Bertrandの仮説の主張は次のようなものでした。
Bertrandの仮説で考察している区間をに対するに拡張することを考えたとき、次の定理が成立します。
ただし、の存在性のみを保証しているこの定理はBertrandの仮説の完全な一般化ではありません。Bertrandの仮説はと取れることまで主張しています。
として取り得る最小の整数値を考えることにしたとき、幾つかのに対するが歴史的に求められてきました。
例えば、
J. Nagura, On the interval containing at least one prime number, Proc. Japan Acad. Ser. A 28 (1952), 177–181.
ではが示されています。また、仮面ライダービルドの第48話ではが紹介されています。Dusartの結果を利用して、ここでは次の定理を紹介しておきます。
証明. Dusart
P. Dusart, The th prime is greater than for , Math. Comp. 68 (1999), 411–415.
でであれば
の間に少なくとも一つは素数が存在することが示されており、であることからであることがわかる。の整数部分はであるが、の次の素数はなので、でなければならない。あとは素数列
をみればが確定する。 Q.E.D.
さて、定理1は十分大きいに対して区間が少なくとも一つの素数を含むことを主張していますが、より強く任意の正整数について、十分大きいに対して区間が少なくとも個の素数を含むこともいえます。実際、次が成り立ちます。
この定理自体は素数定理から即座に従いますが、素数定理の初等的証明と深い関係があります。
において素数定理の初等的証明に関するSelbergとErdősの関係について少し解説しました。彼らの論文に記載の内容をもとに、もう少し詳細に述べると
- SelbergがSelbergの漸近公式を証明
- ErdősがSelbergの漸近公式を用いた定理2の証明を発見
- そのErdősのアイデアとSelbergの漸近公式と定理2を用いてSelbergが最初の素数定理の初等的証明に成功
- Selbergが定理2の証明を簡略化
- Erdős-Selbergが素数定理の初等的証明を簡略化(証明のアイデアは必要であるが、定理2は不要となる)
- Selbergは上(下)極限の概念の使用も排除したSelbergの漸近公式からの素数定理の新しい導出法を発見
- 二人は独立に論文を出版(!!)
のようになっているようです。6. のSelbergによる証明は上記記事において既に解説しました。この記事では
P. Erdős, On a new method in elementary number theory which leads to an elementary proof of the prime number theorem, Proc. Nat. Acad. Scis. U.S.A. 35 (1949), 374–384.
に基づいて、2. の証明を解説しようと思います*1。
Erdősによる定理2の証明
漸近挙動は原則で考える。をChebyshev関数とするとき、ここで使用した不等式を利用することによって定理2は次の定理と同値であることがわかる。
次の二つの事実は前提知識として用いる。
証明. チェビシェフの定理 - INTEGERS Q.E.D.
証明. 素数定理の初等的証明(Selbergの漸近公式編) - INTEGERSにおける(1)である。 Q.E.D.
証明. Selbergの漸近公式から導出できる(ここを参照)。 Q.E.D.
以下、定理3を背理法で証明するため、或るが存在して、という状態において
が成り立つようないくらでも大きいが存在すると仮定する*2。をこのようなの上限とする。このとき、である。理由: Chebyshevの定理より、が存在して、十分大きいに対してが成り立つ。このとき、
が成り立ち、ある程度大きいに対しては(1)の状況にできないことがわかる。
実際には、は最大値として実現している。
証明. を任意にとり、かつ(1)を満たすようなをとる。補題1と(1)より、いくらでも大きいが存在して
が成り立つ。つまり、となるようなが存在する。よって、の任意性から結論が得られる。 Q.E.D.
証明. Selbergの漸近公式の差を取ることによって
が得られる。補題2より
であり、
と変形できるので所望の漸近公式が示された。 Q.E.D.
これを利用して以下の素数をbad primeとgood primeに分ける。
証明. 背理法で証明する。つまり、いくらでも大きいが存在して、そのようなについて、という状況で、の和がとならないだけ多くの以下の素数に対して(3)の漸近公式が成り立たないとする。必要であればそのような素数達の部分集合をとることによって、或る, が存在して
および
が成り立つと仮定してよい( (3)の否定を考えて(5)で十分なことには補題1を用いている)。(4)とMertensの第一定理から
が成り立つため、補題1、(4)、(5)、(6)を用いると
となって補題3に矛盾する。ここで、和の部分に補題1を適用して得られる誤差項がとなることには以前証明した漸近公式を使えばよい。 Q.E.D.
証明. 補題2で存在するであって(適宜)十分大きいものを考える。また、を十分大きい数とする。に対して、とする。このとき、に依存しない或るが存在して
が成り立つ。理由:
であるが、Chebyshevの定理よりが十分大きいことからが十分大きいに対して成立するので、と取れることがわかる。
である。理由: に対して
であれば、(7)よりとなって、(2)に矛盾する。 (8)より、少なくとも以上のについてである。そのようなについてをの最小素数とする。今、そのような全てのについて
がで成り立つようなであるの元が存在するが、で(9)が成立するようなが存在しないと仮定しよう(は依存)。このとき、
とするとである。とおくと、
であり、であるから、の最大性より或るが存在して
が成り立つ(は以外には依存しない)。よって、
が成り立つ。さて、および(とをとっておくことに)より
なので、である。よって、少なくとも以上の達について、は重なりがない。従って、(10)より
が得られた。これは(2)から(十分大きいについては)許容されていない。よって、背理法により主張が示された。 Q.E.D.
補題5の状況のおよびをとる。であるようなについては
が成り立つ。理由: 成り立たないと仮定する。このとき、補題1よりが存在して
となる。より
なので、(12)と合わせて
となる。が存在して
が成り立てば補題1に矛盾する。(13)は
すなわち、
と同値である。なので、を十分小さく取ればこれは成立する。 に対する(11)とより成立する式
を組み合わせることにより、
が得られる。であるようなについては
が成り立つ。理由: なので
と評価できる。よって、
が成り立てばよいが、なので
がいえればよい。右辺はでに収束するので、十分小さいについてこれは成立している。 の場合の(15)により成立する式
を合わせることによって
が得られる。(14)または(16)に(11)または(15)をtelescopingすると
を得る。より
なので()、(17)より
となる。これはChebyshevの定理に矛盾する。 Q.E.D.