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INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

天才素数少年の母の発言に対する一考察と妄想

3/11にあしぃさんという方によって発信された次のツイートに1万リツイートを超える反響がありました:

twitter.com

このツイートが創作でないならば、若干5歳にして素数の概念を習得している可能性の高いこの少年は将来有望です。是非、お会いして素数について熱く語り合いたいです。

さて、

男の子「にぃ、さん、ご!」
母親「そうね、2たす35だね。」

の部分から、母親は少年が素数のことを考えているのではなく「2+3=5」という計算を行っていると思い込んでいたものと考えられます。

そして、

男の子「なな、じゅいち、じゅーさん!」
母親「違うでしょ、16でしよ。」

と会話が続きます。先ほどの推察からすると、7+11=18\neq 13であることから母親は

「違うでしょ、18でしょ。」

と発言するはずです。

にもかかわらず「違うでしょ、16でしょ。」と発言しています。

これについて、一つの可能性として、

母親は7+11 = 16という誤った計算を行ってしまった

と考えることが出来ます。もしそうであるならば、人は間違いを犯すとは言え、かように簡単な計算を間違えてしまう母親に一抹の不安を覚えてしまいます。

別のストーリーを考える

本当にそうだったのでしょうか?ツイートからは前後の文脈を読み取ることは出来ないですが、はなから「母親が計算間違いを犯した」と決めつけるのは傲慢というものです。

天才少年を生んだ母親はもっと天才だったとしてもおかしくありません。

何か別の考えがあって、正しく16と答えた可能性は否定できないのです。そもそも少年の言葉には「たす」という言葉が入っていません。ツイートには「電車で数遊びをしている」とあります。

この母親が何故16と答えたのかについて、実は親子は次の節で述べるような数遊びを行っていたのではないか?と妄想してみましょう。

とある数遊び

下の図のような状況からスタートする遊びを考えます。
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図に出てくる白丸の個数をカウントしていきます。すなわち、スタートの図からa_1=2と定めます。

次のようなルールによって次のステップに進みます:

  1. 残っている白丸に ①上にあるもの, ②左にあるもの, の順に優先順位を付ける。
  2. 優先順位の高いものから順に、残っている白丸の個数(a_n個)だけ新しい白丸をくっつけていく。
  3. 一つの白丸に対して最大2つの新しい白丸を下の段にくっつけることができる。
  4. 2つの白丸が下にくっついた白丸は黒く塗りつぶす。
  5. 残っている白丸の個数をa_{n+1}とする。

言葉で説明すると難しいので実際に図で確認してみましょう:



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図から分かるようにa_2=3です。とりあえず、a_5まで遊んでみましょう:



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よりa_3=5



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よりa_4=7



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よりa_5=11



何だって!?素数が現れているではないか!!
次はもしかしてa_6=13


と思ったそこの奥さん!それは早とちりです。

実は、天才少年の母親が言ったようにa_6=16なのです!!




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さて、親子はこのような数列遊びをしていた可能性があるのではないでしょうか?

母親「そうね、2たす35だね。」

というのは図を子どもと見ながら、あるいは思い浮かべながら単にa_3=5をカウントしていたのでしょう(最初の2つの白丸から延びるのがそれぞれ3個と2個である。強引な推論ですが(汗))。

そして、a_6=16となるにも関わらず、「この数列は素数になるに違いない!」と早とちりして

「じゅーさん!」

と言ってしまった子どもに対し、

「違うでしょ、(a_6=16でしょ。」

と母親は修正を促したのです。


しかしながら、一度素数だと勘違いしてしまった少年は

「じゅーなな、じゅーきゅ、にじゅーさん、にじゅーきゅ、さんじゅいち!」

と止まることが出来なくなってしまって、母親は

「この子の数学力はまだまだね。」

と呆れてしまったのであった。。。


冒頭のツイートはもしかしたらこのようなエピソードだったんじゃないか?と妄想してしまったせきゅーん(当ブログ管理人)なのでした。

数列の満たす漸化式

実はこの数列は次のような単純な漸化式を満たします:

