶格子は同型を除いてLeech格子のみである。

4.6 n次元球充填\mathcal{P}が格子球充填であるとは、格子\Lambda \subset \mathbb{R}^nが存在して\mathcal{P}を構成する球の中心のなす集合が\Lambdaに一致するときにいう。\Lambdaによる格子球充填\mathcal{P}を構成する球の半径がsであるとき、

\displaystyle \Delta_{\mathcal{P}}=\frac{V_n(s)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}

が成り立つ。\Lambdaの二点間最小距離をrとすると、sとして取り得る最大値は\frac{r}{2}である。

4.7 E_8-格子\Lambda_8の二点間最小距離は\sqrt{2}であり、E_8-球充填(半径\frac{\sqrt{2}}{2}の八次元球による\Lambda_8-格子球充填)の密度は(4.6), (1.2) および\Lambda_8のユニモジュラー性より

\displaystyle \frac{V_8\left(\frac{\sqrt{2}}{2}\right)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^8/\Lambda_8)}=\frac{\pi^4}{384}

である。

4.8 Leech格子\Lambda_{24}の二点間最小距離は2であり、Leech球充填(半径124次元球による\Lambda_{24}-格子球充填)の密度は(4.6), (1.2) および\Lambda_{24}のユニモジュラー性より

\displaystyle \frac{V_{24}(1)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^{24}/\Lambda_{24})}=\frac{\pi^{12}}{12!}

である。

4.9 n次元球充填\mathcal{P}が周期的球充填であるとは、或る格子\Lambda \subset \mathbb{R}^nが存在して\mathcal{P}+x=\mathcal{P}が任意のx \in \Lambdaに対して成り立つときにいう。

Fourier変換とPoisson和公式

5.1  \ \ \ f \in L^1(\mathbb{R}^n)のFourier変換 \widehat{f}

\displaystyle \widehat{f}(y):=\int_{\mathbb{R}^n}f(x)e^{-2\pi i\langle x, y\rangle}\mathrm{d}x

と定義する。

5.2  \ \ \ f \in C^{\infty}(\mathbb{R}^n)がSchwartz関数であるとは、任意の多重指数mと正整数kに対して

\displaystyle \partial_x^mf(x) = O( (1+|x|)^{-k})

が成り立つときにいう。Schwartz関数全体のなす空間を\mathcal{S}(\mathbb{R}^n)と書く。f \in \mathcal{S}(\mathbb{R}^n)であれば、そのFourier変換についても \widehat{f} \in \mathcal{S}(\mathbb{R}^n)である。

5.3 (Poisson和公式) 格子\Lambda \subset \mathbb{R}^n, f \in \mathcal{S}(\mathbb{R}^n)に対して

\displaystyle \sum_{x \in \Lambda}f(x) = \frac{1}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}\sum_{y \in \Lambda^{\ast}}\widehat{f}(y)

が成り立つ。これは一種の双対性である。

5.4 より一般にt \in \mathbb{R}^nに対して

\displaystyle \sum_{x \in \Lambda}f(x+t) = \frac{1}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}\sum_{y \in \Lambda^{\ast}}\widehat{f}(y)e^{2\pi i\langle y, t\rangle}

が成り立つ。

Cohn−Elkiesの定理と魔法関数の存在予想

6.1 r > 0とする。f \in \mathcal{S}(\mathbb{R}^n)が(n次元)r-補助関数であるとは、

f(0)=\widehat{f}(0) > 0 \tag{6.1.1}

f(x) \leq 0 \quad \text{for} \quad |x| \geq r \tag{6.1.2}

\widehat{f}(y) \geq 0 \quad \text{for} \quad {}^{\forall}y \in \mathbb{R}^n \tag{6.1.3}

が成り立つときにいう。r-補助関数の条件は原点を固定する回転変換で不変なので、必要ならば対称化することによって fは球対称関数(|x|のみに依存する関数)であると仮定してよい。このとき、Fourier変換 \widehat{f}も球対称関数となる。

6.2 Cohn−Elkies ([CE])によって示された次の定理は一般のnに対して\Delta_nを上から押さえることに利用でき、更に\Delta_8, \Delta_{24}を確定させることにも決定的に重要な役割を果たす。

定理 (Cohn−Elkies) n次元r-補助関数が存在すれば
\displaystyle \Delta_n \leq V_n\left(\frac{r}{2}\right)
が成り立つ。

