Chebyshevは素数定理の弱い版である
を示しており(は正の定数), 極限
が存在するならば
でなければならないということを示していました.
実は彼はLegendre予想の否定という仕事もやっています(に関する漸近挙動は
を考える).
とりあえず, これは素数定理より強い予想ですが, の値は間違えており, Chebyshevが次を示しました.
実はGaussは正しく予想していたようです. Chebyshevはの
の挙動を使って少し強い形で定理を証明し, 実際に極限が存在するという難しい部分はde la Valée Poussinが1899年に証明しています(素数定理の証明は1896年).
さて, 実は上記Chebyshevの定理は非常に簡単に証明できることがPintzによって指摘されています.
J. Pintz, On Legendre's prime number formula, Amer. Math. Monthly 87 (1980), 733-735.
その証明を紹介したいのですが, ちょうど私が執筆した素数定理の証明の本
の中で示されている公式達を使わせていただくと簡単に紹介できるのでそうさせていただきます. この本では第一世代・第二世代・第三世代のビッグ・オー不等式があって, 第三世代まで行くと素数定理の証明が可能となったということが書かれています(なお, この記事ではビッグ・オー不等式としてではなく漸近公式のみを考えれば十分です).
一言で述べると, 上記Chebyshevの定理は第二世代の(von-Mangoldt関数版の)Mertensの第一定理から瞬殺されます. Pintzが
So it is curious that Legendre's conjecture (1.2) had remained open for 40 years.
とコメントしているのは納得です.
PintzによるChebyshevの定理の証明
はvon-Mangoldt関数(素数定理本 定義6.9).
は第二Chebyshev関数(素数定理本 定義6.13). 実際には次を示す.
証明. 任意にをとり,
であれば
が成り立つとする. このとき,
と評価できる. ここで, . 仮定より
が十分大きければ
とできる. Q.E.D.
Pintzの定理からChebyshevの定理が出ること(この部分は基本的ということでPintzの論文には書かれていない): Abelの総和公式(素数定理本 命題5.1)において,
とすると,
であり,
なので, 補題より
を得る. Chebyshevの定理を証明するためにが成立すると仮定する.
に注意すれば,
より, 素数定理本 補題4.4によって
素数定理本 補題4.5(4), (6)より
である. 以上をまとめると,
の成立がわかった. よって, Pintzの定理が正しければ, および
が従い,
となる. Q.E.D.
Pintzの定理の証明. の成立を仮定する. 素数定理本 命題6.18(17)より
が成り立つ(今はの成立を仮定しているため
が使用可能であり, 従って命題6.18(17)の証明(=シャピロのタウバー型定理の証明)で比較的難しかった部分の議論は全て不要であることに注意). また, Abelの総和公式を
として適用すれば
が得られる. 仮定より右辺は
が成り立つ. ここで,
と補題を使った. が両立するためには,
でなければならない. Q.E.D.