素数定理を伝道してきた話を書きます。
時間がないので、もうしばらくお待ちください。
[素数大富豪] ラマヌジャン革命と合成数出しにおける指数表記出し
これは素数大富豪Advent Calendar 2016
www.adventar.org
の22日目の記事です。
昨日はみうら君の記事でした:
togetter.com
いいですねえ。私も好きです。私の好きなの性質としては「唯一のジェノッキ素数である」があります:
integers.hatenablog.com
公式ルールにルールを二つ追加します
素数大富豪の「公式ルール」と呼んでいるものが存在します。それは2014年9月19日公開、2015年3月14日一部改訂のPDFファイルhttps://t.co/K5Tf8SeNHWに書かれている内容です。
公開してから既に二年以上が経ち、もはや古いため、公式ルールを書き直してもう一度公開する予定です。書いたときは数に関するルールを尊重していたため、最初の手札の枚数は指定していませんでした。ですが、最近では素数ということで7枚か11枚の手札で始めることが多いです。また、流れたカードを山札に加える際にシャッフルすべきなのかは、明示していませんが、プレイヤーに委ねていました。ジョーカー二枚出しは二枚出し最強として出せないのか?などの質問も受けました。書いた当時はこれらについてはプレイヤーに決めてもらうことにしていたのですが、新しい公式ルールの解説にはここら辺をもう少し詳しく書こうと思っています(幾つかの選択肢を設けてプレイ前にどのルールを使うかを決めてもらうなど)。「あらかじめ偶数を半数抜くべきである」という初心者用ルールなども補足欄ではなく、もっと見やすいところに書くべき気がしています。
現状の公式ルールでは二ページ目の下の方に[?]とちゃんと表示されていない部分があるなどの不備があるのですが、実は直したくても直せません。というのも、パソコンを変えてから前のデータが文字化けしてしまってそのままは修正できなくなってしまったのです。それならば一から書き直そうと思っている次第です*1。
さて、基本的には公式ルールは必要最小限のものにとどめておき、グロタンカットと合成数出し以外には特殊ルールは設けないというスタンスでした。すなわち、それ以外の様々な追加ルールについてはローカルルールとして遊んでもらうという考えです。
ところが、おかげさまで素数大富豪の認知度も少しずつ上がってきていますが、プレイヤーの皆様の考えた追加ルール案の中に「これは公式ルールに追加すべきである」と思った非常に優れた案が二つありました。ので、予定している公式ルール改訂において新ルールを二つ追加します。
そのルールとはラマヌジャン革命と合成数出しに関する指数表記出しです。
菅原響生氏考案のラマヌジャン革命は「ラマヌジャンのタクシー数を出すと革命状態になる」というものです。
おのりん氏考案の合成数出しに関する指数表記出しは
ローカルルール案:素因数分解の指数表記を認める。
— おのりん (@aonorin33) 2016年11月9日
例えば32を場に出す場合、32=2^5なので、3, 2, 2, 5 で出すことができる。88であれば88=2^3*11なので、8, 8, 2, 3, J や 8, 8, 2, 3, 1, 1で場に出せる。 #素数大富豪
です。以下、改訂版に先行してこれらのルールを詳しく解説します。二人のアイデアを元に若干修正したり厳密にしたりしています。
ラマヌジャン革命
ルール
- は素数ではないが素数として四枚出しで場に出すことができ、場に出ると革命状態となる。革命状態時は「場に出ている数より大きい数のみを出すことができる」という基本ルールが逆転し、「場に出ている数より小さい数のみを出すことができる」となる。
- つまり、手札にがあり、場により小さい四枚出しが出ている or 場が流れている状態で自分の手番が来たときに出せる。
- を出す際に一部をジョーカー利用で出してもよい。
- が場に出た際に、グロタンカットのように強制的に場が流れるわけではない。次の手番のプレイヤーはより小さい四枚出しを出すか、パスすることになる。
- 革命状態時であっても「枚出しには枚出しでしか返せない」はそのまま適用される。
- パスをして場が流れても革命状態は解除されない。再度、他のプレイヤーがを出すことに成功した場合は革命状態が解除され平常時に戻る。
- 特別ルール設定のため、を合成数出しで出してはならない*2。より小さい四枚出しが場に出ている時、あるいはラマヌジャン革命による革命状態時に場により大きい四枚出しが場に出ている時、を合成数として出したプレイヤーには反則規定を適用し、ペナルティを受けさせる。その際、革命状態は解除されない。
