インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Chebyshevによる(素数計数関数についての)Legendre予想の否定的解決について

Chebyshevは素数定理の弱い版である

\displaystyle c_1\frac{x}{\log  x} \leq \pi(x) \leq c_2\frac{x}{\log  x}

を示しており(c_1, c_2は正の定数), 極限\displaystyle \lim_{x\to \infty}\frac{\pi(x)\log x}{x}が存在するならば1でなければならないということを示していました.

実は彼はLegendre予想の否定という仕事もやっています(xに関する漸近挙動はx\to \inftyを考える).

Legendre予想 (1798/1808) \pi(x)
\displaystyle \pi(x)=\frac{Bx}{\log x-A+o(1)}\tag{1}
を満たし, 更にA=1.08366..., B=1が成り立つであろう.

とりあえず, これは素数定理より強い予想ですが, Aの値は間違えており, Chebyshevが次を示しました.

定理 (Chebyshev, 1848) (1)が成り立つのであれば, A=B=1でなければならない.

実はGaussは正しく予想していたようです. Chebyshevは\zeta^{(m)}(s)s\to 1+0の挙動を使って少し強い形で定理を証明し, 実際に極限が存在するという難しい部分はde la Valée Poussinが1899年に証明しています(素数定理の証明は1896年).

さて, 実は上記Chebyshevの定理は非常に簡単に証明できることがPintzによって指摘されています.

J. Pintz, On Legendre's prime number formula, Amer. Math. Monthly 87 (1980), 733-735.

その証明を紹介したいのですが, ちょうど私が執筆した素数定理の証明の本

note.mu

の中で示されている公式達を使わせていただくと簡単に紹介できるのでそうさせていただきます. この本では第一世代・第二世代・第三世代のビッグ・オー不等式があって, 第三世代まで行くと素数定理の証明が可能となったということが書かれています(なお, この記事ではビッグ・オー不等式としてではなく漸近公式のみを考えれば十分です).

一言で述べると, 上記Chebyshevの定理は第二世代の(von-Mangoldt関数版の)Mertensの第一定理から瞬殺されます. Pintzが

So it is curious that Legendre's conjecture (1.2) had remained open for 40 years.

とコメントしているのは納得です.

PintzによるChebyshevの定理の証明

\Lambda(n)はvon-Mangoldt関数(素数定理本 定義6.9). \psi(x)は第二Chebyshev関数(素数定理本 定義6.13). 実際には次を示す.

定理 (Pintz) \psi(x)
\displaystyle \psi(x)=Cx+\frac{(D+o(1) )x}{\log x}\tag{2}
を満たすのであれば, C=1かつD=0でなければならない.

補題  f(x)=o(g(x))であり, f(x), g(x)は任意のx\geq aに対して[a,x]でリーマン積分可能であるとする(a \in \mathbb{R}). \int_a^xg(t)\mathrm{d}t\to\infty \ (x \to \infty)であれば,
\displaystyle \int_a^xf(t)\mathrm{d}t=o\left(\int_a^xg(t)\mathrm{d}t\right)
が成り立つ.

証明. 任意に\varepsilon > 0をとり, t\geq cであれば \left|f(t)\right|\leq \varepsilon g(t)が成り立つとする. このとき,

\displaystyle \left|\int_a^xf(t)\mathrm{d}t\right| \leq \int_a^c\left|f(t)\right|\mathrm{d}t+\int_c^x\left|f(t)\right|\mathrm{d}t\leq A+\varepsilon\int_c^x\left|g(t)\right|\mathrm{d}t

と評価できる. ここで, A:=\int_a^c\left|f(t)\right|\mathrm{d}t. 仮定よりxが十分大きければ

\displaystyle \left.\left|\int_a^xf(t)\mathrm{d}t\right|\right/\int_a^xg(t)\mathrm{d}t \leq 2\varepsilon

とできる. Q.E.D.

Pintzの定理からChebyshevの定理が出ること(この部分は基本的ということでPintzの論文には書かれていない): Abelの総和公式(素数定理本 命題5.1)においてa_n=\frac{\Lambda(n)}{\log n}, \varphi(x)=\log xとすると, \displaystyle \sum_{2\leq n\leq x}a_n\varphi(n)=\psi(x)であり,

\displaystyle \sum_{2\leq n \leq x}a_n=\sum_{p^k\leq x}\frac{\log p}{k\log p}=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k}\pi(x^{\frac{1}{k}}),

\displaystyle \sum_{k=2}^{\infty}\frac{1}{k}\pi(x^{\frac{1}{k}}) \leq\sum_{k=2}^{[\log_2x]}\sqrt{x}=O(\sqrt{x}\log x)=o\left(\frac{x}{\log^2x}\right)

なので, 補題より

\displaystyle \psi(x)=\pi(x)\log x+o\left(\frac{x}{\log x}\right)-\int_2^x\frac{\pi(t)}{t}\mathrm{d}t+o\left(\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log^2t}\right)

を得る. Chebyshevの定理を証明するために(1)が成立すると仮定する. \frac{1}{1-X}=1+X+o(X), (X\to 0)に注意すれば,

\displaystyle \pi(x)\log x=\frac{Bx}{1-\frac{A+o(1)}{\log x}}=Bx+\frac{B(A+o(1) )x}{\log x}+o\left(\frac{x}{\log x}\right).

\pi(t)=\frac{Bt}{\log t}+O\left(\frac{t}{\log^2t}\right)より, 素数定理本 補題4.4によって

\displaystyle \int_2^x\frac{\pi(t)}{t}\mathrm{d}t=B\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log t}+O\left(\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log ^2t}\right).

素数定理本 補題4.5(4), (6)より

\displaystyle O\left(\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log^2t}\right)=o\left(\frac{x}{\log x}\right), \quad \int_2^x\frac{\pi(t)}{t}\mathrm{d}t=\frac{Bx}{\log x}+o\left(\frac{x}{\log x}\right).

である. 以上をまとめると,

\displaystyle \psi(x)=Bx+\frac{(B(A-1)+o(1) )x}{\log x}

の成立がわかった. よって, Pintzの定理が正しければ, B=1およびB(A-1)=0が従い, A=B=1となる. Q.E.D.

Pintzの定理の証明. (2)の成立を仮定する. 素数定理本 命題6.18(17)より

\displaystyle \sum_{n\leq x}\frac{\Lambda(n)}{n}=\log x+O(1)\tag{3}

が成り立つ(今は(2)の成立を仮定しているため \psi(x)=O(x)が使用可能であり, 従って命題6.18(17)の証明(=シャピロのタウバー型定理の証明)で比較的難しかった部分の議論は全て不要であることに注意). また, Abelの総和公式をa_n=\Lambda(n) \ (n\geq 2), \varphi(x)=\frac{1}{x}として適用すれば

\displaystyle \sum_{n\leq x}\frac{\Lambda(n)}{n}=\frac{\psi(x)}{x}+\int_2^x\frac{\psi(t)}{t^2}\mathrm{d}t

が得られる. 仮定より右辺は

\displaystyle O(1)+\int_2^x\frac{C+\frac{D+o(1)}{\log t}}{t}\mathrm{d}t=C\log x+(D+o(1) )\log \log x\tag{4}

が成り立つ. ここで,

\displaystyle \int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{t\log t}=\log \log x-\log \log 2

と補題を使った. (3), (4)が両立するためには, C=1, D=0でなければならない. Q.E.D.