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数、特に整数に関する記事。

非Wieferich素数の無限性とABC予想

Wieferich素数は10933511の2つしか発見されていません:
integers.hatenablog.com

ということは、知られている素数のうち殆ど全ては非Wieferich素数であるということになります。にもかかわらず、「非Wieferich素数が無数に存在する」ことを数学的に証明しようとすると大変に難しいのです。素数というのは本当に難しい対象です。非Wieferich素数の無限性については次が知られています。

定理 (Silverman) ABC予想が正しいと仮定する。このとき、非Wieferich素数は無数に存在する。

ABC予想については
integers.hatenablog.com
を参照してください。

ABC予想という大変に難しく、大変に深い事実を用いることによって初めて「絶対に無数に存在するに違いないもの」の無限性を証明できるのです。Wieferch素数が無数に存在するか有限個しか存在しないかについては何一つ分かっていません。

実際にはSilvermanは次の定理を証明しました:

定理 \alpha \in \mathbb{Q}^{\times}\setminus \{\pm 1\}とする。ABC予想が成立するならば、\alphaのみに依存する正の定数x_{\alpha}, C_{\alpha}が存在して、x > x_{\alpha}ならば
\#\{ p\leq x \mid p\text{は}\alpha^{p-1}\not \equiv 1 \pmod{p^2}\text{を満たす素数}\} > C_{\alpha}\log x
が成り立つ(合同式は有限個の例外素数を除いて考えられることに注意)。
この定理の証明の解説を行うことが今回の記事の目的です。

記号

\alpha \in \mathbb{Q}^{\times}\setminus \{\pm 1\}を固定し、\alpha = a/b (a, bは互いに素な整数)と既約分数表示する。

\Phi_n(x, y)n次斉次円分多項式とする。円分多項式については
integers.hatenablog.com
を参照のこと。

\displaystyle \Phi_n (x, y) = y^{\varphi (n)}\Phi_n \left( \frac{x}{y}\right),

\displaystyle x^n-y^n = \prod_{d \mid n}\Phi_n(x, y) ―①

なる関係が成り立つ。\varphi (n)はEulerのトーシェント関数:
integers.hatenablog.com

また、

\displaystyle W_{\alpha}(x) := \{ p\leq x \mid p\text{は}\alpha^{p-1}\not \equiv 1 \pmod{p^2}\text{を満たす素数}\}

\displaystyle m_p := \min \{m \in \mathbb{N} \mid \alpha^m \equiv 1 \pmod{p}\}

とする(m_p\alpha\mathbb{F}_p^{\times}における位数*1)。

\displaystyle a^n-b^n = u_nv_n, \ \Phi_n(a, b)=U_nV_n

と分解する。ここで、v_n, V_nはそれぞれa^n-b^n, \Phi(a, b)のパワフルパートである。よって、特にu_n, U_nは無平方数である。パワフルパートの定義については
integers.hatenablog.com
を参照のこと。

\displaystyle W_{\alpha}(x) = W_{\alpha^{-1}}(x), \ W_{\alpha}(x) \cup \{2\} = W_{-\alpha}(x) \cup \{2\}

が成り立つので、a > b > 0と仮定してよい。

準備

補題1 素数pp \nmid abn, \ p \mid U_nを満たすならば
\displaystyle m_p=n, \ \alpha^{p-1} \not \equiv 1 \pmod{p^2}
が成り立つ。

証明. p \nmid b, p \mid U_n \mid a^n-b^nより、\alpha^n \equiv 1 \pmod{p}が成り立つことがわかる*2。また、p \nmid nより多項式x^n-y^n \bmod{p}は分離多項式なので、任意のnの真の約数dに対して、

\Phi_d (a, b) \not \equiv 0 \pmod{p}

であることが①よりわかる。これはm_p=nを示している。

次に、p \mid U_nより\mathrm{ord}_p(\Phi_n(a, b) )=1なので、\alpha^n \not \equiv 1 \pmod{p^2}である。よって、あるp進単数u \in \mathbb{Q}が存在して、\alpha^n \equiv 1+upと書ける。m_p=nより\frac{p-1}{n} \in \mathbb{Z}なので(Fermatの小定理)、

\displaystyle \alpha^{p-1} = (1+up)^{\frac{p-1}{n}} \equiv 1+up\cdot \frac{p-1}{n} \not \equiv 1 \pmod{p^2}

を得る。以上で証明が完了する。 Q.E.D.

補題2\ \ \ \#W_{\alpha}(x) \geq \#\{n \leq \log_ax \mid |U_n| > abn\}.

証明. n|U_n| > abnを満たすと仮定する。このとき、U_nが無平方であることから、p_n \nmid abnを満たすような素数p_n \mid U_nを選ぶことが出来る。補題1より

 m_{p_n}=n, \ \alpha^{p_n-1} \not \equiv 1 \pmod{p_n^2}

が成り立つ。n \leq \log_axならば、p_n \leq |U_n| < a^n \leq xよりp_n \in W_{\alpha}(x)。よって、

W_{\alpha}(x) \subset \{ p_n \mid n \leq \log_ax, \ |U_n| > abn\}

が成り立つ。p_n=p_{n'}ならばn=m_{p_n}=m_{p_{n'}}=n'なので、所望の結果を得る。 Q.E.D.

