9/6から始めた短期集中連載『等間隔に並ぶ素数を追い求めて』もこの記事で最後となります。
まず、Baudetの予想 = van der Waerdenの定理を証明し、
Taoによる、vdWの定理を用いたSzemerédiの定理の緻密な証明を紹介しました。
そして、GreenとTaoによる、Szemerédiの定理を用いた「擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理」の証明を紹介し、
Green-Taoの定理を証明するには素数の集合を統制する擬ランダム測度 = Green-Tao測度を構成すればよいことを確認しました。
Green-Tao測度の構成は解析的整数論におけるGoldston-Yıldırımの定理に帰着され、それらは
と
において次の補題に帰着されました。
つまり、この記事でこの最終補題を証明すればGreen-Taoの定理の証明が完全に完了します。
そして、
これは純粋にRiemannゼータ関数に関する公式と言えます。
最後の最後に。
結局、素数に関する有益な情報を提供してくれるのは、Riemannゼータ関数なのです!
Riemannゼータ関数を用いた素数定理の証明では、実数に対して
が成り立つ*1というRiemannゼータ関数の零点に関する情報から素数定理を導出したことを思い出します。
実はde La Vallée Poussinは古典的非零領域と呼ばれる①より精密な命題を証明することによって、素数定理の精密化
を証明しています。最終補題も素数定理の精密化を導くこの古典的非零領域から導出されます。使う形でまとめると次のようになります:
当ブログではこの命題の証明を解説していませんが、これはGreen-Taoの理論とは完全に独立なRiemannゼータ関数に関する複素関数論における古典的定理です。この命題と後で使うRiemannゼータ関数の凸性評価についてはここでは前提知識として割愛しますが、松本耕二先生の『リーマンのゼータ関数』(朝倉書店)やTitchmarshの"The Theory of the Riemann Zeta-function" (Oxford University Press)などの定評のある教科書で標準的に学ぶことができます。
§Appendix A. Proof of Lemma 10.4を読む
記号 は固定するが、は小さい定数に対する記号として乱用する。古典的非零領域で存在するをが領域 に完全に含まれるだけ小さくとる。前節まではで考えてきたが、この節ではを出さずに、Landauの記号はでの漸近挙動を表すことにする。また、に関するパラメータ依存の表記は省略するものと規約する。
新たにコンタワーを
として定義する。はの左側の境界となっている。を取ることの利点はがのときに極を持たないことにある。
証明. まず、一つ目の評価を示す。上の積分なので
を考える。での積分を考えれば十分。
より かつであり、
なので、
を得る。を取って積分範囲を分割すると、更に
と評価できる*2。ここで、一つ目の積分は
と評価できる。部分積分を用いて帰納法を適用することにより、のみに依存する正の定数が存在して
なる不定積分の公式が成り立つことがわかる。よって、二つ目の積分は
と評価できる。つまり、
と取れば
および
なので、
が示された。次に、二つ目の評価を示す。上の積分なので
を考える。
および
であり、
と評価できる。積分区間を分割すると、
および
なので(最後の積分は前半にも現れた)、二つ目の評価の証明も完了する。 Q.E.D.
証明. は上で解析的であり、古典的非零領域による漸近公式によって、この証明中での積分順序の交換は全て正当化される。また、§10 (その一)の補題1の証明におけるのと同様のコンタワー積分を複数回実行するが、その際の項は全て消える。よって、極の位置を正確に捉えて留数を拾っていく。
まずはについての積分路をからに移す。この際、極は存在しないので値は変わらない。こうすると、次にについて積分路をからに変更すれば、古典的非零領域と合わせて、極はのみであることがわかる*3。なので、留数は
である。よって、
とすれば、留数定理による帰結は となる。をそれぞれ評価する。
について。について積分路をからに変更する。このとき、極はのみで、それは位である。
なので、留数は
従って、
を得る。ここで、最後の評価は仮定されている の評価と補題1の一つ目の評価のの場合から従う。
後はの漸近評価を与えればよい。積分順序を交換して、についての積分路をからに変更する。このときは、極は二つあって、とである(ともに位。もちろん古典的非零領域を使ってわかる)。の留数は
であり、の留数は仮定している の評価と補題1の一つ目の評価のの場合から
である。よって、留数定理から、
の評価に全てが帰着された。が大きければなので、は
と評価する。また、古典的非零領域を使って、
と評価する。ここで、次の評価が成り立つことに注意する: に対して
が成り立つ。理由: Riemannゼータ関数の凸性評価によって、かつであれば
が成り立つ。よって、が十分小さければ、のときは
となって主張も成立することがわかる*4。であれば、であることから
が成り立つので、古典的非零領域においてを小さくできることから、のときは
となり、やはり主張が成立することがわかる。
補題1の一つ目の評価でとすることによって
なので*5、評価すべきであった二重積分も同じ漸近挙動を示すことがわかった。 Q.E.D.
最終補題の証明
以下、Landauの記号の依存は省略する*6。を上の変数解析関数であって、
を満たすようなものとする。積分を
と定めるとき、示すべきことは
である。これをに関する帰納法で証明する。のときは補題2より
が成り立つ。
であり、
が言えれば
と評価できて、のときの主張が成り立つことがわかる。①については、であればなので、古典的非零領域より、
と表示するとき
と評価できる。に対して
が成り立つので、
と評価でき、
と①が証明できた。
次に、の場合に証明できたと仮定しての場合を証明する。を固定して、変数に対して補題2を適用し(仮定は満たされている)、その後重積分をとれば
が成り立つことがわかる。ここで、は
であり、の項については積分計算を実行した結果である。実際、上では
と評価できるので、補題1の二つ目の評価のの場合を使えば積分はに吸収されることがわかる。定義からおよびは上解析的であり、①からに対して
が成り立つので帰納法の仮定が使える状況になっている。従って、
と変形でき、のときも主張が成立することが示された。 Q.E.D.
以上で今回の旅は終わりです。期限のある執筆であったためミスや解説が不十分な箇所は存在すると思われますが、それらは今後修正していきます。
とりあえず、
本当に、本当に存在した。