- を出す場合には特別に素数と同様の立場で出すことができるが、他の合成数出しの素因数としてを用いることはできない(グロタンカットの時と同様)。例えば、において、, を捨ててを場に出すということはできない(出した場合は反則規定を適用)。という素因数分解に従って出す必要がある。
最初期には素数大富豪においても革命を取り入れていたのですが、それをやめにした経緯は
integers.hatenablog.com
に書いた通りです。簡単にまとめると
- 弱いカードの救済措置は必要ない。
- 四枚出し以上で革命が発動する事にすると、通常の大富豪に比べて頻繁に革命状態になってしまう。
- 「四枚出し以上」という発動要因に必然性が感じられない。
という理由でした。しかし、よくよく考えてみると革命状態を導入する事には
- カード一枚一枚に対する救済措置は不要でも、革命状態を実現するとそれまではあまり出されることのなかった小さい素数が出せる事になるので新しいゲーム性が生まれる。
- ジョーカーをとして利用してもよいというルールが有効に利用されるケースが生じる。
というメリットがあり、
- 四枚出し以上に必然性がなく頻繁に発動してしまうのであれば、素数大富豪のコンセプトに合った発生頻度がそこまで高くない別の革命状態を発動するルールを設ければよい。
ということがわかります。通常の大富豪にローカルルールがありすぎることには苦言を呈しましたが、革命は8切り以上に大富豪における絶対的特殊ルールです。Advent Calenderを立ち上げて下さった二世さんによれば「素数大富豪に革命はないの?」と聞かれることも頻繁にあったそうです。
「大富豪」と紹介すると「革命はないの?」という話題がいつも出るので、革命ルールは欲しいと思ってました!また、高名な数学者の名前を冠しているのも素数大富豪らしくて良いかんじだと思います!
— 二世 (@m_2sei) 2016年11月5日
そして、見事にこれらの要求に応えてくれるルールこそがラマヌジャン革命というわけです。はラマヌジャンのタクシー数として有名であり、
数の愛好家にとっては絶対の知識です。グロタンディーク素数以上に有名と言ってよく、グロタンディーク素数は殆どジョークですが、ラマヌジャンのタクシー数は数学的に面白い数であると言えます。
数学的な観点で「革命が起こる」ことを意味するような数を見つけるのは容易ではないでしょうが、そもそもグロタンディーク素数も「カット」を表す数というわけではありません。そこに関しては妥協することにして、「何か数の愛好家が好む特別な数」に特別ルールの役割を担ってもらうという観点で導入したルールでした。
ですので、単に四枚出し以上で発動するという一番最初の私の案に比べると、はかなり素数大富豪のコンセプトに合ったチョイスと言えます。
ラマヌジャン革命を導入すれば、「四枚出し以上で革命が発動する事にすると、通常の大富豪に比べて頻繁に革命状態になってしまう。」という問題点も克服できます。ただ、は素数ではないので合成数出し出来た場合のみ革命発動というルールにしてしまうと出すのがかなり難しくなってしまいます。これについては、グロタンカットのときと同様「素数でないけれどそのまま出してよい」という特別措置を講じれば出現頻度はある程度適切になると期待できます。実戦で既にラマヌジャン革命が発生したことがあるとのことですので、問題なさそうです。ジョーカールールを入れることによりもう少し出現しやすくなると思います。
しかしながら、ゲーム性のために「素数でないのに素数と同じ条件で出せる」という点に何か理由を見出したくはありました。グロタンカットの場合は「は素数でないのに素数と呼ばれている」というジョークがあったのでそのような特別ルールにしたわけです。にも何か素数っぽさがあれば嬉しいです。
これについてはみうら君が見事に考察してくれています:
はフェルマーテストを必ずすり抜けてしまうという意味でめちゃくちゃ素数っぽい数であるカーマイケル数だったのです。
カーマイケル数は下から順にと並んでおり、は3番目に現れます。なので、カーマイケル数の観点で一番覚えられるべき数は最小であるです。何かに特別性が欲しいところですが、みうら君は「素数大富豪において四枚を必要とする最小の絶対擬素数」という特徴づけを述べています。四枚というのは通常の大富豪における革命発生条件の名残でしょう。私がここで指摘したい点ははすぐにの倍数であると判定でき()、は明らかにの倍数なので人間的にはとは明らかに素数ではありません。一方、は最小の素因数がなので、普通は少し考えないと素数でないと判断できません。いわゆる「パッと見素数」です。というわけではそれなりに素数っぽいので「素数でないのに素数と同じ条件で出せる」という特別措置に一定のこじつけができました。
以上のような考察に基づき、ラマヌジャン革命は公式ルールに含めるに相応しいと思いました。
