一部の人々は正の整数を特定の種類の整数だけを使った和で表したくなるんですよね。
例えば、2つの平方数の和で表してみたり
4つの平方数の和で表してみたり
2つの素数の和で表してみたり
そして、その人々は、いつそのような和で表せるのかということが気になります。
フェルマーの二平方定理とか、ラグランジュの四平方定理とか、ゴールドバッハ予想とか。
単に表せるかだけでなく、何通り表し方があるかまで気にしだします。
のように。ラグランジュの四平方定理はヤコビの四平方定理に強化されています。
まあ、しかし、このような問題はいくらでも考えられますよね。なので、幾らでも考えられています。
正整数を素数との冪の和で表したい人々がいます。
はこのように6通りに表せます。それで、このような表し方がとても多い整数があるだろうかという問題を考えた人がいるんですね。
例えば、素数との冪の和としての表示を1兆通り以上持つような整数はあるでしょうか。
あります。実際、以前
integers.hatenablog.com
において、素数との冪の和としての表示数は幾らでも大きくなり得ることをエルデシュが1950年の論文において証明したと紹介しました。
ところで、先のの表示において、
だけを取り出してみると、「素数との冪の和」における「冪」が素数となっています。
冒頭で言った「特定の種類の整数」は本当に色々設定する人がいるもので、この冪の部分を素数に限定してもエルデシュの定理と同様のことが成り立つだろうと言った人がいるんですね*1。
最近のDing-Zhouによる論文*2で、この予想はフィールズ賞受賞者であるメイナードの有名な結果から即座に導出されるということが指摘されています。
整数の組 が許容的であるとは, 任意の素数 に対して、剰余類の集合のサイズについて
が成り立つことを言います。このとき、次の定理が証明されています。
これはメイナードの論文*4のp.391あたりに書いてあり、しばしばメイナード・タオの定理と呼ばれています。
さて、をあなたの好きな正の整数としましょう。定理で存在する整数をとります(大きい)。を小さい順に並べた最初の個の素数とします。このとき、個の整数の組 は許容的です。というのも とおくと、は1元集合です。また、が奇素数のときはがでは決して割れませんので、 です。よって、ある正整数 が存在して、 のうちの少なくとも個は素数となります。
このとき、番で素数になるとして、
は を通りに「素数と2の素数冪の和」として表示しています*5。
*1:Y.-G. Chen, Romanoff theorem in a sparse set, Sci. China Math. 53 (2010), 2195–2202.
*2:Y. Ding, G-L. Zhou, Some Applications of the Maynard–Tao Theorem, Amer. Math. Monthly, 130 (2023), 583-586.
*3:は非負整数とする文献が多いですが、許容的という性質は平行移動で変わらないので、負の整数であっても同じことが言えます。
*4:J. Maynard, Small gaps between primes, Ann. of Math. 181 (2015), 383–413.
*5:が素数であることはどこにも使っておらず、とってきたに対してまで素数があるということして使っていません。つまり、冪の部分の制限は「正整数の無限集合」であれば同じことが言えます。