インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

2017, e, π, Khinchin定数

2017は素数ですが、昨夜面白い性質があることに気づきました。

eの場合

2017eをかけます。


2017e=5482.774448001894239721699829718320257976367387992818462\dots


この数に一番近い整数5483素数です。

このような性質をもつ10000以下の素数(peに一番近い整数が素数となるような素数p)は


\begin{align}&2, 7, 29, 37, 71, 113, 163, 179, 199, 227, 283, 439, 463, 503, 541, 547, 647, 733, 761, \\
&823, 839, 887, 953, 1031, 1049, 1051, 1093, 1327, 1399, 1549, 1627, 1741, 1847,\\
&1861, 1901, 1951, 2017, 2053, 2081, 2179, 2221, 2287, 2309, 2399, 2477, 2591, \\
&2689, 2711, 2741, 2777, 2797, 2909, 3137, 3167, 3181, 3187, 3203, 3251, 3329, \\
&3413, 3457, 3463, 3499, 3527, 3593, 3761, 3797, 3847, 3863, 3911, 3947, 4139,\\
&4211, 4337, 4373, 4507, 4649, 4657, 4673, 4871, 5039, 5309, 5381, 5437, 5573,\\
&5651, 5657, 5659,  5701, 5821, 5927, 6043, 6211, 6247, 6269, 6361, 6397, 6551,\\
&6637, 6737, 6779, 6781, 6959, 7001, 7057, 7127, 7129, 7193, 7247, 7417, 7489,\\
&7673, 7681, 7703, 7853, 7873, 7907, 7951, 7993, 8293, 8447, 8597, 8741, 8803,\\
&8867, 9209, 9257, 9293, 9323, 9341, 9419, 9421, 9491, 9533, 9547, 9661, 9749,\\
&9803, 9811, 9833\end{align}


です 。このような幸運な年は私が生まれてからだと2017年が初めてであることが分かります。次は2053年ですね。

\piの場合

2017\piをかけます。


2017\pi=6336.592382290612961979151704074757317425690678539588440\dots


この数に一番近い整数6337は素数です。

このような性質をもつ10000以下の素数(p\piに一番近い整数が素数となるような素数p)は


\begin{align}&13, 17, 31, 53, 71, 73, 101, 181, 197, 223, 229, 239, 241, 281, 311, 313, 353, 367, 491,\\
&521, 607, 821, 859, 863, 919, 1129, 1217, 1303, 1381, 1427, 1471, 1583, 1667, 1721,\\
&1723, 1753, 1811, 1877, 1879, 1933, 1979, 2017, 2063, 2089, 2221, 2399, 2441, 2447,\\
&2531, 2659, 2683, 2729, 2767, 2953, 3023, 3109, 3167, 3319, 3361, 3373, 3529, 3613,\\
&3929, 4139, 4211, 4297, 4507, 4519, 4591, 4603, 4691, 4721, 4733, 4759, 4799, 4801,\\
&4861, 4889, 4933, 4987, 5113, 5153, 5227, 5237, 5351, 5393, 5407, 5441, 5477, 5563,\\
&5749, 5821, 5861, 6073, 6133, 6217, 6287, 6343, 6373, 6469, 6599, 6679, 6763, 6793,\\
&6833, 7019, 7219, 7559, 7853, 7907, 7951, 7993, 8161, 8167, 8191, 8293, 8377, 8419,\\
&8543, 8627, 8629, 8699, 8831, 8887, 8929, 8971, 9001, 9011, 9041, 9043, 9181, 9311,\\
&9337, 9461, 9467, 9649, 9721, 9733, 9817, 9929, 9941\end{align}


です。なんとeの場合と同じく141個あります!!このような幸運な年は私が生まれてからだと2017年が初めてであることが分かります。この前は1979年でApéryとBeukersの論文が出た年*1ですね。次は2063年です。

