1978年にApéryがが無理数であることを証明し、数学界に衝撃を与えました(俗にいうApéryショック)。Apéryが証明を発表した数か月後にはBeukersが積分を使った非常に美しい別証明を発表しています。この記事では、美しさは若干損ないますが、Millerによって発表された方法を元にしてBeukersによる証明をより理解しやすくしたものを解説します*1。
Beukersによる証明を理解するためのウォーミングアップとして、以前の無理性証明を紹介しました(後半部分):π:Never Ending Number~ラマヌジャンのMysteriousな公式~ - INTEGERS
そこに書かれている内容をいくつか既知として用います(特におよびずらしLegendre多項式についての記述)。また、この証明はBeukers-Hadjicostasの定理(のの場合)に基づいています:Beukers-Hadjicostasの定理 - INTEGERS
証明. まず、
であることに注意する。また、部分分数分解
より
を得る。以上二式を組み合わせればよい。 Q.E.D.
が無理数であることの証明
自然数に対して、積分
を考える。このとき、Beukers-Hadjicostasの定理よりが存在して、
が成り立つ(はの最小公倍数)。以下、を積分変形していく。
であるから、
と変形される。最後の等号はと変数変換して、を用いればよい。そうして、
を得る。ここで、一つ目の等号は補題を用いており、三つ目の等号はと変数変換、四つ目の等号は円周率の記事に書いた補題4を用いている。
と関数をで定義する。ただし、境界上では とする(極限を考えればは連続であることがわかる)。で が極値をとるならば、
でなければならない。この条件は偏微分を実行することにより
と言い換えられる。一つ目の式と二つ目の式をそれぞれに関して解き、それらを三つ目の式に代入することによって得られるに関する方程式を解けばが得られる。であり、はに最大値を持つので、が最大値であることがわかった。で であるから、の式変形より
なる不等式を得る。最後の積分はの式変形と同様に計算すればであることがわかる。①、円周率記事の補題1より十分大きいに対して
が成り立つ。が有理数であると仮定しよう。すると、ある自然数が存在してと書ける。このとき、
を得る。であるから、これは十分大なるに対して矛盾する。 Q.E.D.
*1:Beukersによる証明は塩川宇賢著『無理数と超越数』という手に入りやすい文献に書いてあり、またそれを元にした解説記事もたくさん出回っています。Beukersは というかっこいい変数変換を行っていますが、これは「何故思いついたんだ!」とツッコミを入れたくなるレベルの高い変数変換です。