定数でない有理数係数多項式の根とならないような複素数のことを超越数といいます。
私が初めてこの概念を知ったのは中学二年生のときで、学校の図書館で読んだ本に載っていました。その中二病的な響きに憧れを抱いたのを覚えています。
Hermiteは1873年にが超越数であることを証明しました。文献はいくらでもありますが、この記事ではの超越性証明を紹介したいと思います。
C. Hermite, Sur la fonction exponentielle, Comptes rendus de l'Académie des Sciences de Paris, 77, (1873), 18–24.
が超越数であることの証明
証明. 微分公式
が成り立つので、平均値の定理によりとの間の数が存在して
が成り立つ。 Q.E.D.
注意: のTaylor展開
においてをに置き換えたものがであることに注意する。
が超越数であることの証明. が代数的数であると仮定する。このとき、正の整数 および が存在して
が成り立つ。とても大きい素数を固定して
とおく(どれぐらい大きくとってるかは証明を読んでいくと判明する)。このとき、補題より各 に対してが存在して
が成り立つ(は今考えている について、補題におけると同様に定義する)。を掛けて足し合わせることによって、(2)から
が得られる。さて、を
と展開しよう()。と置き換えることにより
が成り立つ(注意を参照。)。
実ははより大きくとっていたので、はを割り切らない。すなわち、
のときは はを因子にもつので
と展開できる()。よって、先ほどと同様にして
が分かる。実はにとっており、が素数であることに注意すると、(4)、(5)より
さて、であるからである。また、 から
と評価できる。よってとおくと、最終的に
なる評価を得る。は固定されていることに注意して、を限りなく大きくするとこの値はいくらでも小さくなることが分かる(階乗の記事の極限公式を参照せよ)。
よって、(3)、(6)と合わせるととの間に整数が存在することが導かれて矛盾する。 Q.E.D.
証明の構造と素数の無限性
無理数性や超越性の証明の常套手段は、背理法の仮定を上手く用いて
なる形の等式を作り、「はでない整数」であることと「」を示すことによって十分大きいで矛盾を導くというものです(そのとき、十分大きいに対してはとの間の整数となってしまう)。
さて、この観点での超越性証明を振り返ってみると、最初のという等号を導くのに(1)が絶妙に上手く働いていることが分かります。そして(1)の証明には「の微分」が効いています。
しかしながら、補題における は次数のどんな実数係数多項式に対しても適用できる一方、それ以降の証明を機能させるためにはテスト関数を上手く選ぶ必要があります。
今回の証明ではの評価の部分(よくある階乗の評価に帰着)よりも「の非零性」にアイデアが詰まっていると感じます。それはパラメータとして素数をとるという点です。補題を応用することによって得られた に対応する
が零でないことを示すのは一般には難しそうに思えますが、素数の性質を華麗に用いてを示しています(素数で割れない整数はではない!)。
そして、「素数は無限に存在する」ため、とすることが許されるのです。
さて、ここからはマニアックかつ無意義な話になりますが、前回の記事
での無理性を用いた素数の無限性証明を紹介しました。この証明における前提条件である「の無理性」の根拠を今回の記事の証明に求めると循環論法となってしまいます。前々回の記事
における第四証明では素数の無限性を用いていなかったため、循環論法にはならないのです。その証明は積分表示を用いたものだったのですが、積分表示による証明の利点は「非零性が被積分関数を見れば自明である」という点です。
そこで、極めてマニアックな疑問ではありますが、次の疑問を長年もっています: