を以下の素数の個数、を番目の素数とします。
なので
が成り立ちます。
また、より
が成り立ちます。
こういったものは数遊びですが、次のようにまとめると数学の定理らしくなります:
定理1 を
以上の整数とする。このとき、或る正の整数
が存在して
が成り立つ。
この面白い定理は今年になってからRamanujan Journalに出版された孙智伟さんの新作論文において証明されています。実際には、先日紹介したGolombの定理
integers.hatenablog.com
を一般化するという方向性の研究を行うことによって定理1を導出します。
定理2 を正の整数とする。集合
を
と定義し、整数
を
によって定める。このとき、
が成り立つ。
ならばとなるので、定理2を認めればとなってGolombの定理が導出されることがわかります。
証明. を任意に取る。このとき、或るが存在して
が成り立つ。なので、
となって片方の包含関係が成り立つことがわかった。
次に、なる整数を任意に取る。を示せばよい。ここで、非負整数に対して元集合を
と定義する。 であるか であるかによって、場合分けを行って証明する。
例えば素数定理によってであり、定義からすぐわかるように
である。従って、数直線上で整数点のみを考えた際、に対してが右へ移動する際は隙間は発生しない。の移動でたどり着ける最大の整数はであり、が大きくなるとはどんどん左の方へシフトしていく。左へ移動する際にはギャップがあっても構わない。
である場合を考える。このとき、上記考察より、或るが存在してが成立する。とすれば
が得られる。すると、
なのでである。
次にである場合を考えよう。このとき、或るが存在して、が成り立つ。すなわち、或るなるを用いてと書ける。
或るが存在して
ー①
が成り立つことを示す。これを示すことができれば、
となって、が結論づけられる。
のときは
なので、に対して①が成立する。そこで、と仮定する。より
であるため、
を満たす以上の整数として、最小のものを取ることができる。とすればとなって今の状況に反するため、が成り立つ。すると、に対する最小性から
ー②
が成り立つ。、とおく。よりである。さて、
と評価できる。つまり、はある集合の元の個数以上なのでであることがわかった。
もしが素数であれば、であるため、
となって、②に矛盾する。従っては合成数であり、②より
と評価できる。これは、すなわち①が成立することを意味する。 Q.E.D.
こうして定理2が証明できましたが、気になるのはがどのような数かということです。それについても例えば次のような定理が示されています:
定理3 を
以上の整数とし、
を定理2で定義された整数とする。このとき、
が成り立つ。
は素数の分布に関係する量ですが、証明にはRosser-Schoenfeld, Dusartの結果を用います。これらは素数定理のように緩いものではなく、のしっかりとした不等式評価を与えるという研究で、コンピュータを用いて知られているRiemannゼータ関数の零点の情報を総動員して示すというタイプのもののため、とてもじゃないですがここでは証明をフォローすることはできません。彼らの結果は認めることにします。
証明. Dusartの結果により、ならば
が成り立つので、であれば
となる。従って、を実現するは以下である。であることと合わせると
が得られた。あとはを示せばよい。
ならばである。従って、とする。このとき、なので、Rosser-Schoenfeld-Dusartの結果により
が成り立つ。の定め方から
なので、
と評価できる。これはを示している。 Q.E.D.
定理2と定理3を合わせることによって、その系として冒頭の定理1が証明されます:
定理1の証明. は実例を冒頭に述べた。そこで、とする。このとき、
が成り立つ。よって、定理2・定理3より或る以上の整数が存在して
が成り立つ。この式からは正の整数であることが従う。よって、とすれば
となる。 Q.E.D.
追記
定理2の証明は孙智伟さんによるものですが、数学者である山田氏からはより簡単に導出できるとの指摘を受けたため、その証明を紹介します。
・のより簡単な証明
とする。「或るが存在して」が成り立てばである。実際、ならば
より
となるので、が成り立ち、とおけば
と書き換えられる。よって、を得る。
ところで、「」は常に成立する。すなわち、
が成り立つ。これは、
・であることから、が左へシフトするときは隙間が生じないこと。
・の定義より、或るが存在してが実現すること。(そして、を超えることもない。)
・が成り立つこと。
より分かる。 Q.E.D.
この証明を知ると孙智伟さんの証明は回りくどいものであったことがわかります。