体と正整数
に対して、写像
が多項式写像であるとは、
が存在して
が成り立つときにいいます。この記事ではTaoの記事とそのコメント欄を参考に次の定理のSerreの議論に基づいた証明を解説します。
Hilbertの零点定理を使って、無限体の話を有限体の話へ移します。この記事では可換環論の幾つかの命題を既知と仮定します。
可換環論からの準備
Hilbertの零点定理
を体とし、
のイデアル
に対して、
を
と定義し、集合に対してイデアル
を
と定義する。また、イデアルの根基
は
で定義されるイデアルである。
Jacobson環
可換環がJacobson環であるとは、
の任意の素イデアルが極大イデアルの共通部分として表されるときにいう。体や
はJacobson環である。
この定理はHilbertの零点定理の一般化と考えることができる。実際、体がJacobson環であることから
のイデアル
に対して
*1が成立し、これがkeyとなって
が代数閉体の場合に零点定理の主張が証明される。
この定理1を利用して次の重要な定理が示される:
を体とすればZariskiの補題となる(Zariski版零点定理と呼ばれることもある)。
有限性に関する補題
証明. を
上有限生成な可換環とし、
の極大イデアル
をとって剰余体を
とすると、
は
上有限生成なので
がJacobson環であることと定理2から
は
上有限生成加群である。もし
の標数が
であれば
が
の部分
加群となるが、
はNoether環なので
も
上有限生成となってしまう。これはあり得ない(有理数の分母の素因数が有限通りしかあり得なくなってしまうため)。よって、
の標数は
である。すると、
は
上有限生成な環なのでZariskiの補題より
は
の有限次拡大となり、それは有限体である。 Q.E.D.
Ax-Grothendieckの定理の証明
を多項式写像とし(
)、単射であると仮定する。
変数多項式環
のイデアル
を
の生成するイデアルとする(
)。
の単射性から各
に対して
なので、Hilbertの零点定理によって
(
)および
が存在して
が成り立つ。ここで、背理法で定理を証明するためには全射ではないと仮定する。すると、或る
が存在して、任意の
に対して
が成り立つ。これより、
を
の生成する
のイデアルとすると
であり、Hilbertの零点定理によって
が存在して
が成り立つ。
今、可換環を
(
)の係数達および
が生成する
上の環とする。
の極大イデアルの一つを
とすると、有限性に関する補題から
は有限体である。
の定義から、①、②は
係数の等式と思って成立することがわかる。これは
を
係数に還元した多項式写像
が単射でありかつ全射でないことを示している。つまり、或る有限集合から自分自身への全射でない単射が存在するといっているのである。そんな馬鹿な。 Q.E.D.
*1:は素イデアルで
は極大イデアル。一つ目の等号は標準的に成立し、定理から二つ目の等号が得られる