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数、特に整数に関する記事。

相加相乗平均の不等式の内田康晴氏による証明の解説

2016/4/28, ロマンティック数学ナイトという素晴らしいイベントが開催されました。
ロマンティック数学ナイト

数々の熱いプレゼンの中、蓑田恭秀氏のプレゼン『意外と深い「平均」の世界』を聞いて大変興味をもったのが、「2008年、高校教師である内田康晴氏が相加相乗平均の不等式の新証明を発見し、それがオーストラリアの研究誌に出版され、日本でもニュースとして取り扱われた」というものです。

帰宅して、この証明が気になって論文を読んだので解説記事を書きます。とは言っても、僕が知らなかっただけで当時はそれなりにニュースになったらしく、検索するといくらでも解説ページは見つかりそうです。内田氏本人による解説記事もありました:
http://www.sqr.or.jp/usr/haru/websitemodel/rezume3.pdf

というわけで、この記事の位置付けは「私(せきゅーん)と同じくこの話を今まで知らず、ロマンティック数学ナイトで初めて内田氏の証明の存在を知った方向けの解説記事」ということにします。

論文:Yasuhiro Uchida, A simple proof of the geometric-arithmetic mean inequality, journal of inequalities in pure and applied mathematics, Vol. 9 (2008), Issue2, Article 56, 2pp.

相加相乗平均の不等式

相加相乗平均の不等式 A_1, \dots, A_nを正の実数とする。このとき、
\displaystyle \frac{A_1+\cdots +A_n}{n} \geq \sqrt[n]{A_1\cdots A_n}
が成り立つ。等号成立条件はA_1=\cdots =A_nである。

証明はたくさん知られています。例えば、
mathtrain.jp
に指数関数を用いた証明が掲載されています。

nに関する命題であるため、数学的帰納法で証明しようとするのは自然です。しかしながら、高校数学の範囲の中ではnn+1を関連付けるのが割と難しい部類に入ります。

一方、2^k2^{k+1}と関連付けることは簡単なため、部分的に数学的帰納法がまわることが分かります。更に、n+1nなる逆方向の関連付けが可能なため、証明を完結させることが出来ます。

この証明を内田氏の証明と対比させるために解説しておきます。なお、WikipediaによればCauchyによる証明らしく、このテクニックに"forward-backward-induction"という名称が付けられているようです*1。また、等号成立条件は証明を眺めれば分かるため省略します。

証明の一例

n=2^kのときに成立することをkに関する帰納法で証明する。k=1のときは簡単。n=2^kのときに成立すると仮定すると、

\begin{equation}\begin{split} \frac{A_1+\cdots +A_{2^{k+1}}}{2^{k+1}} &= \frac{1}{2} \left( \frac{A_1+\cdots +A_{2^k}}{2^k} + \frac{A_{2^k+1}+\cdots +A_{2^{k+1}}}{2^k} \right) \\ &\geq \frac{\sqrt[2^{k}]{A_1\cdots A_{2^k}}+\sqrt[2^{k}]{A_{2^k+1}\cdots A_{2^{k+1}}}}{2} \\ &\geq \sqrt{\sqrt[2^{k}]{A_1\cdots A_{2^k}}\sqrt[2^{k}]{A_{2^k+1}\cdots A_{2^{k+1}}}} \\ &= \sqrt[2^{k+1}]{A_1\cdots A_{2^{k+1}}}\end{split}\end{equation}

n=2^{k+1}のときも成立することが分かる。

一方、n+1のときに成り立つと仮定するとnのときにも成り立つことを示す(これが言えれば、一つでも成り立たないnが存在すればそれ以降ずっと成り立たないことになり、前半で示した内容に矛盾する)。

A_1, \dots, A_n, A_{n+1}:=\sqrt[n]{A_1\cdots A_n}に対してn+1の場合の不等式を適用することにより、

\begin{equation}\begin{split} \frac{A_1+\cdots +A_n}{n} &= \frac{A_1+\cdots +A_{n+1}-A_{n+1}}{n} \\ &= \frac{n+1}{n}\frac{A_1+\cdots +A_{n+1}}{n+1}-\frac{A_{n+1}}{n} \\ &\geq \frac{n+1}{n}\sqrt[n+1]{A_1\cdots A_n\sqrt[n]{A_1\cdots A_n}}-\frac{A_{n+1}}{n} \\ &= \frac{n+1}{n}\sqrt[n]{A_1\cdots A_n}-\frac{\sqrt[n]{A_1\cdots A_n}}{n} \\ &= \sqrt[n]{A_1\cdots A_n}\end{split}\end{equation}

nの場合にも成り立つことが示された。 Q.E.D.

