前記事の命題(一般化Koopman-von Neumannの構造定理)の証明はTao(2006)の論文で扱ったエネルギー増加法の考え方で証明されます*1。この考え方に基づいて、構造定理は次の命題に帰着されます。
・スモール性限界
・非Gowers一様性評価
・スモール性限界
・エネルギー増加
Prop 8.2 Prop 8.1の証明
を十分小さい正の数として固定し、とする。
として、Prop 8.1で要求される を以下のアルゴリズムで構成する。
初期化
代入
②で定義されるもの, ⑤で定義されるものif
⑥が不成立()then
代入
停止
else
代入
⑨で定義されるもの, Prop 8.2で存在する⑩、⑪、⑫を満たすもの代入
if
then
停止
else
2. へ
注意1: 2. において のときは、であり、①、③、④が成立する(①、③は自明で、④は が測度であることから、必要ならば を大きく取り直すことにより
となる)。
注意2: Prop 8.2を適用するにあたって ①、③、④が成立している必要があるが、⑧、⑩、⑪によって その成立は保存される。
3. でアルゴリズムが停止すれば Prop 8.1の主張が満たされることを確認する。実際、そのとき
が成り立っている。である限りこれは成立するので、上手く を動かして に依存した十分大きい に対して とすることができればよい。なお、なので 依存は無視できる。
は で単調減少であり、であるとしてよい(単調減少化は、必要ならば に取り替える)。そうして、 (のに関する逆関数)とすると、が成り立つ。とすれば、に対して が成り立つので、と書き換えることができて Prop 8.1の成立がわかる。
よって、後は6. での停止が起こり得ない(必ず3. の停止が生じる)ことを示せばよい。6. による停止が起きたと仮定する。に対してエネルギー を
と定義する。このとき、⑫より
が成り立つので、について望遠鏡和をとれば
を得る(の定義より)。一方、⑦より
が成り立つので、に対して考えると、を十分小さく取れば矛盾する。 Q.E.D.
注意3: と動かす論法と同様にして §8(その一)の最後で を上手く動かすことにより、と取れることがわかります。
Prop 8.2の証明
を命題の主張の通りとする。ただし、は適宜十分小さくとってよく、はに依存して十分小さく、は に依存して十分大きくとってよいことに注意する。
まずは、⑦、⑧を証明する。が非負値で点毎に上から で押さえられることと④より
と⑦が得られる。
定義式⑤とが非負値で点毎に上から で押さえられること、たった今証明した⑦より、に対して
と⑧も示された。
①、⑧より に対して補正関数 は点毎に
を満たすので、は基本Gowers反一様関数である。よって、§6(その一)の補題により
が成り立つ。これより、次の評価が得られる。
理由:
及び *2 より
が得られ、をに依存して十分大きく取ると⑬となる。
§7(その二)の命題より、が十分小さく が十分大きい状況で が存在して
及び
が成立する。とする。このとき、⑩、⑪が成立する。理由: ③と⑭より
と⑩が成立する。⑪を示すには に対して一様な評価を与えれば良いが、このとき なので⑮より一様な評価
が得られる。
従って、後は⑥ の仮定のもとエネルギー増加⑫を示せばよい。これを段階的に証明する。
理由: ⑤、§6(その一)の補題、⑥より
と計算できる。
理由: まず、
と評価でき、⑬より である。以下、証明全体で (を十分小さくとって)
が成り立つものとする*3。
が成り立つので、⑤、⑧より
であり、⑩より
なので、⑰が得られた。
理由: まず、
と評価できる。§7(その二)の命題の一つ目の式より
が成り立つので、補正因子を払うことにより
が成り立つ。点毎に なので、⑧より
と評価でき、が測度であることから(のみに依存する)十分大きいに対してこれは定数で押さえられる。よって、⑱が得られた。
理由: 三角不等式より
と評価できるので、⑯、⑰、⑱より⑲が得られる。
理由: は可測であり(-可測 -可測であることに注意)、であることから、条件付き期待値作用素の自己随伴性より
と変形できる。よって、⑲より⑳が従う。
理由: この㉑の証明中に現れるLandauの記号で表される関数は全て非負値関数であるとしてよいことに注意せよ。Cauchy-Schwarzの不等式より
と評価できる。⑬より
なので、
が成り立つ。よって、⑳より
と㉑が得られる。
理由: ⑦より の外では
なので、
であり(に注意)、⑩より
である。
⑫を示すためには
を示せばよい。
帰着の理由: 余弦定理により*4、
であるが、なので、内積の項は である。よって、㉓が証明されたと仮定すると、㉒より
が得られる。を(のみに依存して)十分小さくとり、を のみに依存して十分小さくとることにより
が成り立つので、⑫が従う。
㉓は近似直交関係式
に帰着される(Landauの記号で表される関数(すなわち左辺)は非負値関数とは限らないことに注意)。
帰着の理由: 余弦定理より
なので、内積の項をとおけば、㉑より
と評価できる。よって、㉔が示されれば㉓が従うことがわかった。
㉔は
に帰着される。
帰着の理由: これは、内積の定義と からわかる。
理由: は -可測であり、 なので、条件付き期待値作用素の自己随伴性とTao(2006) §6(その一)の補題3より
となる。
㉕は
に帰着される。
帰着の理由: ㉖より
と変形できるので帰着される。
㉗は
に帰着される。
帰着の理由: -可測 -可測であることに注意して、は-可測なので、条件付き期待値作用素の自己随伴性より
と変形できるので帰着される。
それでは、最終的に㉘を証明する。のときは⑦より
なので、
と評価できる。各点毎に なので、
であり、
において、④より
なので、
なる評価が得られ、これは⑩によって である。以上で㉘が示され、従って Prop 8.2の証明が完了する。 Q.E.D.
Prop 8.2が示されたので、前半の議論によって Prop 8.1が示され、§8(その一)によって擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理(Thm 3.5)の証明が完了したことになります。Green-Tao論文の前半戦が終了したと言ってよく、次回から後半戦に突入します。