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数、特に整数に関する記事。

素数定理の証明

この記事ではNewman-Zagierによる素数定理の複素解析的証明を解説します。

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これらの記事のうち、「素数定理の初等的証明」四部作以外の記事の内容を既知と仮定して以下の記述を行います。特に、素数定理は次のような様々な同値な形があることを思い出しておきます:

\begin{equation}\begin{split} \pi (x) &\sim \frac{x}{\log x} \\ \pi (x) &\sim \mathrm{Li}(x) \\ \vartheta (x) &\sim x \\ \psi (x) &\sim x\end{split}\end{equation}

漸近挙動は全てx \to \inftyで考えており、\vartheta (x)はテータ関数ではなくChebyshev関数であることに注意します。

歴史的解説

Riemannは1859年の記念碑的論文においてEulerが考察していた級数を複素変数で考察し、\zeta (s)と名付けました。そして、\zeta (s)を複素平面全体へ解析接続し、素数分布との関係を調べました(Riemann素数公式*1)。Riemannは素数定理を証明することが目的の一つであったと考えられ、Riemannの素数公式は実際に\pi (x) \sim \mathrm{Li}(x)を示唆するものなのですが、条件収束する和の部分の難しさがあって素数定理を厳密に導出することは出来ません。

しかしながら、「\zeta (s)の複素解析的性質を調べると素数の情報を引き出すことが出来る」という解析的整数論における根本的な方向性を示したRiemannの功績ははかりしれません。Riemann自身は素数定理を証明することは叶いませんでしたが、「ゼータ関数の零点とリーマン予想」の記事で証明した「\zeta (s)\mathrm{Re}(s)=1上に零点を持たない」という定理から素数定理を導出出来ることが判明し、それを実際に成し遂げたのがHadamardとde la Vallée-Poussinで1896年のことでした(独立に証明)。

彼らの証明は\pi (x)に対する素数公式ではなく、\psi (x)に対する明示公式を用いた複雑な証明です。その後、素数定理の証明は様々な数学者によって簡略化が進められ、1930年代にはLandauを経てWiener-IkeharaのTauber型定理を使った極めてシンプルな証明が得られています。その証明は河田敬義著『数論』の第10章で解説されており、日本語で読むことが可能になっています。ゼータの零点に関する定理から-\zeta'/\zeta\mathrm{Re}(s) \geq 0における正則性を導き、Tauber型定理によって\psi (x) \sim xを導出できます。Tauber型定理の証明はFourier解析的な発想に基づいていると言って良さそうです。

一方、Tauber型定理の代わりにCuachyの積分公式を巧みに使って別の解析的な定理を証明することにより素数定理の別証明を与えたのがNewmanで(1980年)、Newmanの発想に基づいてZagierが素数定理証明百周年にあたる1996年に"Newman's short proof of the prime number theorem"という題の解説論文を発表しています。Newmanの解析的定理を用いることによって、-\zeta'/\zetaの正則性から\vartheta (x) \sim xを導出することが出来ます。この論文はたったの4ページですが、Newmanのもともとの論文も4ページです。題名からは単にNewmanの証明を解説しただけのように思えますが、両者の論文を眺めると(Korevaarによる1982年の論文も参考にした上で)Zagierによる考察が幾分入っており、若干簡略化されていると思われます。また、Zagierの論文の方はよりself-containedに書かれており、「最も短い素数定理の証明の文献を与える」という意気込みで書いたのではないかという印象を受けます。

ただ、数学の文献には所謂「行間」というものが存在し、どれだけスラスラ読めるかは読む人の持つ知識量によって変わってきます。実際、Zagierの論文を高校生に伝えようという本が予備校講師の吉田信夫氏によって執筆されており(『複素解析の神秘性-複素数で素数定理を証明しよう!』)、4ページの論文が203ページで解説されています。とは言っても、やはりZagierの論文の証明法が現存する最もシンプルな素数定理の証明と言ってもよいかもしれません。インターネット上で日本語でZagierの論文を解説したものも既にいくつか見つかるのですが、当ブログでも(当ブログのself-containednessを出来るだけ高めたいという個人的な思いから*2)解説を行います。

また、ゼータ関数および複素解析を用いない証明がSelbergとErdősによって与えられていますが、それについては「素数定理の初等的証明」という四つの記事で既に詳細に解説しています。

Newman-Zagierによる証明

定理 f(t)t \geq 0で定義される有界な局所可積分関数とする。\mathrm{Re}(z) > 0で正則である関数
\displaystyle g(z) = \int_0^{\infty}f(t)e^{-zt}dt
\mathrm{Re}(z) \geq 0に正則に解析接続されていると仮定する。このとき、\displaystyle \int_0^{\infty}f(t)dtは収束し、
\displaystyle \int_0^{\infty}f(t)dt = g(0)
が成立する。