以下、(6.3)から(6.5)でこの定理を証明する。

6.3 以下、(6.5)までn次元r-補助関数 fが存在すると仮定する。任意のn次元球充填\mathcal{P}に対して\Delta_{\mathcal{P}} \leq V_n\left(\frac{r}{2}\right)が成り立つことを示す必要があるが、まず\mathcal{P}が格子球充填の場合を考える。実際は次の(6.4)で周期的球充填の場合の証明に含まれているが、証明のアイデアを見るのによいのでこの節をおく。

\Lambda \subset \mathbb{R}^nを格子とする。相似拡大・縮小で密度は変わらないので、\Lambdaの二点間最小距離はrであると仮定しても一般性を失わない。\Lambda-格子球充填として球の半径が最大である\frac{r}{2}の場合に考えれば十分なので、(4.6)より

\displaystyle \frac{V_n\left(\frac{r}{2}\right)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)} \leq V_n\left(\frac{r}{2}\right)

が示すべきことであり、つまり\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda) \geq 1を示せばよい。

r-補助関数 fと格子\Lambdaに対するPoisson和公式(5.3)

\displaystyle \sum_{x \in \Lambda}f(x) = \frac{1}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}\sum_{y \in \Lambda^{\ast}}\widehat{f}(y)

について、原点を除く\Lambdaの元は絶対値がr以上なので、(6.1.2)より左辺は f(0)で上から押さえられる。一方、(6.1.3)より右辺は\frac{\widehat{f}(0)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}で下から押さえられる。よって

\displaystyle f(0) \geq \frac{\widehat{f}(0)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}

がわかるが、(6.1.1)より\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda) \geq 1が得られる。

6.4 周期的球充填の場合を考える。格子\Lambda \subset \mathbb{R}^nによる周期的球充填\mathcal{P}を考え、\Lambdaの作用による\mathcal{P}の球の中心の軌道の代表系をt_1, \dots, t_Nとする。球の半径は\frac{r}{2}であると仮定して一般性を失わない。このとき、(4.6)と同様に考えて

\displaystyle \Delta_{\mathcal{P}}=\frac{NV_n\left(\frac{r}{2}\right)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}

が成り立つ。よって、この場合に示すべきことは\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda) \geq Nである。|X|=X\cdot \overline{X}を思い出して、(5.4)を用いると

\displaystyle \sum_{j, k=1}^N\sum_{x \in \Lambda}f(t_j-t_k+x)=\frac{1}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}\sum_{y \in \Lambda^{\ast}}\widehat{f}(y)\left| \sum_{j=1}^Ne^{2\pi i\langle y, t_j\rangle}\right|^2

が成り立つことがわかる。球の半径が\frac{r}{2}なので、j\neq kまたはx\neq 0であれば|(t_j+x)-t_k|\geq rであり、(6.1.2)より左辺はNf(0)で上から押さえられる。また、右辺はy=0のときだけを残すことによって(6.1.3)より\frac{N^2\widehat{f}(0)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}で下から押さえられる。従って、

\displaystyle Nf(0) \geq \frac{N^2\widehat{f}(0)}{\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda)}

がわかり、(6.1.1)より\mathrm{Vol}(\mathbb{R}^n/\Lambda) \geq Nが示された。

6.5 定理1.5で存在するn次元最密球充填\mathcal{P}をとる。格子\Lambda \subset \mathbb{R}^nを任意にとってF\Lambdaの基本領域とする(つまり、\mathbb{R}^nFと合同な多面体で分割されている)。このとき、

\displaystyle \Delta_n=\lim_{r \to \infty}\frac{\mathrm{Vol}(\mathcal{P} \cap rF)}{\mathrm{Vol}(rF)}

が成り立つ。よって、\varepsilon > 0を任意にとったときrが十分大きければ

\displaystyle \Delta_n-\frac{\varepsilon}{2} < \frac{\mathrm{Vol}(\mathcal{P} \cap rF)}{\mathrm{Vol}(rF)}

となる。ここで、Q_rrFの境界と交わりを持たない球のみからなる\mathcal{P} \cap rFの部分集合とする。境界部分は次元が落ちているため、rが十分大きければ

\displaystyle \frac{\mathrm{Vol}(\mathcal{P} \cap rF)}{\mathrm{Vol}(rF)}-\frac{\mathrm{Vol}(Q_r)}{\mathrm{Vol}(rF)} < \frac{\varepsilon}{2}