合成数出しに関する指数表記出し
ルール
- 合成数はその素因数分解に現れる素数を全て手札から捨てることによって場に出すことができる。
- 同じ素因数が複数ある場合はその全てを捨てる必要がある(例:を出すにはを四枚捨てる必要がある)。
これらが合成数出しの元々のルールでした。追加するルールは次のものです:
- その際、部分的に指数表記出しをしてもよい。
例) を
のように指数表記で出してもよいし、部分的に指数表記を利用して
と出してもよい()。
- を用いて乗として数を出すことはできない。
例) とみなした出し方
やとみなした出し方
などは禁止(出すとペナルティを受けるのではなく、このようには出せない)。
- 指数部分の数の一部にジョーカーを用いてからの代わりとして用いてよい。
例) をジョーカーをとして
のように出すことができる。
- ただし、指数部分の数の一部を表現するのにジョーカーをとして用いることはできるが、乗および乗として出すことはできない。
例) をジョーカーをとして
と出すことはできるが、とみなして
とを出したり、とみなして
とを出したりすることはできない(こちらも反則ではなく禁止事項)。
- 入れ子構造に指数表記出しをしてもよい。この際もジョーカーを利用して乗を作るのは禁止である。
例) をと考えて
と出すこともできるし(もOK)、
と考えて
と出すこともできる。
7日目の記事に書いたように、合成数出しルールは「素数の数学的性質を反映したい」という私の欲求から作られたルールでした。ある程度面白いゲーム性を生み出すルールだと感じていますが、自己満足でつけたルールのため対人戦では使われる機会が比較的少ないです。
おのりん氏考案の指数表記出しを導入しても素数や無平方数(のようにより大きい平方数を約数に持たない数)については今までの出し方と全く同じです。つまり、素数や無平方数に関しては今までのゲーム性を全く阻害しません。
一方、指数表記出しを導入することによって無平方数ではない合成数がこれまでよりは出しやすくなります。これまで全く出すことができなかった数もたくさん出せるようになります。
今までは最小のエデンの園素数に対して、素数大富豪で出せない合成数についてはが最小とかなり小さい数でありながら出せない可哀想な数達がいました。しかし、が出せないなんて悲しいじゃないですか*3。このような数達が一挙に出しやすくなるわけですから、数を愛する素数大富豪のコンセプトにとても合致したルールと言えるでしょう。
無平方数ではない合成数の出し方は一般に複数通り生じることになりますが、素因数分解の一意性を破壊しているわけではないので問題ありません。むしろ、出し方がたくさんある方が出す機会も増えてゲームが面白くなると期待します。一方で、乗を含めるのは素因数分解の一意性の観点からすると認めない方がよいと判断しました。
指数表記を許すというアイデアは僕は思いつかなかったのですが、そもそも素数大富豪の基本アイデアが「数をconcatenateして見たままに進法表記で読む」というものでしたから、指数表記も許すのはある意味で自然だと思われます。指数表記も過去の数学者が発明した「少ない部品(数)を用いてうまく大きい数を表す」方法なのですから。
以上、公式ルール追加のお知らせでした。
明日の記事はicqk3氏による「ラマヌジャン革命を実装してみたい」です。
*1:書きました: integers.hatenablog.com
*2:ルール変更しました:integers.hatenablog.com
*3:と言えば次のような性質を持ちます: integers.hatenablog.com
「√2+√3+√5+√7は無理数である」など
この記事は日曜数学アドベントカレンダーの17番目の記事です。
http://www.adventar.org/calendars/1777www.adventar.org
昨日の記事はToshiki Takahashiさんのリープグラフと複素確率 | Advent Calendar 2016 | DIY Mathematics |でした。
今日は、キグロさんの20日の動画の予習的記事を書こうと思いました。
次の問題を解いてみてください:
特に困難なく解けることと思います。このように、例えばが無理数であることは簡単に証明できますが、一般には(無理数)(無理数)(無理数)は言えないので注意が必要です。は足しても無理数であることを示せる数少ない例の一つなのです。とが無理数であることは
eが無理数であることの5通りの証明 - INTEGERS
フェルマーのクリスマス定理 - INTEGERS
などで紹介しましたが、が無理数であるかは未解決問題です*2。
さて、上の問題を解けた皆さん。次の問題は解けるでしょうか?