内田氏による証明

内田氏の証明は不等式に関する或る簡単な補題を上手く用いて、nn+1を関連付けることによって通常の帰納法で証明しています。

実際には、相加相乗平均の不等式と同値な次の定理を示します(a_i=\sqrt[n]{A_i}とすればよい):

同値な不等式 a_1, \dots, a_n > 0に対して、不等式
a_1^n+\cdots +a_n^n \geq na_1\cdots a_n
が成り立つ。等号成立条件はa_1=\cdots =a_nである。

補題 a_1 \geq a_2, \ b_1 \geq b_2ならば
a_1b_1+a_2b_2 \geq a_1b_2+a_2b_1
が成り立つ。

証明 (左辺)-(右辺)=(a_1-a_2)(b_1-b_2) \geq 0Q.E.D.

同値な不等式の証明 帰納法で示す。n=1のときはOK。

\displaystyle a_1^n+\cdots +a_n^n \geq na_1\cdots a_n

を仮定してn+1のときに示せばよい。a_1\geq a_2\geq \cdots \geq a_{n+1}と仮定しても一般性を失わない。

補題を繰り返し使って、a_1^{n+1}+\cdots +a_{n+1}^{n+1}を上手くa_1^n+\cdots +a_n^nに関連付ける。

a_n \geq a_{n+1}なので、補題より

\displaystyle a_n^{n+1} + a_{n+1}^{n+1} = a_n^na_n + a_{n+1}^na_{n+1} \geq a_n^na_{n+1} + a_{n+1}^na_n

が成り立ち、

\displaystyle a_1^{n+1}+\cdots +a_{n+1}^{n+1} \geq a_1^{n+1}+\cdots +\color{red}{a_{n-1}^{n+1}}+\color{green}{a_n^na_{n+1}}+\color{red}{a_{n+1}^na_n} ―①

が得られる(は次に変形する部分、は変形が完了した部分)。次に、a_{n-1}^{n} \geq a_{n+1}^{n-1}a_{n}, \ a_{n-1} \geq a_{n+1}なので、補題より

\displaystyle a_{n-1}^{n+1} + a_{n+1}^na_n = a_{n-1}^{n}a_{n-1} + (a_{n+1}^{n-1}a_n)a_{n+1} \geq a_{n-1}^na_{n+1} + a_{n+1}^{n-1}a_{n-1}a_{n}

が成り立ち、①より

\displaystyle a_1^{n+1}+\cdots +a_{n+1}^{n+1} \geq a_1^{n+1}+\cdots + \color{red}{a_{n-2}^{n+1}}+\color{green}{a_{n-1}^na_{n+1}+a_n^na_{n+1}}+\color{red}{a_{n+1}^{n-1}a_{n-1}a_n} ―②

が得られる。次は、a_{n-2}^n \geq a_{n-2}^{n-2}a_{n-1}a_n, \ a_{n-2} \geq a_{n+1}なので、補題より

\displaystyle a_{n-2}^{n+1} + a_{n+1}^{n-1}a_{n-1}a_n = a_{n-2}^na_{n-2}+(a_{n+1}^{n-2}a_{n-1}a_n)a_{n+1} \geq a_{n-2}^na_{n+1} + a_{n+1}^{n-2}a_{n-2}a_{n-1}a_n

が成り立ち、②より

\begin{equation}\begin{split} & \ \ a_1^{n+1}+\cdots +a_{n+1}^{n+1} \\ &\geq a_1^{n+1}+\cdots + \color{red}{a_{n-3}^{n+1}}+\color{green}{a_{n-2}^na_{n+1}+a_{n-1}^na_{n+1}+a_n^na_{n+1}}+\color{red}{a_{n+2}^{n-2}a_{n-2}a_{n-1}a_n}\end{split}\end{equation}

が得られる。この変形を繰り返していけば、最終的に

\displaystyle a_1^{n+1}+\cdots +a_{n+1}^{n+1} \geq (a_1^n+\cdots +a_n^n)a_{n+1}+a_1\cdots a_{n+1}

に到達する。よって、帰納法の仮定により

\displaystyle a_1^{n+1}\cdots +a_{n+1}^{n+1} \geq (na_1\cdots a_n)a_{n+1}+a_1\cdots a_{n+1} = (n+1)a_1\cdots a_{n+1}

を得る。こうして証明が完了する(等号成立条件は簡単に確かめられるので省略)。 Q.E.D.

*1:京都大学の入試問題として2009年に出題された「数学乙第6問」もforward-backward-inductionで解くことができます。