補題3 正の定数Cが存在して、
|\Phi_n(a, b)| \geq e^{C\varphi (n)}
が任意の整数a > b\geq 1に対して成り立つ。

証明. \displaystyle \Phi_n(a, b)=\prod_{\zeta}(a-b\zeta)と分解する。ここで、\zeta1の原始n乗根全体をわたる。まず、a-b \geq 2のときを考える。このとき、

|a-b\zeta| \geq a-b \geq 2

であるから、

|\Phi_n(a, b)| \geq 2^{\varphi (n)}

が成り立つ。次にa-b=1のときを考える。全ての\zetaに対して、|a-b\zeta| \geq a-b =1であり、\mathrm{Re}(\zeta) < 0であるならば

\begin{equation}\begin{split} |a-b\zeta | &= \sqrt{(a-b\mathrm{Re}(\zeta))^2+(-b\mathrm{Im}(\zeta)^2)} \\ &= \sqrt{a^2+b^2-2ab \mathrm{Re}(\zeta)} \\ &\geq \sqrt{a^2+b^2} \geq \sqrt{5}\end{split}\end{equation}

が成り立つ。ここで、nが十分大きいときは\zetaは単位円周上に一様に分布することを
integers.hatenablog.com
で証明したので、約半数の\zetaに対して\mathrm{Re}(\zeta) < 0が成り立つ。つまり、\varepsilon > 0を一つ固定するとき、十分大きいnに対して

|\Phi_n(a, b)| \geq \sqrt{5}^{(\frac{1}{2}-\varepsilon )\varphi (n)}

が成り立つ。以上を合わせることにより所望の結果が得られる。 Q.E.D.

補題4 ABC予想が成立すると仮定する。このとき、\alpha\varepsilonにのみ依存する正の定数C_{\alpha, \varepsilon}が存在して、
V_n < C_{\alpha, \varepsilon}a^{\varepsilon n}
が成り立つ。

証明. V_n \mid v_nより、v_nについて示せばよい。a^n-b^n-u_nv_n=0であり、対称ABCトリプル(a^n, -b^n, -u_nv_n)に対してABC予想を適用すると、任意の\varepsilon > 0に対して\varepsilonのみに依存する正の定数C_{\varepsilon}および、\alpha\varepsilonのみに依存する正の定数C_{\alpha, \varepsilon}が存在して

\begin{equation}\begin{split} a^n&= \max \{a^n, b^n, u_nv_n\} \\ &< C_{\varepsilon}\mathrm{rad}(abu_nv_n)^{1+\varepsilon} \\ &< C_{\alpha, \varepsilon}(u_n\sqrt{v_n})^{1+\varepsilon} \\ &< C_{\alpha, \varepsilon}(a^n/\sqrt{v^n})^{1+\varepsilon}\end{split}\end{equation}

となる(最後の部分でu_n < a^n/v_nを用いた)。よって、

\displaystyle u_n < C_{\alpha, \varepsilon}a^{\frac{2n\varepsilon}{1+\varepsilon}}

が成り立つ。あとは\varepsilon\frac{\varepsilon}{2-\varepsilon}に置き換えればよい。 Q.E.D.

定理の証明

補題3,4より

\displaystyle |U_n| = \frac{|\Phi_n(a, b)|}{V_n} \geq \frac{e^{C\varphi (n)}}{C_{\alpha, \varepsilon}a^{\varepsilon n}}

なので、\alpha, \varepsilonのみに依存する正の定数C'_{\alpha, \varepsilon}が存在して、

\displaystyle C\varphi (n)-\varepsilon n\log a-C'_{\alpha, \varepsilon} \geq \log n ―②

が成り立つならば |U_n| > abnが言える。従って、補題2より

\displaystyle \#W_{\alpha}(x) \geq \#\{ n \leq \log_a x \mid n\text{は②を満たす}\}

が成り立つ。任意に\delta > 0をとって固定し、\varepsilon := \delta C/2\log aとする。\varphi (n) \geq \delta nと仮定すると、

\displaystyle C\varphi (n) -\varepsilon n\log a-C'_{\alpha, \varepsilon}-\log n \geq (C\delta -\varepsilon \log a)n-C'_{\alpha, \varepsilon}-\log n

なので、\deltaおよび\alphaのみに依存する自然数n_0が存在して、n \geq n_0で右辺は正となる。すなわち、n \geq n_0で②が成立する。従って、
integers.hatenablog.com
で証明した結果を用いることによって

\begin{equation}\begin{split}\#W_{\alpha}(x) &\geq \#\{ n_0 \leq n \leq \log_a x \mid \varphi (n) \geq \delta n\} \\ &\geq \left( \frac{6}{\pi^2}-\delta \right) \log_a x + O(\log \log_a x) -n_0 \end{split}\end{equation}

となり、\deltaは任意であったから証明が完了する。 Q.E.D.

*1:bの素因数を除くpに対しては\alpha \in \mathbb{Z}_{(p)}が成り立つので、\mathbb{Z}_{(p)}/p\mathbb{Z}_{(p)} \simeq \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}なる同型を通して\alpha\mathbb{F}_pの元とみなせる。更にaの素因数を除外すれば\mathbb{F}_p^{\times}の元となる。

*2:ちなみにp \nmid aという条件はp \mid U_nであるための必要条件である。