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数、特に整数に関する記事。

π:Never Ending Number~ラマヌジャンのMysteriousな公式~

円周率

今日は3月14日。そう、円周率の日です*1

というわけで、今日は整数ではなく、円周率\piのお話をしましょう。

ラマヌジャン(Ramanujan)のMysteriousな公式

円周率に関する級数表示が多数知られており、
integers.hatenablog.com
でLeibnizの公式、Machinの公式、高野喜久雄の公式などを紹介しました。

今日は、2015年にイギリスで公開された映画"The Man Who Knew Infinity"でも取り上げられた"インドの魔術師"Ramanujanの発見した円周率の不思議な公式を紹介します。

Ramanujanについては"タクシー数"のエピソードが有名で
integers.hatenablog.com
で取り上げましたので是非ご覧ください。





次の公式がRamanujanが1914年に発表した円周率に関する驚くべき公式です*2

Ramanujanの公式
\displaystyle \frac{1}{\pi}=\frac{2\sqrt{2}}{9801}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(4k)!(1103+26390k)}{(k!)^4396^{4k}}.


一体、これは何なんだ!!


私がこの公式に初めて出会ったのは高校生のときで、驚いて、興奮が止まりませんでした。

「タクシー数のような陳腐な話ではなく、この公式は本物だ。Ramanujanは本物の化け物である!」

*3


高校生のとき、誕生日プレゼントとして関数電卓を買い与えられた私は関数電卓で様々な計算を行うことが日課でした。Ramanujanの公式を知ったときも即座に関数電卓で試してみたのです。

その関数電卓は今も健在ですので、久しぶりに計算してみました:

公式の和においてk=0の部分のみを取った値から\piを計算すると

f:id:integers:20160314172211j:plain
となって、小数点以下5位まで一致することがわかります(何も足さなくてもこの精度!!)。

次に、k=1まで和をとって計算すると…

f:id:integers:20160314172341j:plain

この関数電卓の精度では\piと判断されてしまいました(笑)。



この公式は実際に\piの数値計算に用いられ、一時的に記録を保持したこともあるのですが、証明は中々付けられないままでした。

証明されたのはRamanujanが生まれてから丁度100年にあたる1987年で、\text{Borwein}^2の400ページを超える本

J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM - A Studey in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley, N.Y., 1987.

に証明が掲載されています*4

その後、\text{Borwein}^2も含めてRamanujan型の公式が多数発見されています。他にどのような公式があるかは、例えば、Wikipediaの記事

Ramanujan–Sato series - Wikipedia

を参照してみてください。



百年に一度の円周率の日から一年

円周率の日は毎年やってくるのですが、実は昨年の3月14日は『百年に一度の円周率の日』と言われていました。

理由はアメリカ式日付表記で3/14/15と表されるからというものです。この表記でいくと今年は3/14/16なので、近似値\pi=3.141592\cdotsの観点から考えると今年の方が値が近かったりします。

さて、アメリカではパイを食べてお祝いしたりするそうなのですが、日本では『終わらない数の象徴』という意味合いが強い円周率にあやかってプロポーズや入籍、結婚式を挙げることなどが流行っているようです。円周率に永遠の愛を誓うということですね*5


実は私の姉が昨年の円周率の日に入籍したのです:

twitter.com

普段、数学と何らの関わりも持たない2人がこのような日を入籍記念日に選んでくれたことに感動した弟は「円周率は確かに終わらない数である!」ということの証明をプレゼントしました*6

f:id:integers:20160314170450p:plain

最も簡単な証明はNivenによるものであるが、私の最もお気に入りの証明はBeukersによる証明である。

と書いてありますが、Nivenの証明については既に記事にしています:

integers.hatenablog.com

Beukersの証明というのは1979年の「Apéryによる\zeta(3)の無理数性証明の別証明」に関する有名な論文に載っている証明です。\zeta (3)の無理性証明がメインですが、同じ論法で\zeta (2)の無理性も証明できるため同時掲載されています。そうして、バーゼル問題

\displaystyle \zeta (2) =\frac{\pi^2}{6}

と合わせることによって\pi^2が無理数であることが従い、特に\piも無理数であるという寸法です*7。なお、バーゼル問題については

integers.hatenablog.com

において高校生でも分かる証明を書いておきました。


証明の解説

姉夫婦へのプレゼントは一ページにまとめたので当然省略があります。そこで、今回は(2人がこの記事を読むかは不明ですが)もう少し詳細の解説を行いたいと思います。これは、後に\zeta (3)の無理性証明を紹介する際のウォーミングアップにもなります*8

補題1 自然数nに対してd_n:=\text{lcm}[1, 2, \dots, n] とする。このとき、十分大きいnに対して
\displaystyle d_n < 3^n
が成立する。

これは前回の記事
integers.hatenablog.com

で証明しました。

補題2 r, sを非負整数とする。このとき、
\displaystyle \int_0^1 \! \! \int_0^1\frac{x^ry^s}{1-xy}dxdy = \begin{cases}\zeta (2) - \sum_{k=1}^r\frac{1}{k^2} & (r=s) \\ \displaystyle \frac{1}{r-s}\sum_{k=s+1}^r\frac{1}{k} & (r > s)\end{cases}
が成り立つ。ただし、r=0r=s+1の場合は和の部分は現れない。

証明. r=sのケースは(1-xy)^{-1}を幾何級数展開して逐次積分すれば簡単に示される。r > sの場合は望遠鏡和を作って証明するが、この補題を一般化したものを収束性なども厳密にみて別の記事で紹介するため、今回の記事では省略する*9Q.E.D.

