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INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

一つも知られていないのに名前の付いた数~Wall-Sun-Sun素数~

今回は存在するか分かっていないけれど名前の付いている素数~Wall-Sun-Sun素数~を紹介します。

前提知識

主役はFibonacci数です:89:フィボナッチ数 - INTEGERS

Fibonacci数と対となる概念であるLucas数も使います:199:リュカ数 - INTEGERS

なお、今回の記事とは関係ないですが、Fibonacci平方数が01144しか存在しないことの証明を144:フィボナッチ平方数 - INTEGERSに書いていますので、是非読んでほしいです。

また、平方剰余記号を扱います:平方剰余の相互法則 - INTEGERS

Fibonacci数に関するとある合同式

p7以上の素数として、\displaystyle \left( \frac{p}{5} \right)をLegendre記号とします。すなわち、

\displaystyle \left( \frac{p}{5} \right) = \begin{cases}1 & p \equiv 1, 4 \pmod{5} \\ -1 & p \equiv 2, 3 \pmod{5}\end{cases}

です。このとき、次の合同式が成立します:

命題 p > 5を素数とする。このとき、
\displaystyle F_{p-\left( \frac{p}{5} \right)} \equiv 0\pmod{p}
が成り立つ。

ここで、F_nn番目のFibonocci数です。

補題 p > 5を素数とする。このとき、
\displaystyle L_p \equiv 1 \pmod{p}
および
\displaystyle F_p \equiv \left( \frac{p}{5} \right) \pmod{p}
が成り立つ。

L_nn番目のLucas数を表します。

証明. Lucas数の一般項の公式、\displaystyle \binom{p}{k} \equiv 0 \pmod{p} \ (1 \leq k \leq p-1)、Fermatの小定理より

\begin{equation}\begin{split}L_p &= \left( \frac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^p+\left( \frac{1-\sqrt{5}}{2} \right)^p \\ &= \frac{1}{2^p}\sum_{k=0}^p\binom{p}{k}( (\sqrt{5})^k+(-\sqrt{5})^k) \\ &= \frac{1}{2^{p-1}}\sum_{\substack{k=0 \\ k: \text{偶数}}}^p\binom{p}{k}5^{\frac{k}{2}} \equiv \frac{1}{2^{p-1}}\equiv 1 \pmod{p} \end{split}\end{equation}

と計算できる。Fibonacci数のときも同様で

\begin{equation}\begin{split}F_p &= \frac{1}{\sqrt{5}}\left\{ \left( \frac{1+\sqrt{5}}{2} \right)^p - \left( \frac{1-\sqrt{5}}{2} \right)^p \right\} \\ &=\frac{1}{\sqrt{5}2^p}\sum_{k=0}^p\binom{p}{k}( (\sqrt{5}^k)-(-\sqrt{5})^k) \\ &= \frac{1}{2^{p-1}}\sum_{\substack{k=0 \\ k: \text{奇数}}}^p\binom{p}{k}5^{\frac{k-1}{2}} \\ &\equiv 5^{\frac{p-1}{2}} \equiv \left( \frac{5}{p} \right) = \left( \frac{p}{5} \right) \pmod{p} \end{split}\end{equation}

と計算できる。ただし、最後にEulerの規準および平方剰余の相互法則を適用した。 Q.E.D.

命題の証明. 数学的帰納法により、L_n = F_{n+1}+F_{n-1}が証明できるので、

\displaystyle L_p = F_{p+1}+F_{p-1} = F_p+2F_{p-1} = 2F_{p+1}-F_p

が成り立つ。従って、

\displaystyle F_{p-1} = \frac{L_p-F_p}{2}, \ \ F_{p+1} = \frac{L_p+F_p}{2}

が分かる。これに先ほどの補題を適用することによって

\displaystyle F_{p-1} \equiv \frac{1-\left( \frac{p}{5} \right)}{2}, \ \ F_{p+1} \equiv \frac{1+\left( \frac{p}{5}\right)}{2} \pmod{p}

が示された。命題の主張する合同式はLegendre記号の定義に従ってこれらの合同式を書き換えたものに過ぎない。 Q.E.D.

この命題を受けて、次の合同式を満たすような素数p > 5が存在するかは気になる問題です:

\displaystyle F_{p-\left( \frac{p}{5} \right)} \equiv 0 \pmod{p^2} ―①

実際、歴史的に見るとWallがこのような素数が存在するかを1960年に問うています。また、中国の双子の数学者である孙智宏と孙智伟は1982年に次のような興味深い定理を証明しています:

定理(Z.H.Sun-Z.W.Sun, 1982) 素数p > 5についてFermatの最終定理のファーストケースが成り立たないならば、pは合同式①を満たす。

Fermatの最終定理のファーストケースについてはtsujimotter氏の記事の補足: 正則素数とFLTのファーストケース - INTEGERSを参照してください。

この結果を受けて、①を満たすような素数はWall-Sun-Sun素数と呼ばれています。

しかしながら、名前があるにも関わらず、Wall-Sun-Sun素数は一つも見つかっていません

もし、F_{p-\left(\frac{p}{5}\right)}/p\bmod{p}における各剰余が現れる確率が1/pであれば、Wall-Sun-Sun素数は\log \logオーダーで出現することになります。従って、Wall-Sun-Sun素数が無数に存在してもおかしくはありません。

今回は「無数に存在するかもしれないのに一つも見つかっていない素数」に関するお話しでした。