定理 前節の数遊びの数列\{a_n\}a_1=2および

\displaystyle a_n=\left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n-1}}{2}\right] \ \ (n \geq 2)]

によって定まる。ここで、[ \ ] はGauss記号。

この定理を証明しましょう。

定義
nに対して、前節で考えたような図の最後の状態の彩色グラフを考える。そのグラフの下の2段の状況が下の図のどちらの状況になっているかによって、a_nはType Aである」またはa_nはType Bである」と表現することにする。
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a_1, a_2, a_4, a_6はType Aであり、a_3, a_5はType Bです。

Typeについては数遊びの定義から次が分かります:

補題1 次が成り立つ:
\begin{equation}\begin{split}&a_n\text{が偶数かつType A} \Longrightarrow a_{n+1}\text{はType A} \\ &a_n\text{が偶数かつType B} \Longrightarrow a_{n+1}\text{はType B} \\ &a_n\text{が奇数かつType A} \Longrightarrow a_{n+1}\text{はType B} \\ &a_n\text{が奇数かつType B} \Longrightarrow a_{n+1}\text{はType A} \end{split}\end{equation}

次に、数列\{b_n\}を「a_{n+1}をカウントする図において新しく増えた黒丸の個数」と定義します。

b_1=1, b_2=1, b_3=3, b_4=3, b_5=6, b_6=8, \dots

すると、数遊びのルールから

\displaystyle a_{n+1}=2a_n-b_n ―①

であることが分かります。

また、次の補題が成り立つことも数遊びのルールから分かります:

補題2 b_nは次のようにa_nを用いて書ける:
\displaystyle b_n = \begin{cases}\frac{a_n}{2} & a_n\text{が偶数} \\ \frac{a_n-1}{2} & a_n\text{が奇数かつType A} \\ \frac{a_n+1}{2} & a_n\text{が奇数かつType B} \end{cases}

最後に次の補題が必要になります:

補題3
\begin{equation}\begin{split}&a_1+\cdots +a_{n-1}\text{が偶数} \Longrightarrow a_n\text{はType A} \\ &a_1+\cdots +a_{n-1}\text{が奇数} \Longrightarrow a_n\text{はType B} \end{split}\end{equation}

証明. nに関する数学的帰納法で証明する。n=2のときは正しい。nで正しいと仮定してn+1のときに証明する。
a_nが偶数のとき a_1+\cdots +a_nが偶数ならばa_1+\cdots +a_{n-1}も偶数なので、帰納法の仮定によってa_nは偶数でType Aである。よって、補題1よりa_{n+1}はType Aである。また、a_1+\cdots +a_nが奇数ならばa_1+\cdots + a_{n-1}は奇数で、帰納法の仮定によりa_nは奇数でType Bとなる。よって、補題1よりa_{n+1}はやはりType Aである。a_nが奇数の場合も同様に示す。 Q.E.D.

定理の証明. nに関する数学的帰納法で証明する。n=1のときは正しいので、nで正しいと仮定してn+1のときに証明する。

a_nが偶数のとき \displaystyle \frac{a_n}{2}は整数なので、

\displaystyle \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_n}{2} \right] = \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n-1}}{2}\right] + \frac{a_n}{2}

が成り立つ。帰納法の仮定により、これは\displaystyle \frac{3}{2}a_nに等しい。一方、補題2より\displaystyle b_n = \frac{a_n}{2}なので、\displaystyle a_{n+1} = 2a_n-b_n=\frac{3}{2}a_n。よって、n+1のときも主張は正しい。

a_nが奇数かつType Aのとき 補題3よりa_1+\cdots +a_{n-1}は偶数でなければならない。従って、

\displaystyle \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n-1}}{2} \right] = \frac{5+a_1+\cdots + a_{n-1}}{2}-\frac{1}{2}

および

\displaystyle \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n}}{2} \right] = \frac{5+a_1+\cdots + a_{n}}{2}

が成り立つ。よって、帰納法の仮定により

\displaystyle \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n}}{2} \right] = \frac{3a_n+1}{2}

