前回の記事ではの超越性を証明しましたが、今回は
が超越数であることの証明を紹介します。これまた、溢れんばかりに文献はあるのですが。。。
F. Lindemann, Über die Ludolph'sche Zahl, Sitzungsberichte der Königlich Preussischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin, 2, (1882), 679–682.
F. Lindemann, Über die Zahl , Mathematische Annalen, 20, (1882), 213–225.
証明. 微分公式
が成り立つので、
なる積分表示を得る。よって、
と評価できる*1。 Q.E.D.
注意: のTaylor展開
においてを
に置き換えたものが
であることに注意する。
が超越数であることの証明.
が代数的数であると仮定して矛盾を導く。このとき、代数的数全体のなす集合は体をなすので*2、
も代数的数となる*3。ただし、
は虚数単位とする。
の次数を
として、
の共役元全体を
とする。また、
の最小多項式の係数の分母を払って得られる整数係数多項式の最高次数の係数を
とする。このとき、
は代数的整数になることに注意しておく。
であることから、
が成り立つ。これを展開すると の指数部分が
なる形の個の項が現れる。このような項のうち、
でないものが
個あると仮定し(明らかに
である)、
と適当な順番で名前を付ける。すると、(1)を展開した式は
と表すことができる()。
とても大きい素数を固定して*4
とおく。この に対して補題のように定義される
を考える。
を
と展開すると、および
は有理整数である。何故ならば、これらは
の対称式であるような
の元なので、
の元で不変であり*5、代数的整数かつ有理数となるからである。よって、
と置き換えることにより(注意参照)
は で割り切れない(この事実を(3)とする)ことがわかる(実は
は
より大きくとっていたのである)。
一方、は各
に対して
を因子にもつので、
と展開される。ここで、は
を除く
の対称式となっているため、
自体の対称性および
なる置き換えによって
がわかる(の部分も含めて、括弧内の和が
の対称式であり、有理整数であることを確認できる)。従って、(2)、(3)、(4)および補題より
なる等式が成立し、左辺はで割れないので
ではない(実は
は
より大きいのである)。ここで、右辺の
は補題で定義されるようなものとする。
さて、
であるから、とすると補題より
が成り立つ。よって、
となって、これはでいくらでも小さくなる。すなわち、十分大きい素数
を考えることによって(5)から矛盾が生じる。 Q.E.D.
証明について
前回の記事での超越性を証明しました:
integers.hatenablog.com
そこで解説したように、最初の補題が一つのキーポイントとなっており(所謂Hermiteの補題)、それはの微分の性質によったものであるため、万能な証明ではないことがわかります。
そこで、の超越性証明を与えようとすると
に対するHermiteの補題のような上手い式を探す
- 全く違う超越性証明の手法を見出す
などのアプローチが考えられると思います。しかしながら、今回紹介した証明はそのどちらのアプローチとも異なり、
Eulerの等式 によって問題を
に関する舞台に持っていき、Hermiteの補題を適用する
というものでした。Eulerの等式については
で変な記事を書いたことがあります。
さて、このアプローチさえ思いつけば、後はHermiteによるの超越性証明と全く同様の議論が進みます。勿論、細かい点は改良する必要があって、
のときは背理法の仮定による代数方程式には
なる項が出てきたのに対し、今回は対応する式を②に求めるため、
を取り扱う必要がありました。「
と
の間の整数を作る」といういつもの手法を適用するためには、そこから有理整数の情報を取り出す必要がありますが、対称式の考え方を取り入れることによってそれを実現しています。また、Hermiteの補題も複素数について適用する必要があるため、複素線積分を用いた証明に書き直しています。
つまり、の超越性証明は新しい超越性証明の手法を開発したものではないのですが、
の舞台に持ち込めるものなら同じ手法が適用できると期待できるため、
以外の数の超越性も証明できそうです。これは全くその通りで、証明の細かい点は多少技術的になりますが、次の定理に昇華されます:
K. Weierstrass, Zu Lindemann's Abhandlung. "Über die Ludolph'sche Zahl", Sitzungsberichte der Königlich Preussischen Akademie der Wissen-schaften zu Berlin, 5, (1885), 1067–1085.
なお、個人的感想として、が超越数であることの証明に「
」と「素数の無限性」という割と観賞用の定理が利用されていることが面白いと感じています。