§7 Generalized Bohr sets and -algebras を二記事に分けて読みます。最初は上の-加法族に関する基本用語が述べられていて、Tao(2006) §6(その一)の内容と重複しています。ので、全部省略できますが、前の記事で述べていなかった点を補足しておきます。
を上の-加法族とします。
可測関数について
が -可測であることを がのアトム上で定数関数であることと定義したが、これは通常の測度論における -可測関数の定義と一致する。
理由: が有限集合であることから、通常の意味での -可測関数の定義は任意の に対して が成り立つことと同値である。これが成り立つと仮定して、のアトム を任意にとる。を一つとって、であったとすると、かつ なので、である。よって、任意の に対して が成り立つ。逆に、が の任意のアトム上で定数関数であると仮定する。なる を任意に考える。このとき、仮定より任意の に対して が成り立つ。ここで、は を含む のアトム。よって、
が成り立ち、これは を意味する。
を -可測関数全体からなる部分空間で -ノルムを付随させたBanach空間とします。は集合としては に依りません。
条件付き期待値作用素について
条件付き期待値作用素をHilbert空間の直交射影 として定義する(任意の関数 に対して -可測関数 が定義されている)。これは、以前定義したものと同じである。すなわち、に対して
理由: となることと は同値である*1。理由: と仮定して、を任意にとる。このとき、
なので、が成り立つ。逆に、とする。このとき、より
なので、が成り立つ。 よって、Tao(2006) §6(その一)の補題2より二つの定義が一致することがわかる。
-加法族 に対して、これが生成する -加法族
の記号を以前と同様に用います。ただし、のときは便宜的に自明な-加法族 とします。
Tao(2006) §6で一様概周期関数達から -加法族を作ったように、この節では基本Gowers反一様関数達に付随する-加法族を作ります。まずは任意の関数に対して或る-加法族を付随させることから始めます。
また、を -値関数とする。このとき、-加法族 が存在して以下の性質が成り立つ:
(i) 任意の-加法族 に対してが成り立つ。
(ii) のアトムの個数は高々 である。
(iii) の任意のアトム に対して、連続関数 が存在してが成り立つ。更に、或る(に依存しない)コンパクト集合 が存在して、が成り立つ。
証明. まず、次の主張を証明する。
主張の証明: と を固定したとき、
となるのは
のときなので、
である。また、が-値関数であることから、を動かしたときに①が成り立つような の個数は高々 個である。これらに注意すると、
が得られる。ここで、が測度であることを使った。よって、Markovの不等式により或る が存在して
が成り立つことがわかり*2、この に対して主張が成立する。
主張により存在する をとって固定する。このとき、を
がアトムの集合となるように定義する。well-defined性:
であり、異なる に対するアトム候補の集合は共通部分を持たないので、この集合はの分割を与えている。
のアトムの個数は
で押さえられるので、個である。次に、を任意の-加法族として
が成り立つことを示す。そのためには、任意の に対して
が成り立つとこを言えばよい。を固定する。
であるが、或る が存在して
なので、に対して なる が存在して
が成り立つ。よって、の全ての元が であったとすると
であり、
であるから②が成立する。以上で性質(i), (ii)が示されたので、最後に性質(iii)が成り立つことを証明する。まず、関数 を では 、の外では であり、残りの区間は直線で結んだグラフとなるような連続関数とする。
のアトム
を任意にとる。このとき、連続関数 を
によって定義する。
すなわち、
を示す。に対して
なので、
上では である。その他の区間では
なので、以上の考察により
がわかった。主張により、これは である。後は、が の取り方に依らずに或るコンパクト集合 に属すことを示す。任意のアトム に対して、は集合
に属している*3。これは のみから決まる集合であり、閉包を取れば の部分集合としてコンパクトである(理由は脚注で述べる*4 )。 Q.E.D.
*1:条件付き期待作用素の定義がどちらであっても成立する(どちらの定義であっても冪等な自己随伴線形写像で、証明で使う性質は共通している)。
*2:cf. タオのセメレディ論文の§6を読む (その二) - INTEGERS
*3:は値ではなく関数を表しているものとする。のような感じ。ただし、定義域は とする。
*4:コンパクトであることはAscoli-Arzeláの定理よりわかる。