となるが、補題2および①よりこれはa_{n+1}に等しい。

a_nが奇数かつType Bのとき 補題3よりa_1+\cdots +a_{n-1}は奇数でなければならない。従って、

\displaystyle \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n-1}}{2} \right] = \frac{5+a_1+\cdots + a_{n-1}}{2}

および

\displaystyle \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n}}{2} \right] = \frac{5+a_1+\cdots + a_{n}}{2}-\frac{1}{2}

が成り立つ。よって、帰納法の仮定により

\displaystyle \left[ \frac{5+a_1+\cdots +a_{n}}{2} \right] = \frac{3a_n-1}{2}

となるが、補題2および①よりこれはa_{n+1}に等しい。 Q.E.D.

a_1, \dots, a_{100}のデータ

a_{1}= 2素数!
a_{2}= 3素数!
a_{3}= 5素数!
a_{4}= 7素数!
a_{5}= 11素数!
a_{6}= 16
a_{7}= 24
a_{8}= 36
a_{9}= 54
a_{10}= 81
a_{11}= 122
a_{12}= 183
a_{13}= 274
a_{14}= 411
a_{15}= 617素数!
a_{16}= 925
a_{17}= 1388
a_{18}= 2082
a_{19}= 3123
a_{20}= 4684
a_{21}= 7026
a_{22}= 10539
a_{23}= 15809素数!
a_{24}= 23713
a_{25}= 35570
a_{26}= 53355
a_{27}= 80032
a_{28}= 120048
a_{29}= 180072
a_{30}= 270108
a_{31}= 405162
a_{32}= 607743
a_{33}= 911615
a_{34}= 1367422
a_{35}= 2051133
a_{36}= 3076700
a_{37}= 4615050
a_{38}= 6922575
a_{39}= 10383862
a_{40}= 15575793
a_{41}= 23363690
a_{42}= 35045535
a_{43}= 52568302
a_{44}= 78852453
a_{45}= 118278680
a_{46}= 177418020
a_{47}= 266127030
a_{48}= 399190545
a_{49}= 598785817
a_{50}= 898178726
a_{51}= 1347268089
a_{52}= 2020902133素数!
a_{53}= 3031353200
a_{54}= 4547029800
a_{55}= 6820544700
a_{56}= 10230817050
a_{57}= 15346225575
a_{58}= 23019338362
a_{59}= 34529007543
a_{60}= 51793511315
a_{61}= 77690266972
a_{62}= 116535400458
a_{63}= 174803100687
a_{64}= 262204651031
a_{65}= 393306976546
a_{66}= 589960464819
a_{67}= 884940697229素数!
a_{68}= 1327411045843
a_{69}= 1991116568765
a_{70}= 2986674853147
a_{71}= 4480012279721
a_{72}= 6720018419581
a_{73}= 10080027629372
a_{74}= 15120041444058
a_{75}= 22680062166087
a_{76}= 34020093249130
a_{77}= 51030139873695
a_{78}= 76545209810543
a_{79}= 114817814715814
a_{80}= 172226722073721
a_{81}= 258340083110582
a_{82}= 387510124665873
a_{83}= 581265186998809素数!
a_{84}= 871897780498214
a_{85}= 1307846670747321
a_{86}= 1961770006120981
a_{87}= 2942655009181472
a_{88}= 4413982513772208
a_{89}= 6620973770658312
a_{90}= 9931460655987468
a_{91}= 14897190983981202
a_{92}= 22345786475971803
a_{93}= 33518679713957704
a_{94}= 50278019570936556
a_{95}= 75417029356404834
a_{96}= 113125544034607251
a_{97}= 169688316051910877
a_{98}= 254532474077866315
a_{99}= 381798711116799473
a_{100}= 572698066675199209


奇数になるようなa_nが無数に存在することは容易に分かりますが、素数になるようなa_nが無数に存在するかは非常に難しい問題だと思われます。

参考にしたウェブサイト

Integer Sequence A112088 by Simon Strandgaard.
この数列は私が考案したものではありません。