証明. T > 0に対し、

\displaystyle g_T(z) := \int_0^Tf(t)e^{-zt}dt

と定義すると、これは\mathbb{C}全体で正則(f(t)に関する仮定からg_T(z)は関数としてwell-definedであり、Moreraの定理から正則であることが分かる)。このとき、

  • \displaystyle \lim_{T \to \infty}g_T(0)が存在し、
  • \displaystyle \lim_{T \to \infty}g_T(0) = g(0)

を示せばよい。R > 0に対して、単純閉曲線C

\displaystyle \{z \in \mathbb{C} \mid |z| \leq R, \mathrm{Re}(z) \geq -\delta \}

の境界とする。ただし、向きは反時計回りとし、\delta = \delta (R) > 0g(z)Cで正則であるようにとる(\mathrm{Re}(z) = 0におけるg(z)の正則性と

\{ z \in \mathbb{C} \mid \mathrm{Re}(z) = 0, -R \leq \mathrm{Im}(z) \leq R\}

のコンパクト性から\deltaの存在がわかる)。

このとき、Cauchyの積分公式より

\displaystyle g(0)-g_T(0) = \frac{1}{2\pi i} \int_C(g(z)-g_T(z))e^{zT}\left( 1+\frac{z^2}{R^2} \right)\frac{dz}{z} ―①

が成り立つ(i=\sqrt{-1}は虚数単位とする)。これを評価するために、C

  • C_+ := C \cap \{ z\in \mathbb{C} \mid \mathrm{Re}(z) > 0\}
  • C_- := C \cap \{ z\in \mathbb{C} \mid \mathrm{Re}(z) < 0\}

と分割する。\left|f(t)\right| \leq B \ (t \geq 0)なるBを一つ取って固定する(f(t)の有界性からこのようなBは存在する)。

\mathrm{Re}(z) > 0のとき、

\displaystyle \left|g(z)-g_T(z)\right| = \left| \int_T^{\infty}f(t)e^{-zt}dt\right| \leq B\int_T^{\infty}\left|e^{-zt}\right|dt = \frac{Be^{-\mathrm{Re}(z)T}}{\mathrm{Re}(z)}

が成り立つ。また、z=x+yi \in C_+のとき

\displaystyle R^2+z^2=R^2+x^2-y^2+2xyi=2(x^2+xyi),

\displaystyle \left|R^2+z^2\right|=2x\sqrt{x^2+y^2}=2xR

であるから、

\displaystyle \left| e^{zT}\left( 1+\frac{z^2}{R^2} \right) \frac{1}{z} \right| = e^{\mathrm{Re}T}\frac{2\mathrm{Re}(z)}{R^2}

C_+上で成り立つ。よって、

\displaystyle \left| \frac{1}{2\pi i}\int_{C_+}(g(z)-g_T(z))e^{zT}\left( 1+\frac{z^2}{R^2} \right) \frac{dz}{z} \right| \leq \frac{B}{R} ―②
と評価できる。

次に\mathrm{Re}(z) < 0のときを考える。

\displaystyle \left|g_T(z)\right| =\left| \int_0^Tf(t)e^{-zt}dt \right| \leq B\int_{-\infty}^T\left|e^{-zt}\right|dt = \frac{Be^{-\mathrm{Re}(z)T}}{\left|\mathrm{Re}(z)\right|}

であり、C'_{-} := \{ z \in \mathbb{C} \mid \left|z\right|=R, \mathrm{Re}(z) < 0\}上において

\displaystyle \left| e^{zT}\left( 1+\frac{z^2}{R^2}\right) \frac{1}{z} \right| = e^{\mathrm{Re}(z)T}\frac{2\left|\mathrm{Re}(z)\right|}{R^2}

が先程と同様に確認できるので、

\displaystyle \left| \frac{1}{2\pi i}\int_{C_{-}}g_T(z)e^{zT}\left( 1+\frac{z^2}{R^2} \right) \frac{dz}{z} \right| \leq \frac{B}{R} ―③

と評価できる(g_T(z)の正則性から、Cauchyの積分定理によってC_{-}C'_{-}に変更できることに注意する)。

また、

  • \displaystyle g(z)\left( 1+\frac{z^2}{R^2}\right) \frac{1}{z}Tに依らない。
  • e^{zT}\mathrm{Re}(z) < 0で広義一様に0に収束。

より

\displaystyle \lim_{T \to \infty}\int_{C_{-}}g(z)e^{zT}\left( 1+ \frac{z^2}{R^2} \right) \frac{dz}{z} = 0 ―④

が得られる。従って、①~④を合わせると

\displaystyle \limsup_{T \to \infty}\left|g(0)-f_T(0)\right| \leq \frac{2B}{R}

となって、R\to \inftyとすることによって証明が完了する。 Q.E.D.

