Taoの論文の最終節: §10 Recurrence for almost periodic functions に入ります。Szemerédiの定理の証明で残っているのは
ですが、§9でKeyとなる命題(Prop 9.1)を証明し、Thm 3.3のの場合の証明を済ませました。
の場合はProp 9.1を即座には適用することができないため、この節においてProp 9.1を上手く適用できるように工夫して証明されます。
まず、Thm 3.3はの場合に示せば十分であることを確認します。理由:
のときはHölderの不等式より
となって主張が成立する。のときは、
-ノルム、積分、一様概周期性ノルムがいずれもスケール不変であることに注意すれば
,
と置き換えることができ、
であることと、倍写像の全単射性から
の場合に帰着できることがわかる。
Thm 3.3をに関する帰納法で証明しますが、
のときに成立すると仮定して
の場合を証明するのに§7のエネルギー増加法を利用します。従って、実際に証明すべきことは次の命題に集約されます。ただし、次の略記ルールを適用します:
を満たすと仮定する。を
とする。また、は整数で、
(resp.
)をそれぞれ複雑度が
(resp.
)以下であるような
-コンパクトな
上の
-加法族であって
及び
に対するエネルギーギャップ条件
を満たすようなものとする。このとき、次の少なくとも一方を満たす:
(成功): 任意の整数に対して
が成り立つ。
(エネルギー増加): 或る複雑度がの
-コンパクトな
上の
-加法族
が存在して、エネルギー増加
が生じる。
回帰定理ダイコトミー
Thm 3.3の証明
回帰定理ダイコトミーが証明されれば(直後に少し詳しく解説するが)、§7のエネルギー増加法によって帰納法のステップの証明が完了し(
の場合を示せば一般でも成り立つことは既にみた)、§9で
の場合を証明していることと合わせて、Thm 3.3が証明されたことになる。エネルギー増加法の適用については、§7補題の
のパラメータ
とThm 3.3に現れる
は異なることに注意*1。そこで、
として、
はここでは不等式
が成り立つことである。の各成分が有界関数である必要があるが、それは
が非負値有界であることから従う。§8で既に言及したように各部分で依存するパラメータを増やしても帰結が同じパラメータに依存するようになるだけなので、
依存を省略していることから(
についても実際は
であり、§7の補題における
は
)、エネルギー増加法による帰結は
となる。 Q.E.D.
以下、途中で幾つかの補題を証明する、入れ子方式で証明していきます。(その一)ではProp 9.1を適用するところまで書いて、(その二)で完結させます。
回帰定理ダイコトミーの証明
であることから、空でない有限集合
、
,
毎に定義される有界関数
、
毎に定義される有界関数
が存在して、任意の
に対して
が成り立つ。を
のみに依存して定まる或る整数とする(取り方は最後に説明する)。
のときは
が成り立つ。理由: が非負値なので、
の部分をみて
と評価でき、Hölderの不等式より
なので、
を得る。 つまり、(成功)となるので、以下、の場合を考える。このとき、
が成り立つ。理由: 各に対して、
及び
を用いて
と表す方法は高々
通りなので
が成り立つ。両辺をで割ることにより
を得る。 そこで、 を固定して
について考察する。
補題の証明
を固定し、
,
,
とする。以下、
という略記を用いる。
を示せばよい。理由: 集合を
を
とする。
であり
なので、不等式②が示されれば
となって、 の元が存在することがわかる(
に注意)。
不等式②を示すには
を示せばよい。理由: Chebyshevの不等式*3より、この不等式が証明されれば
と不等式②が得られる。
まず、-ノルムの二乗を展開して
に注意して、和の順序を入れ替えると
と計算できる。ここで、各に対して
である。理由:
と計算される。
また、に対して
である。理由: (として記述する。)
と計算される。 従って、
を得る(はKroneckerのデルタ)。
が有界関数であることに注意すれば、
のとき
と評価できるので、
が示された。 補題の証明終了
補題によって存在するをとって固定する。すると、①と補題より任意の
に対して
が成り立つ。ここで、上の
-加法族
を
と定義する。このとき、は
-コンパクトな
上の
-加法族であり、複雑度は高々
である。理由:
に注意すれば、複雑度の定義よりわかる。
§6(その二)の命題より、,
に対して
が成り立つ。よって、、
-ノルムの三角不等式、
の有界性などより
を得る。③と合わせて、三角不等式を用いると
が任意ので成立する。ここで、
に対して
としている。は有界な
-可測関数なので§9の命題(Prop 9.1)を適用することができ、或る整数
が存在して
が成り立つ。ただし、に対して
であり、は
であるようにとっておく。
(その二)では⑤の右辺を上手く評価して帰納法の仮定を適用できるようにする。