Apéryは伝説を残した。
その後、2000年を過ぎたあたりにRivoalという天才が彗星の如く現れ、
ということを証明した(Ballと共著でInvent. Mathに掲載されている)。Rivoalは
ということも証明し、それを受けてZudilinは
ということを証明した。
初めてこれらの結果を見た者は「そんなこと一体どうやって示すんだ!?」と思うことだろう。ただ、それらの証明は非専門化には少々アクセスしにくいレベルの高さにある。
そんな状況の中、Zudilinが1月30日に次のようなプレプリントを発表した。
W. Zudilin, "One of the odd zeta values from to is irrational. By elementary means", preprint.
と精度は落ちるが、それでも「少なくとも一つは無理数」系の結果を非常に初等的に証明できることを発見したというのだ。
果たして、あなたはこの論文を読まずにいられるだろうか。
この記事ではZudilinのプレプリントに則って、この定理の証明を解説する。現状理解できていない部分があります(能力不足を反省)。
構成
は以上の奇数とする。正整数に対して
として、を
と定める。
超幾何型の級数を用いる方法である。これは奇数ゼータのみの線形結合を作りやすい利点がある一方、解析パートがハードになりがちであった。しかしながら、今回の証明では 鞍点法も複素積分も用いない!(が、この部分に私がわかっていない箇所がある)。また、従来の手法では微分でを消す感じであったが、(半整数シフトして)数列を二つ構成することによって、組み合わせてを消している!!
部分分数分解と整数性
証明. 分解できることは部分分数分解 - INTEGERSの定理よりわかる。の公式はTaylor展開係数の標準的な表示にすぎない。 Q.E.D.
とする。
証明. 分解の左辺をとする。のときは主張は自明に成立するため、とする。について情報は対等であるため、のときに示せば十分である(これは記号の煩雑さを避けるためだけの仮定)。に対してライプニッツの公式の証明と二項定理 | 高校数学の美しい物語の「2つめの拡張」より
と計算できる。よって、補題1の表示より、に対して
が得られた。に対して であり、なので主張の成立がわかる。 Q.E.D.
証明. 次の6つの有理関数の部分分数分解を考える:
これらは全て補題1よりを計算すれば導出できる*3。全ての係数が整数であることに注意する。このとき、
が成り立つので*4、上記部分分数分解を代入して展開し、補題2を適用すればよい(部分分数分解の一意性)。 Q.E.D.
奇数ゼータの一次結合
次の補題は偶数ゼータが現れないないことを保証する。
証明. が成り立つ。理由:
であるので、が奇数であることより従う。
そうして、
と計算できるので、部分分数分解の一意性よりが従う。よって、
となって、後半の成立がわかる。 Q.E.D.
証明. に対して、とし、に対してポリログをと定義する。このとき、の部分分数分解表示を代入することにより
と計算できる。ここで、であることからの無限遠点における留数がであることに注意すると、留数定理によって
が得られる。よって、因数定理によりに関する多項式 が存在して
と書ける。一方、なので、
である。よって、上記計算においてとすることによって
が得られた。
とすれば、補題3よりが以上の偶数のときはとなり、に対して
であることから、 および が成り立つ。
次に、, と定義する。ここで、であり、でなので、であることに注意する。このとき、
と計算される。よって、
とおくと、なので、とすることによって先ほどと同様にの項は消えて
が得られる(に対して)。に対して
であり、に対して
であることから*5、補題3より がわかる。 Q.E.D.
解析
証明. スターリングの公式 - INTEGERSから従う。 Q.E.D.
であり
であるので、
と書ける。また、でなので、
と書ける。
証明. 正であることは以下の表示から即座にわかる:
また、
であり、
および
なので、補題4より
が得られる。 Q.E.D.
証明. とおいて、を
とする。
の対数微分をとると
となり、は正の根は唯一つだけもつので、それをとおくと
と増減表が書ける。従って、となるようなが唯一つ存在し、それがである。なので、である。
主張の証明. 厳密な理解が現状得られていないため省略する。 論文から読み取れる証明の概略は、①を使うと がわかるためはなる番目付近で最大となり、の漸近挙動にはのみが寄与するというもの。また、補題5よりなのでの漸近挙動にものみが寄与する。 主張の証明終わり.
主張、①、補題4より
と極限を計算できる。ここで、一番長い部分の計算においては、に注意して、を分配してに注意して極限をとればよい。そうして、主張および補題5から
を得る。 Q.E.D.
証明の完了
をとる。命題3よりであり、補題5よりなので、十分大きいに対して
が成り立つ。また、命題2より
と書ける。が全て有理数であったと仮定する。その分母の最小公倍数をとすれば、十分大きいに対して
が成り立つ。
さて、数値計算を行うとであり、命題3より
であることがわかる。よって、
である。また、数列lcm[1,2,…,n]のgrowthと素数定理 - INTEGERSの定理より、であるようにをとると(例えば)、十分大きいに対して
が成り立つので、
よって、十分大きいに対して②は成立しないことになり矛盾する。すなわち、背理法によっての少なくとも一つは無理数でなければならないことが示された。 Q.E.D.