今回は存在するか分かっていないけれど名前の付いている素数~Wall-Sun-Sun素数~を紹介します。
前提知識
主役はFibonacci数です:89:フィボナッチ数 - INTEGERS
Fibonacci数と対となる概念であるLucas数も使います:199:リュカ数 - INTEGERS
なお、今回の記事とは関係ないですが、Fibonacci平方数がととしか存在しないことの証明を144:フィボナッチ平方数 - INTEGERSに書いていますので、是非読んでほしいです。
また、平方剰余記号を扱います:平方剰余の相互法則 - INTEGERS
Fibonacci数に関するとある合同式
を以上の素数として、をLegendre記号とします。すなわち、
です。このとき、次の合同式が成立します:
ここで、は番目のFibonocci数です。
は番目のLucas数を表します。
証明. Lucas数の一般項の公式、、Fermatの小定理より
と計算できる。Fibonacci数のときも同様で
と計算できる。ただし、最後にEulerの規準および平方剰余の相互法則を適用した。 Q.E.D.
命題の証明. 数学的帰納法により、が証明できるので、
が成り立つ。従って、
が分かる。これに先ほどの補題を適用することによって
が示された。命題の主張する合同式はLegendre記号の定義に従ってこれらの合同式を書き換えたものに過ぎない。 Q.E.D.
この命題を受けて、次の合同式を満たすような素数が存在するかは気になる問題です:
実際、歴史的に見るとWallがこのような素数が存在するかを1960年に問うています。また、中国の双子の数学者である孙智宏と孙智伟は1982年に次のような興味深い定理を証明しています:
Fermatの最終定理のファーストケースについてはtsujimotter氏の記事の補足: 正則素数とFLTのファーストケース - INTEGERSを参照してください。
この結果を受けて、①を満たすような素数はWall-Sun-Sun素数と呼ばれています。
しかしながら、名前があるにも関わらず、Wall-Sun-Sun素数は一つも見つかっていません。
もし、のにおける各剰余が現れる確率がであれば、Wall-Sun-Sun素数はオーダーで出現することになります。従って、Wall-Sun-Sun素数が無数に存在してもおかしくはありません。
今回は「無数に存在するかもしれないのに一つも見つかっていない素数」に関するお話しでした。