Khinchin定数の場合

Khinchin定数という有名な数をご存知でしょうか?これはKhinchinが示した次の驚くべき定理に付随して定まる定数です:

Khinchin (1934) 測度0の例外を除く殆ど全ての実数xに対して、その正則連分数から得られる数列の相乗平均の極限値はxに依らない定数K_0に収束する。

xを無理数とすると一意的に

x=a_0+\cfrac{1}{a_1+\cfrac{1}{a_2+\cfrac{1}{\ddots+\cfrac{1}{a_n+\frac{1}{\ddots}}}}}

と正則連分数展開されますが、

g_n(x):=\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}

とすると、殆ど全てのxに対して

\displaystyle \lim_{n\to \infty}g_n(x)

xに依らないある定数K_0に収束すると言うのです!このK_0Khinchin定数といい、


K_0=2.685452001065306445309714835481795693820382293994462\dots


であり、Riemannゼータ値を使って

\displaystyle \log K_0 = \frac{1}{\log 2}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\zeta(2n)-1}{n}\sum_{k=1}^{2n-1}\frac{(-1)^{k+1}}{k}

と書けることなどが知られています。面白いこととして、このような定理が証明されているにも関わらず、実際にg_n(x)K_0に収束することが示されているようなxの実例は一つも知られていません。

さて、2017にKhinchin定数K_0を掛けてみましょう:


2017K_0=5416.556686148723100189694823166781914435711086986831776\dots


この数に一番近い整数5417素数です。

このような性質をもつ10000以下の素数(pK_0に一番近い整数が素数となるような素数p)は


\begin{align}&2, 5, 7, 31, 71, 83, 89, 101, 103, 109, 139, 223, 241, 293, 349, 433, 491, 509, 521, 541, \\
&599, 617, 641, 719, 751, 787, 827, 883, 947, 997, 1213, 1291, 1303, 1321, 1367, 1381, \\
&1423, 1531, 1571, 1597, 1747, 1787, 2017, 2027, 2029, 2111, 2129, 2207, 2237, 2341,\\
&2371, 2417, 2447, 2543, 2621, 2663, 2753, 2887, 3001, 3079, 3257, 3593, 3637, 3727, \\
&3847, 3943, 4127, 4259, 4261, 4357, 4363, 4373, 4451, 4457, 4513, 4547, 4591, 4621, \\
&4801, 4831, 4909, 4967, 5009, 5011, 5099, 5279, 5449, 5519, 5557, 5563, 5641, 5749, \\
&5791, 5861, 5869, 6287, 6301, 6359, 6473, 6491, 6803, 6841, 6949, 7127, 7177, 7331, \\
&7433, 7529, 7681, 7853, 7873, 7883, 7949, 8017, 8081, 8171, 8191, 8233, 8329, 8513, \\
&8597, 8627, 8629, 8731, 8863, 8971, 9029, 9091, 9187, 9221, 9257, 9391, 9437, 9467, \\
&9473, 9511, 9697, 9791, 9811, 9931\end{align}


140個です。このような幸運な年は私が生まれてからだと2017年が初めてであることが分かります。次は2027年です。

ちなみに10万以下の個数は

e 840個
\pi 883個
K_0 840個

で何故かeK_0に対する個数が一致しています。

e, \pi, K_0全てに対してこのような性質をもつ素数

同じような数列は他の色々な無理数*2でも考えることができますが、2017e, \pi, K_0という三つの重要定数に対して共通して同じ面白い性質をもつのです。このような素数は10000以下だと71, 2017, 7853の三つしかありません。特に、今地球に生きている全ての人間にとって、生きている間にこのような性質をもつ年を過ごすことができるのは2017年のみとなります。

*1:integers.hatenablog.com

*2:K_0が無理数かどうかは未解決。ちなみに、別の記事で取り上げますが、無理数\alphaに対してp\alphaの少数部分は素数pを動かしたときに一様に分布します。