これが意外に難しいのです。実は、これは近畿大学での文化祭で毎年開催されている数学コンテストの第12回で出題された最初の問題でもあります。意外に難しいですが、数学が得意な中学生なら解けるだろうというぐらいの難易度です。というわけで解けるまで考えてみましょう。
ここでは、もう少し一般的な設定で証明をつけてみたいと思います。
(例: は無平方であり、)。
自然数は必ずと一意的に表すことができる(は自然数、は無平方な自然数)。このとき、をの無平方部分(square-free part)といい、と表すことにする。
証明. 実際には一段階ずつ証明していく。
有理数がを満たすと仮定する。このとき、であることを示せばよい。適当に分母を払うことによっては整数であると仮定してもよい。と変形し、両辺を二乗してを得る。と仮定し、を一つ取る。すると、が無平方という仮定より、は奇数であるにもかかわらず右辺についてはは偶数なので矛盾。従って、であり、でもある。
有理数がを満たすと仮定する。このとき、を示せばよい。分母を適当に払うことによっては整数であると考えてよい。またはがならばStep1の状況になるため、と仮定して矛盾を導く。なので、とすることによって、問題は次に帰着される。
以下、複合同順。有理数が存在してとなったと仮定する。両辺を二乗すれば
を得るが、仮定よりは平方数ではないので、これはが無理数(Step1より従う)であることに反する。
これもStep2を利用して先ほどと同様の議論をすれば次に帰着される(適当にを入れ替えたり、全体を倍することによって符号については主張にある場合を考えれば十分)。
有理数を用いてとなったと仮定する。
と変形して二乗すれば、
を得る。であればStep2よりが上一次独立であることに矛盾する。であれば*3、ある有理数が存在してが成り立つが、であれば上の式からが無理数であることに矛盾する。最後に、の場合を考える。このとき、
が成り立つ。二つ目の式よりは整数であり*4、を消去すると
となってまたはが平方数となってしまう。これは矛盾。
Step3と今までと同様の議論によって、示したい定理は最終的に次に帰着される。
有理数を用いてと仮定する。
と移行して両辺を二乗することにより
を得る*5(基本的には二乗してもルートの数が減らない点が難しい点ですが、諦めないことが大切!)。とすれば
と書き直せる。これを二乗すれば
となる。両辺に式を加えると
を得る(が消えた!!)。仮定より, , はどれも空集合ではなく相異なることが分かるので*6、Step3よりは上一次独立である。従って、
が成り立つ。すると、が得られ、となって矛盾する。 Q.E.D.
ところで、ルートの数がもっと多くなっても当然同様のことは成立します。次の定理が一般の場合を表しています:
これは
や
などと本質的に同値であり、ここまで一般的に書いておけば特に難しいわけではありません(帰納法とGalois理論の基本定理を使った簡単な証明*7もありますし、他の一般的な理論(Kummer拡大の理論*8なり分岐の理論なり)を使っても示せます)。ただ、この記事では比較的初等的な証明(体の言葉(定義と次元公式ぐらい)は知っている必要があるが、Galois理論は知らなくても良い)を紹介して締めくくりたいと思います。主張を素数に限定せずに書くことによってGalois理論なしに帰納法をまわすことができます*9。
証明 に関する帰納法で証明する。のときは自明。で成立すると仮定して、のときに示す。を任意にとって、とおく(のときは)。
を示せばよい(このとき、となって、帰納法の仮定と合わせると、が言える)。
よって、と仮定して矛盾を導く。このとき、或るが存在して
と書ける。
のとき このとき、両辺を二乗して
より
となり、を得る。これは
となって矛盾する。
のとき となるので、。に対して帰納法の仮定を用いることにより
となって矛盾する。
のとき
より、 となるので、に対して帰納法の仮定を用いることにより
となって矛盾する。 Q.E.D.
明日はfunyunanoさんがGaloisのイケメンさについて語ってくださいます。
*2:個人的にはのことを追求してという大難問に挑戦するのが筋がいいと思っています。これが示せればも従うため。ここで、はKontsevich-Zagierの意味での周期環。
*3:など、このような場合はあり得る。
*4:二乗して整数になるような有理数は元々整数である。
*5:左辺については複合同順であることに注意。
*6:念のためにを示しておく。仮定によってを割り切るがを割り切らないような素数が存在する。このとき、ならばかつであるし、ならばかつなので、が従う。
*7:証明の概略) に対して、がGaloisかつと仮定し(帰納法)、を示せばよい。は指数の部分群を個もつが(このことは次元-部分空間の個数を数えると分かる)、Galois理論の基本定理によってとの中間体であって上二次拡大であるものはなる形のもので尽きることが分かる()。よって、は中間体にはなり得ない。
*8:tsujimotterさんによる解説があります。 tsujimotter.hatenablog.com
*9:この証明は4年ぐらい前に思いついたものです。初等的ですが、微妙にテクいと思っています。