とできる。よって、

\displaystyle \Delta_n-\varepsilon < \frac{\mathrm{Vol}(Q_r)}{\mathrm{Vol}(rF)}


を得る。すなわち、Q_rを単位として繰り返したr\Lambdaによる周期的球充填を\mathcal{P}'とすれば

\displaystyle \Delta_n-\varepsilon < \Delta_{\mathcal{P}'}

であり、(6,4)より

\displaystyle \Delta_n -\varepsilon < V_n\left(\frac{r}{2}\right)

が示された。\varepsilon > 0は任意なので、\Delta_n \leq V_n\left(\frac{r}{2}\right)が結論付けられた。

6.6 Cohn−Elkiesは f(x)=P(|x|^2)e^{-\pi |x|^2}という形の関数(Pは多項式)を用いて数値実験で実際に補助関数を作り、定理6.2を適用することによって多くのnについて\Delta_nの上からの評価の新記録を打ち立てた。そして、彼らの実験結果はn=8, 24の場合については定理6.2による評価で予想される\Delta_nの値(それぞれE_8-球充填、Leech球充填の密度(4.7), (4.8) )に真に到達できるだろうということを示唆していた。

6.7  \ \ fn次元r-補助関数とし、\Lambda \subset \mathbb{R}^nを二点間最小距離がrの格子とする。このとき、\Lambda-格子球充填の密度がV_n(\frac{r}{2})に一致するための必要十分条件は f\Lambda\setminus\{0\}の元を全て零点に持ち、\widehat{f}\Lambda^{\ast}\setminus\{0\}の元を全て零点に持つことである。これは、(6.3)の不等式評価において等号が成り立つことと同値であることからわかる。この条件が成り立つとき、Poisson和公式から f(0)=\widehat{f}(0)が成り立つ。

6.8 球対称な f \in \mathcal{S}(\mathbb{R}^8)8-魔法関数であるとは、f(1)=1, r=\sqrt{2}に対する(6.1.2), (6.1.3)を満たし、f\widehat{f}がともに|x|=\sqrt{2k}, \ (k=1, 2, ...)なるxを零点にもつときにいう。8-魔法関数が存在すれば定理6.2によって\Delta_8=\frac{\pi^4}{384}が確定する。

6.9 球対称な f \in \mathcal{S}(\mathbb{R}^{24})24-魔法関数であるとは、f(1)=1, r=2に対する(6.1.2), (6.1.3)を満たし、f\widehat{f}がともに|x|=\sqrt{2k}, \ (k=2, 3, ...)なるxを零点にもつときにいう。24-魔法関数が存在すれば定理6.2によって\Delta_{24}=\frac{\pi^{12}}{12!}が確定する。

6.10 (6.6)で述べた数値実験による示唆からCohn−Elkiesは次を予想した。

予想(Cohn−Elkies) 8-魔法関数および24-魔法関数は存在する。

関数とそのFourier変換について、同時に与えられた零点を持つようにすることが一つの困難であった。

Viazovskaと魔法関数

7.1 k \geq 4を偶数とする。このとき、E_k(z)をEisenstein級数

\displaystyle E_k(z) = \frac{1}{2\zeta(k)}\sum_{(c, d) \in \mathbb{Z}^2 \setminus \{(0, 0)\}}\frac{1}{(cz+d)^k}
=1+\frac{2}{\zeta(1-k)}\sum_{n=1}^{\infty}\sigma_{k-1}e^{2\pi i nz}

とする。\zeta(s)Riemannゼータ関数で、\displaystyle \sigma_{k-1}(n):=\sum_{d \mid n}d^{k-1}E_k\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})に関する重さkのモジュラー形式ある。

7.2 E_2(z)

\displaystyle E_2(z):=1-24\sum_{n=1}^{\infty}\sigma_1(n)e^{2\pi inz}

で定める。これはモジュラー形式ではないが、

\displaystyle \frac{1}{z^2}E_2\left(-\frac{1}{z}\right) = E_2(z)-\frac{6i}{\pi}\cdot \frac{1}{z}