代数学の基本定理のCauchyの積分定理を用いた証明

代数学の基本定理の証明はたくさん知られています。個人的にはGalois理論を使った証明が好きです。インテジャーズでも位相空間論の言葉による証明を紹介しました:

integers.hatenablog.com

今日はBoasが1964年に発表した証明を紹介したいと思います。

代数学の基本定理は主張自体が複素数に関するものですが、一番オーソドックスな証明は複素係数多項式の絶対値をとって実数範囲の微積分の知識で乗り切るものです:

mathtrain.jp

一方、複素解析におけるLiouvilleの定理を使えば瞬時に代数学の基本定理が証明されます。或いはRouchëの定理を用いても即座に示されます。これらは複素解析の強力さを見せ付けてくれますが、Liouvilleの定理にせよRouchëの定理にせよ、それらは複素解析の基本定理とも言えるCauchyの積分公式、更に辿れば、Cauchyの積分定理から導かれるものです。Boasの証明はLiouvilleの定理やRouchëの定理を経由するのではなく、複素解析の原点であるCauchyの積分定理を直接的に使った証明と言えるでしょう。

証明. p(x)は定数でない複素係数の多項式であって、任意の複素数z \in \mathbb{C}に対してp(z) \neq 0であると仮定する。必要ならばp(x)p(x)\overline{p}(x)に置き換えることによって、p(x)

z \in \mathbb{R} \Longrightarrow p(z) \in \mathbb{R}

を満たすと仮定してよい(\overline{p}(x)p(x)の各係数をその複素共役で置き換えて得られる多項式)。p\mid_{\mathbb{R}}\colon \mathbb{R}\to \mathbb{R}は連続。仮定よりp(z)は任意の実数zに対して同符号である(そうでなければ、中間値の定理より零点を持つ)。従って、

\displaystyle \int_0^{2\pi}\frac{d\theta}{p(2\cos \theta)} \neq 0

である。一方、z=e^{\sqrt{-1}\theta}と変数変換すると、この積分は

\displaystyle \frac{1}{\sqrt{-1}}\int_{|z|=1}\frac{dz}{zp(z+z^{-1})}

に等しい。q(z)=z^np(z+z^{-1})とおけば

\displaystyle \frac{1}{\sqrt{-1}}\int_{|z|=1}\frac{z^{n-1}}{q(z)}dz

となる(np(x)の次数)。pに関する仮定からz\neq 0ならばq(z) \neq 0である。また、q(z)p(z)の最高次の係数を定数項に持つような多項式なので、q(0) \neq 0も成立する。つまり、最後の積分の被積分関数は複素平面全体で正則であり、従って、Cauchyの積分定理より考えている積分は0となる。これは矛盾。 Q.E.D.

参考文献

R. P. Boas, Jr., Yet another proof of the fundamental theorem of algebra, Amer. Math. Monthly 71 (1964), 180.

アニメーション映画「算法少女」

私が小説『算法少女』(遠藤寛子ちくま学芸文庫*1)を始めて読んだのは大学生のときだったと思います。実在する和算書『算法少女』(1775)を題材にした千葉あき主人公の物語*2

それ以来『算法少女』のファンなのですが、アニメーション映画化されるとは知りませんでした。幸運にも公開直前に情報を得ることができ、25日に観てきました。大変素敵な映画です。公開日は12/24~12/28(渋谷「ユーロライブ」にて1000円)ということなので、観たい方は是非明日(公開最終日!)観に行ってください!!外村監督はたった一人で作画したそうです(4年以上)!!

