Ramanujanは幾つかの数学の問題を"the Journal of the Indian Mathematical Society"に出題しています*1。
実は以前書いた記事
の数式は全てRamanujanの問題から抜粋したものです。Ramanujanの問題はこちらの"Questions"をクリックすると見ることができます。
今回はそれらの問題のうち、次の問題を紹介したいと思います:
のときは次のように確かに平方数となっています:
他の解を見つけよという問題のため、他にもあるのかな?という気持ちになると思いますが、実は他の解は存在しません。
他の解が存在しないということはRamanujanの予想としてしばらく未解決であったのですが、1948年にノルウェーの数学者Nagellによって証明されました*2。そのため、という不定方程式のことをRamanujan-Nagell方程式と呼びます*3。
この記事では、1959年に出版されたSkolem-Chowla-Lewisによる証明法を紹介してみようと思います。二次体論および進数の考え方を若干用いる証明ですが、場合分けによって見事につの候補が取り出される美しい証明です。
ところで、Skolemの単著論文ではありませんし、最初に証明したのはNagellであるにもかかわらず、日本語版Wikipediaで「ラマヌジャン・スコーレムの定理」となっているのは何故なのでしょう??
この証明で用いられているディオファントス方程式への進数の応用手法は1934年にSkolemによって開発された手法だそうです。
定理の証明
便宜的に方程式を −①として、整数解を持つならばでなければならないことを示す。
とし、におけるの共役元を
とする。であり、はの整数環で分岐せず、とは相異なる素イデアルである。なお、は類数。
①を満たすような整数が存在したと仮定する。およびが奇数であってと互いに素であることは即座に分かる。このとき、
なるにおける等式に変形できる。とは互いに素であり(共通因子の候補はであるが、はと互いに素である)、、の単数はのみなので、
が成立する(4通りの複合のうちのどれか一つ)。必要ならばとすることによりが証明された。 逆に、
が成り立つような整数が存在すれば、共役をとることによって
が成立し、掛け合わせることによってを得る。こうして、主張1が証明された。
よって、問題が「を何乗もしていったときに、いつの係数がになるか?」という問題に翻訳された。
を見れば、の場合は確かにの係数がになっていることが確認できる。それ以外のについてはそうならないことを以下で示していく。
非負整数に対して、整数を
によって定める。以下、に注意して、をで割った余りで場合分けして考察する。
の場合
なので、とすると、
を得る。まず、となるケースを考える。とし、と仮定すると
が成り立つ。この因数分解はにおける因数分解である。このとき、
である。というのも、もし一方でも絶対値がより真に大きければ、他方ものでない元なので絶対値が以上であり、積の絶対値がより大きいことになってしまうが、積がであることに反する。
よって、と複素数表示すれば、であり、
が成り立つ。故に、
を得る。一方、におけるノルムを考えると
なので、でなければならないことがわかった。しかし、なのでこのようなケースは起こりえないことが示された。
次に、となるケースを考える。
なので、
より、とするとが分かる(は進整数環)。従って、が成り立つならば(すなわち、)でなければならないことが示された。
主張2は
およびとが互いに素であることに注意して、
と評価できることから従う。
の場合
なので、とおけば
となる。
となるケースを考えると、
と変形でき、
が成り立つことがから分かるので、とするとが分かる。従って、が成り立つならば(すなわち、)でなければならないことが示された。
次に、となるケースを考える。
と変形できる*5。ここで、次の主張を用いる:
であり、の中にの倍数はあったとしても少なくとも一つであることから、
が成り立つので、主張4が成立することが分かる。よって、とするとなので、ならば(すなわち、)でなければならない。
の場合
なので、とおけば
となる。よって、
および主張3から、ならば(すなわち、)でなければならないことが分かる。
また、
および主張2から、ならば(すなわち、)でなければならない。
以上より、Ramanujan-Nagellの定理が証明された。 Q.E.D.
*1:誰も答えてくれず自分で解答を提出したこともしばしばあったようです。
*2:Nagell–Lutzの定理のNagellです。
*3:その後、Ramanujan-Nagell方程式に似た形の不定方程式についての研究が多数行われております。Apéryがそのような研究を行っていたことは integers.hatenablog.com に書いた通りです。
*4:主張におけるは一般ので、Ramanujan-Nagell方程式の考察中のではないことに注意。
*5:原論文"The Diophantine Equation and Related Problems"のこの部分の計算は間違っている気がします。一応、慎重に計算し直したつもりですが、私も計算ミスしている可能性は残っています。ただ、なのででくくるというアイデアが上手くいくのは間違いありません。