定義 自然数nに対して多項式P_n(x)
\displaystyle P_n(x) := \frac{1}{n!}\frac{d^n}{dx^n}\{x^n(1-x)^n\}
で定義する。これはずらしLegendre多項式(-1)^n倍したものである。

補題3 \ \ \ \ \ \ \displaystyle P_n(x) = \sum_{k=0}^n(-1)^k\binom{n}{k}\binom{n+k}{k}x^k \in \mathbb{Z}[ x ].

証明. 定義式において(1-x)^nを二項展開してからn階微分すればよい。 Q.E.D.

補題4 f \colon [0,1] \to \mathbb{R}C^{n}級関数とする。このとき、
\displaystyle \int_0^1f(x)P_n(x)dx = \frac{(-1)^n}{n!}\int_0^1x^n(1-x)^n\frac{d^n}{dx^n}f(x)dx
が成り立つ。

証明. n回部分積分を行えばよい。P_n(x)の定義においてLeibniz則を用いて微分を実行することにより、各部分積分において出てくる第一項は消えることがわかる。 Q.E.D.

補題5 0 < x, y <1において
\displaystyle 0 < \frac{x(1-x)y(1-y)}{1-xy} \leq \left\{ \frac{\sqrt{5}-1}{2} \right\}^5
なる評価が成り立つ。

証明. 大学一年生で数学を勉強した者は証明できる。後で時間が出来たら証明を簡単に書きます。 Q.E.D.


\zeta (2)が無理数であることの証明.

\displaystyle I_n := \int_0^1 \! \! \int_0^1 \frac{(1-y)^nP_n(x)}{1-xy}dxdy
とする。このとき、補題2より整数列\{ a_n\}, \{ b_n\}が存在して

\displaystyle I_n = \frac{a_n+b_n\zeta (2)}{d_n^2}

が成り立つ。一方、補題4を用いて積分変形を行えば、

\displaystyle I_n = (-1)^n\int_0^1 \! \! \int_0^1\left\{ \frac{y(1-y)x(1-x)}{1-xy} \right\}^n \frac{dxdy}{1-xy}

と変形される。被積分関数を見れば明らかに|I_n| \neq 0であるので、補題5より

\displaystyle 0 < \frac{|a_n+b_n\zeta (2)|}{d_n^2} < \int_0^1 \! \! \int_0^1\left\{ \frac{\sqrt{5}-1}{2}\right\}^{5n} \frac{dxdy}{1-xy} = \zeta (2)\left\{ \frac{\sqrt{5}-1}{2}\right\}^{5n}

が得られる。よって、補題1から十分大きいnに対してはd_n <3^nと評価することによって

\displaystyle 0 < |a_n + b_n\zeta (2)| < \left( \frac{5}{6}\right)^n

となる。\zeta (2)が有理数、例えば\displaystyle \frac{a}{b} \ (a, b \in \mathbb{N})、であったならば

\displaystyle 0 < |a_n+b_na| < b\left( \frac{5}{6} \right)^n \xrightarrow{n \to \infty} 0

となってしまう。すなわち、十分大きいnを考えることによって我々は01の間にある整数を獲得してしまう。 Q.E.D.

*1:数学の日とも呼ばれています。英語では"Pi Day"です。ちなみにEinsteinの誕生日でもあります。更に、今年は一般相対論百周年!!

*2:S. Ramanujan, Modular equations and approximations to pi, Quart. J. Math. (Oxford) 45 (1914)で発表した公式のうちの一つです。

*3:陳腐と表現したのは、タクシー数の話は面白いけれども、私はそんなに凄いとは思わないという話です。

*4:Ramanujanの公式の証明を短くまとめた文献が中々見つからないので、いつか記事にしたいと思っています。

*5:終わらない数というのは数学的に言えば無理数ということです(とします)。10進法表記に限定するならば無理数でなくとも終わらない数はあるのですが、任意ベースで終わらないという性質の方が良いと思われるので、無理数と考えることにしましょう。あるいは円周率が10進法で巡回しない無限小数表示を持つ直接証明を探すくらいなら無理数性を示した方がよいという考え方も妥当です。さて、無理数は非加算無限に存在するわけですが、このような流行は「円周率が非常に慣れ親しまれた無理数である」ということを表しているのだと思われます。ここで、パラドキシカルなことは「円周率の無理数性」を知っている国民はどれぐらいいるのだろうか?ということです。だって、証明を知らなければ実は永遠の愛ではなかったとなって愛が消滅する可能性だってなきにしもあらず。。。ただ、証明が簡単な\sqrt{2}で類似を辿ろうとすると、1月41日がないことも影響していると考えられます。なんという無駄な考察!!

*6:2週間研究集会で出張している合間だったので作成が大変でした。英語で書いた理由は「見た目がかっこよいから」です。

*7:なぜこの証明法が一番好きであるかはここでは述べませんが個人的に私に会う機会がある方は聞いてください。

*8:integers.hatenablog.com

*9:integers.hatenablog.com