を満たす準モジュラー形式である。

7.3 三つのテータ関数 \Theta_{00}(z), \ \Theta_{01}(z), \ \Theta_{10}(z)

\begin{align} \Theta_{00}(z) &:= \sum_{n \in \mathbb{Z}}e^{\pi in^2z} \\ \Theta_{01}(z) &:= \sum_{n \in \mathbb{Z}}(-1)^ne^{\pi in^2z} \\ \Theta_{10}(z) &:= \sum_{n \in \mathbb{Z}}e^{\pi i\left(n+\frac{1}{2}\right)^2z}\end{align}

と定義する。\Theta_{00}^4, \ \Theta_{01}^4, \ \Theta_{10}^4\Gamma(2)に関する重さ2のモジュラー形式となっている。

7.4 Viazovska ([Vi])は長年懸案であった次の定理を鮮やかに解決した。

定理 (Viazovska) E_8-球充填は最密構造を与える。すなわち、\displaystyle \Delta_8=\frac{\pi^4}{384}が成り立つ。

7.5 §6の結果により、定理7.4を示すには8-魔法関数が存在することを示せばよいが、Viazovskaは実際に8-魔法関数を次のように構成した。\varphi_8(z), \ \psi_8(z)をそれぞれ

\displaystyle \varphi_8:=\frac{4}{5}\cdot \frac{(E_2E_4-E_6)^2}{E_6^2-E_4^3}

\displaystyle \psi_8:=\frac{32}{15}\left(\frac{\Theta_{00}^4+\Theta_{01}^4}{\Theta_{10}^8}+\frac{\Theta_{01}^4-\Theta_{10}^4}{\Theta_{00}^8}\right)

とするとき、M_8(x)

\displaystyle M_8(x):=\pi \sin^2\left(\frac{\pi |x|^2}{2}\right)\int_0^{\infty}\left(t^2\varphi_8\left(\frac{i}{t}\right)-\frac{1}{\pi^2}\psi_8(it)\right)e^{-\pi |x|^2t}\mathrm{d}t

と定義する。この表示は|x| > \sqrt{2}で収束するが、\mathbb{R}^8に解析的に延長できる。そうして、(準)モジュラー性を要として、ViazovskaはM_8(x)が実際に8-魔法関数(6.8)になっていることを解析で証明した。

7.6 Viazovskaの手法を元にして、Cohn−Kumar−Miller−Radchenko−Viazovskaによって24次元の場合も解決された。

定理 ([CKMRV]) Leech球充填は最密構造を与える。すなわち、\displaystyle \Delta_{24}=\frac{\pi^{12}}{12!}が成り立つ。

7.7 §6の結果により、定理7.6を示すには24-魔法関数が存在することを示せばよい。\varphi_{24}(z), \ \psi_{24}(z)をそれぞれ

\displaystyle \varphi_{24}:=\frac{48}{455}\cdot \frac{(25E_4^4-49E_6^2E_4)+48E_6E_4^2E_2+(-49E_4^3+25E_6^2)E_2^2}{(E_4^3-E_6^2)^2}

\displaystyle \psi_{24}:=\frac{20736}{455}\cdot \frac{7\Theta_{01}^{20}\Theta_{10}^8+7\Theta_{01}^{24}\Theta_{10}^4+2\Theta_{01}^{28}}{(E_4^3-E_6^2)^2}

とするとき、M_{24}(x)

\displaystyle M_{24}(x):=\pi \sin^2\left(\frac{\pi |x|^2}{2}\right)\int_0^{\infty}\left(t^{10}\varphi_{24}\left(\frac{i}{t}\right)-\frac{1}{\pi^2}\psi_{24}(it)\right)e^{-\pi |x|^2t}\mathrm{d}t

と定義する。この表示は|x| > 2で収束するが、\mathbb{R}^{24}に解析的に延長できる。そうして、(準)モジュラー性を要として、M_{24}(x)が実際に24-魔法関数(6.9)になっていることが解析で証明される。


以上で最密球充填に関する簡単な解説を終わります。

参考文献

[Con] J. H. Conway, A characterization of Leech’s lattice, Invent. Math. 121 (1969), 119–133.
[Coh] H. Cohn, Conceptual breakthrough in sphere packing, Notices of the American Mathematical Society 64 (2017), 102-115.
[CE] H. Cohn, N. Elkies, New upper bounds on sphere packings I, Annals of Mathematics, 157 (2003), 689–714.
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丸の内で共にビールを飲みながら§2についてコメントをくださった\zetaWalker氏に感謝致します。

*1:「一次元球」は「線分」です。