Cauchyの積分公式を適用するにあたって、z=0を代入すると1になるような関数は何をくっつけても良いわけですが、\displaystyle e^{zT}\left( 1+\frac{z^2}{R^2}\right)をくっつけると上手く評価できるという部分が素晴らしい着想であると思います。

「ゼータ関数の零点とリーマン予想」の記事で示した定理は次の形で用いられます:

命題 複素数s \in \mathbb{C}に対する級数
\displaystyle \Phi (s) := \sum_p\frac{\log p}{p^s}
\mathrm{Re}(s) > 1で広義一様絶対収束し、従って正則関数を定める(和は全ての素数を渡る)。更に、\Phi (s)\mathrm{Re}(s) \geq 1に有理型接続され、極はs=1のみで、留数1の単純極である。

証明. \varepsilon > 0を固定する。x \geq 1 \Longrightarrow \log x < xより、素数pに対して

\displaystyle \frac{\varepsilon}{2}\log p < p^{\frac{\varepsilon}{2}}

が成り立つ。よって、\mathrm{Re}(s) > 1において

\displaystyle \sum_p \left| \frac{\log p}{p^s -1}\right| \leq 2\sum_{p}\frac{\log p}{p^{\mathrm{Re}(s)}} < \frac{4}{\varepsilon}\sum_p\frac{p^{\frac{\varepsilon}{2}}}{p^{1+\varepsilon}} < \frac{4}{\varepsilon}\zeta (1+\varepsilon /2)

と評価できるので、\displaystyle \sum_p\frac{\log p}{p^s-1}\mathrm{Re}(s) > 1で広義一様絶対収束し、正則関数を定めることが分かる。従って、Euler積表示から得られる関係式

\displaystyle \log \zeta (s) = -\sum_p\log (1-p^{-s})

を項別微分することによって

\displaystyle -\frac{\zeta'(s)}{\zeta (s)} =\sum_p\frac{\log p}{p^s-1}

が得られ、同様に\Phi (s)の収束性も示されるので、

\displaystyle -\frac{\zeta'(s)}{\zeta (s)} = \Phi (s) +\sum_p\frac{\log p}{p^s(p^s-1)}

なる関係式が成り立つことが分かる。さて、最後の和は最初の議論によって\displaystyle \mathrm{Re}(s) > \frac{1}{2}で広義一様絶対収束して正則であることが分かるため、\zeta (s)の解析接続と合わせると、この式をもって\Phi (s)\displaystyle \mathrm{Re}(s) > \frac{1}{2}に有理型接続できる。また、\Phi (s)のこの範囲における極は-\zeta'(s)/\zeta (s)の極に等しく、s=1および\zeta (s)の零点のみが候補となる。しかしながら、「ゼータ関数の零点とリーマン予想」で証明した定理によって\mathrm{Re}(s) \geq 1においては\zeta (s)は零点を持たないため、\Psi (s)の極の候補はs=1のみであることが判明した。さて、

\displaystyle \zeta (s) = \frac{1}{s} + O(1) \ \ (s \to 0)

に注意すると、

\displaystyle -\frac{\zeta'(s)}{\zeta (s)} = \frac{1}{s} + O(1)  \ \ (s \to 0)

であることが分かるため、主張の証明は完了する。 Q.E.D.

この命題と前定理を合わせることによって次のような広義積分の収束性が導出される:

広義積分
\displaystyle \int_1^{\infty}\frac{\vartheta (x)-x}{x^2}dx
は収束する。

証明. \mathrm{Re}(s) > 1のとき、

\begin{equation}\begin{split} \Phi (s) &= \sum_p\frac{\log p}{p^s} \\ &= \sum_{n=1}^{\infty}(\vartheta (n+1)-\vartheta (n))\frac{1}{(n+1)^s} \\ &= \sum_{n=1}^{\infty}\vartheta (n)\left\{ \frac{1}{n^s}-\frac{1}{(n+1)^s} \right\} \\ &= s\sum_{n=1}^{\infty}\int_n^{n+1}\frac{\vartheta (n)}{x^{s+1}}dx \\ &=s\int_1^{\infty}\frac{\vartheta (x)}{x^{s+1}}dx \\ &= s\int_0^{\infty}e^{-st}\vartheta (e^t)dt\end{split}\end{equation}

