§10 Correlation estimates for を読みます。前節において、Goldston-Yıldırım型定理A, Bを証明することに全てが帰着されました。この記事ではGoldston-Yıldırım型定理Aを証明します。ただし、Riemannゼータ関数が関わるコンタワー積分の漸近挙動に関する補題の証明は後まわしにします。
定理Aの証明中に幾つかの補題を用意しながら進めます。
証明. まずは①の左辺を書き換えていく。
の定義に基づいた変形
切断約数和の定義によって、①の左辺は
と変形できる。Möbius関数の定義より、(今後のような略記を用いる)は無平方なもののみを動けばよいことに注意する。
期待値からの消去
に対して、を
と定義する。各に対してなので、である。このとき、はの各成分について周期である。理由: の各成分がを法として合同であれば、の定義より
である。よって、であることとであることは同値である。 従って、この関数はの関数としてwell-definedであることがわかった(任意に代表元をとって定義することができる)。
このことと、の長さが以上であることから、
とを消去できる。理由: 法の完全代表系としてをとって、各成分を代表元に送る写像によるの像を考える(次元格子点立方体)。にはその次元格子点立方体の平行移動が個入るので、
が成り立つ。
なので、の長さとに関するバウンドから、これをで割ったものはと評価できる。言い換えると
でもあるので所望の公式が得られる。
であることから、
なので、
を示すことに帰着された*1。
中国式剰余定理の適用
なる素数とに対して、各成分をしたベクトルをと表すことにする*2。集合を
と定義すると、無平方な場合のみを考えていることと中国式剰余定理より
と変形できる。ここで、最後から二番目の等号は下から上に展開すればわかる。よって、に対して
と略記することにすれば、②の左辺は
と書けることがわかった。
補題1の証明. に対してコンタワーをパラメータ表示
で定義し、
とおく。依存パラメータの表示は省略することにして、
とすると、留数定理によって
を得る。変数変換によって、がわかり、
なので、
が示された。従って、あとはであればであることを示せばよい。をとって先ほどと同様に長方形のコンタワー積分を考えると今度は留数がないのでがわかる。すなわち、に依存せずに値が決まる。そうして、のとき
なので、の任意性からでなければならない。 Q.E.D.
積分表示
複素変数のベクトルをと書くことにし、を
と定義すると、補題1より③の左辺は
と積分表示される。
Euler積表示をもつ。
この証明は間違えています。時間ができれば修正します。
証明. で無平方な正整数全体のなす集合とする。に対してを
と定義すると、
が成り立つ。とが各成分毎に互いに素であるとき、と書くことにする。このとき、かつであれば
が成り立つ(などは成分毎に積を取る)。理由: Möbius関数および累乗は乗法的関数なので、各素数に対して
が成り立つことを確認すればよい。これは、
と略記したとき、仮定からと非交差和になっていることと、であることからわかる。
収束性を後回しにして、まず形式的にEuler積表示を証明する。すなわち、
を形式的に展開する。素数と集合というデータに対応する展開項を考える。各番号に対してとの元の成分をとし、それ以外のところをにした整数の-組をと書くことにする。すると、定義より
となっているので、考えている展開項は乗法性から
となる。ここで、である。素因数分解の一意性によって任意のはの形に一意的に分解されるので、形式的には所望のEuler積表示が成り立つことが示された。
次に収束性を見る。とし、 とする。のの項はであり、またはが空集合でなければ
なので、であることと三角不等式より
となって、無限積の収束判定法から収束性が従う。 Q.E.D.
証明. とすると、の定義から任意のに対して
である。従って、ならば が成り立つ。
かつとし、であるとする。このとき、
今、はで零でなく、なので、全てのに対してがで零ということはない。よって、はのによる一様被覆である。従って、§1, 4の補題より
が得られる。
最後に、かつの場合を考える。まず、次が成り立つことに注意する: 線形形式はどの二つを取ってもで互いにスカラー倍とはならない。
理由: 或るが存在して二つのに対して
となったと仮定する。このとき、より両辺をで割ってもよいので、
が成り立つことがわかる。ここで、なる整数が
を満たすのはのときのみであることに注意する。理由: 上記合同関係にあるときがの整数倍となるが、
なのでである。 従って、とが上一次独立であることに矛盾する。
さて、示したいことは任意のに対してを満たすが高々個しか存在しないことであるが、そのようなは少なくとも二つのに対して方程式
を満たす必要があり、直前で証明したことから、この連立方程式の解の個数は個である。 Q.E.D.
補題3よりは
と書ける。これを次のように積に分ける:
収束領域は後で調べることにして、に対して無限積を
と定義すると、補題2より
が成り立つ。
の収束領域
この定義のもと、次が成立する:
証明. まず、の収束性を示す。のときはなので、のときを考える。補題3によるの表示式と等比級数の和の公式を用いて展開するとは上手く
の項が消えるように定義されていることがわかる。よって、では
であり、であるから無限積は絶対収束する。このように評価できることと、一般にの絶対値がのみで決まることからがわかる。無限積の以外の展開項には「より大きい素因数のみから構成される自然数から作られる項」しか現れないので、が従う*3。
は高々個の素数に関する積なので収束性は問題にならない。すると、も自明である。そうして、定義より
と計算できる。 Q.E.D.
次の補題はKeyとなる漸近評価であるが、証明は付録にて実行される。
補題5を認めた上での証明の完成
として補題5を適用する。Leibniz則と補題4より、に対して
なので、であることに注意すると、の増加測度が十分遅ければ
を満たす。また、補題4より
なので、補題5からの帰結は
となり、定理Aの証明が完了する。