上映前のトークイベントにも参加し、遠藤寛子先生ご本人を見ることができてとても嬉しかったです。

一切のネタバレを嫌う人はここで引き返して明日映画を観に行きましょう!


www.youtube.com


物語『算法少女』は各登場人物のキャラクタも大きな魅力の一つです。山田多門とか有馬頼徸(『拾機算法』を著した和算家でもある藩主)などは人気なんじゃないかなと思うのですが、私は俳人である谷素外(和算書『算法少女』のあとがきを書いた人)がお気に入りです。なぜかって?名前に素数の素が入ってる俳人とかかっこよすぎでしょ←

あきと宇多が頼徸の前で算法勝負する場面であきが勾股弦の定理を使うのですが、その際に「勾・股・弦!!」と必殺技のように叫ぶシーンが好きです。これは映画版でしか味わえない!!あ、勾股弦の定理=三平方の定理ピタゴラスの定理です。これからは「勾股弦の定理」を使っていこうと思います。「願います!!」も可愛い。

外村監督の絵は大変味のあるものですが、個人的には場面転換時などに挿入される動物や虫達が可愛くて仕方なかったです。


さて、頼徸の出題した最後の問題にあきは鎌田俊清の『宅間流円理』に載っている手法で円周率を求めました。その解法について藤田貞資にいちゃもんをつけられたあきは本多利明のもとをたずね、鎌田は関流とは独立の方法で証明を与えているというお墨付きをもらいます。このとき、オランダの算法の本にも同じ式が載っていることも教えてもらっています:

\displaystyle \pi = 3\left(1+\frac{1}{4}\cdot \frac{1^2}{3!}+\frac{1}{4^2}\cdot \frac{1^2\cdot 3^2}{5!}+\frac{1}{4^3}\cdot \frac{1^2\cdot 3^2\cdot 5^2}{7!}+\cdots \right)

小寺裕『宅間流円理巻之一, 二を読む (数学史の研究)』(2012, RIMS講究録)によれば、『宅間流円理』では

\displaystyle \text{弧背}=2\sqrt{\text{径}\cdot \text{矢}}\left\{ 1+\frac{1}{3!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right) +\frac{3^2}{5!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^2+\frac{3^2\cdot 5^2}{7!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^3+\cdots \right\}

が示されているようです。径は円の直径のことで、矢と弧背は次のような部分を指します:

f:id:integers:20161227191117p:plain

\displaystyle \arcsin \sqrt{\frac{\text{矢}}{\text{径}}} = \frac{\text{弧背}}{2\text{径}}

が簡単に確認できるため、

\displaystyle \frac{\arcsin \sqrt{\frac{\text{矢}}{\text{径}}}}{\sqrt{\frac{\text{矢}}{\text{径}}}} = \frac{\text{弧背}}{2\sqrt{\text{径}\cdot \text{矢}}}=1+\frac{1}{3!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right) +\frac{3^2}{5!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^2+\frac{3^2\cdot 5^2}{7!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^3+\cdots

となって、鎌田は本質的に\arcsinのTaylor展開

\displaystyle \arcsin x = \sum_{k=0}^{\infty}\frac{(2k-1)!!}{(2k)!!}\frac{x^{2k+1}}{2k+1} =\sum_{k=0}^{\infty}\frac{((2k-1)!!)^2}{(2k+1)!}x^{2k+1}

を示していることがわかります。建部賢弘が同年(1722年)に\arcsin^2xのTaylor展開を与えており(Eulerより15年早い)、鎌田と同じ式を松永が17年後に与えているということです。鎌田が関流とは独立と思われる方法で\arcsinのTaylor展開を与えていたという歴史は大変に興味深いです。物語『算法少女』の主人公あきちゃんも関流ではなく上方算法を学んでいたのでした。

あきが見たオランダの算法書にも書かれていた円周率を求める級数4\text{矢}=\text{径}の場合を考えていることがわかります。


ちなみに、映画『算法少女』の上の階で『この世界の片隅に』が上映されていたのでそちらも観てきました。昨日は上野の国立科学博物館に行ったのですが、和算のコーナーがあって関孝和の『発微算法』の複製を見ることができました。

*1:1973年に岩崎書店から出版され、2006年にちくま学芸文庫から復刊。

*2:実際には章子の父である千葉桃三(医師)が書いたと考えられているようです。