と変形できる(最後の等号は変数変換x=e^tによって得られる)。f(t) = \vartheta (e^t)e^{-t}-1とする。これはChebyshevの定理によって有界である。また、\mathrm{Re}(z) > 0において

\begin{equation}\begin{split} g(z) &= \int_0^{\infty}f(t)e^{-zt}dt \\ &= \int_0^{\infty}e^{-(z+1)t}\vartheta (e^t)dt-\int_0^{\infty}e^{-zt}dt \\ &= \frac{\Phi (z+1)}{z+1}-\frac{1}{z}\end{split}\end{equation}

は正則な関数であり、命題より\mathrm{Re}(z) \geq 0に正則に解析接続されることがわかる。すなわち、f(t)は前定理の仮定を満たすことが確認できたので、

\displaystyle \int_0^{\infty}(\vartheta (e^t)e^{-t}-1)dt = \int_1^{\infty}\frac{\vartheta (x)-x}{x^2}dx

は収束することが分かる(e^t=xと変数変換している)。 Q.E.D.

そうして、この積分の収束性は素数定理を含有しているのである:

証明の完結

或る\lambda > 1が存在して、「\vartheta (x) \geq \lambda xが成り立つようなxであって、いくらでも大きいものが取れる」と仮定する。このとき、そのようなxに対して

\displaystyle \int_x^{\lambda x}\frac{\vartheta (t)-t}{t^2}dt \geq \int_x^{\lambda x}\frac{\lambda x-t}{t^2}dt = \int_1^{\lambda}\frac{\lambda -1}{t^2}dt > 0

が成り立つ(\vartheta (t)が広義単調増加関数であることと、変数変換t \mapsto xtを用いている。最後の積分値はxに依らないことに注意せよ)。

\displaystyle 0 < \varepsilon := \int_1^{\lambda}\frac{\lambda -1}{t^2}dt

\varepsilonをとると、

\displaystyle \int_x^{\lambda x}\frac{\vartheta (t)-t}{t^2}dt \geq \varepsilon

なる十分大きいxが存在することになる。しかしながら、系で示した積分の収束性により、十分大きいxに対して

\displaystyle \int_x^{\lambda x}\frac{\vartheta (t)-t}{t^2}dt < \varepsilon

が成り立つはずなのでこれは矛盾である。従って、背理法により

\displaystyle \limsup_{x \to \infty}\frac{\vartheta (x)}{x} \leq 1

が示された。

一方、或る0 < \lambda < 1が存在して、「\vartheta (x) \leq \lambda xが成り立つようなxであって、いくらでも大きいものが取れる」と仮定する。このとき、そのようなxに対して

\displaystyle \int_{\lambda x}^{x}\frac{\vartheta (t)-t}{t^2}dt \leq \int_{\lambda x}^{x}\frac{\lambda x-t}{t^2}dt = \int_{\lambda}^{1}\frac{\lambda -1}{t^2}dt < 0

が成り立つ(\vartheta (t)が広義単調増加関数であることと、変数変換t \mapsto xtを用いている。最後の積分値はxに依らないことに注意せよ)。

\displaystyle 0 < \varepsilon := -\int_{\lambda}^{1}\frac{\lambda -1}{t^2}dt

\varepsilonをとると、

\displaystyle \int_{\lambda x}^{x}\frac{\vartheta (t)-t}{t^2}dt \leq -\varepsilon

なる十分大きいxが存在することになる。しかしながら、系で示した積分の収束性により、十分大きいxに対して

\displaystyle \int_{\lambda x}^{x}\frac{\vartheta (t)-t}{t^2}dt > -\varepsilon

が成り立つはずなのでこれは矛盾である。従って、背理法により

\displaystyle \liminf_{x \to \infty}\frac{\vartheta (x)}{x} \geq 1

が示された。この二つの結果を合わせることにより、素数定理

\displaystyle \lim_{x \to \infty}\frac{\vartheta (x)}{x} = 1

が得られた。 Q.E.D.

このように、素数定理という美しい定理に簡単にアクセス出来る時代に生きているということは幸せであります。

*1:まだ当ブログでは紹介していません。どういった公式であるかが気になる方はtsujimotter氏の記事 tsujimotter.hatenablog.com をご覧ください。素数公式の可視化アプリは実際に遊んでみると感動します。

*2:とは言ってもCauchyの積分公式などは知っているものと仮定してしまっており、完全にはself-containedには出来ません。申し訳ございません。