インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

数列τ(n)に関するRamanujanの予想

Ramanujanの見つけた魅力的な数列\tau (n)が乗法性

n, mが互いに素であれば、\tau (nm) = \tau (n)\tau (m)

が満たすことをRamanujanの見つけた魅力的な数列 - INTEGERSで紹介しました。実はこれに合わせて、素数pと自然数kに対して

\tau (p^{k+1})=\tau (p^k)\tau (p)-p^{11}\tau (p^{k-1})

が成り立つことをRamanujanは1916年の論文で予想しました。これらは予想が提出されてから一年後の1917年にMordellによって証明されました*1

この二つの事実から、任意の\tau (n)の値は素数pに対する\tau (p)さえ分かれば計算できることが分かります。また、\Deltaに付随するL関数を

\displaystyle L(s, \Delta) := \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\tau (n)}{n^s}

と定義するとき、Euler積表示

\displaystyle L(s, \Delta) = \prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-\tau (p)p^{-s}+p^{11-2s}}

を持つことが分かります。実際、素数冪に関する漸化式を用いることによって素数pに対して

\displaystyle \left( \sum_{k=0}^{\infty}\tau (p^k)t^k \right) (1-\tau (p)t+p^{11}t^2) = 1

\mathbb{Q}[ \! [ t] \! ] において成り立つので、

\displaystyle \sum_{k=0}^{\infty}\tau (p^k)t^k = \frac{1}{1-\tau (p)t+p^{11}t^2}.

そうして、\tau (n)の乗法性からRiemannゼータ関数のEuler積表示の証明と同様に考えることによって

\displaystyle L(s, \Delta )=\prod_p\left( \sum_{k=0}^{\infty}\frac{\tau (p^k)}{p^{ks}}\right) = \prod_p\frac{1}{1-\tau (p)p^{-s}+p^{11-2s}}

が得られます*2

互いに素でない場合の乗法性が成り立たないことによってRiemannゼータ関数やDirichletL関数のときとは違って最後の等比級数の和の変形がL(s, \Delta)に対しては実行出来ないですが、代わりに素数冪に対する漸化式を用いることによって上述のように新しい種類のEuler積表示が得られることをRamanujanが発見したのです。この新しいEuler積表示は分母がp^{-s}に関する二次式(H_p(X):=1-\tau (p)X+p^{11}X^2)となっていることから「二次のゼータ」と呼ばれます*3

これらは1917年には正しい事実となったわけですが、Ramanujanは60年近く未解決であった難問を同時に提出していました。それが所謂Ramanujan予想です:

Ramanujan予想 素数pに対して、不等式
\left|\tau (p)\right| \leq 2p^{\frac{11}{2}}
が成り立つ。

H_p(X)の判別式が\tau(p)^2-4p^{11}であることから、Ramanujan予想はH_p(X)の根が虚数であることと同値であり、更にはその根の絶対値がp^{-\frac{11}{2}}と言っても同値であり、H_p(p^{-s})の零点の実部が11/2であることとも同値であることが分かります。

これは結局1974年のDeligneによるWeil予想の解決に伴って解決されることとなりました。なお、これよりL(s, \Delta)\mathrm{Re}(s) > 13/2で絶対収束することが分かります。

(おまけ)\sigma_{11}(n)との整合性

integers.hatenablog.com
において

定理P 素数pに対して合同式
\tau (p) \equiv 1+p^{11} \pmod{691}
が成り立つ。

を紹介しました。実際には、次が成り立ちます:

定理N 任意の自然数nに対して
\tau (n) \equiv \sigma_{11}(n) \pmod{691}
が成り立つ。ここで、\sigma_{11}(n)nの約数の11乗和を表す。

定理Pはどうやって証明するかというと、定理Nを証明してその系として導出します。そういう意味では全く無意味なことなのですが、定理Pから定理Nを導出してみましょう。

(約数総和関数のときと同様)\sigma_{11}(n)も乗法性を持つので、\sigma_{11}(n)に関しても素数冪の漸化式

\sigma_{11}(p^{k+1})=\sigma_{11}(p)\sigma_{11}(p^k)-p^{11}\sigma_{11}(p^{k-1})

が成り立つことを示せばおしまいです。これは

\begin{equation}\begin{split} \sigma_{11}(p)\sigma_{11}(p^k) &= (1+p^{11})(1+p^{11}+p^{22}+\cdots +p^{11k}) \\ &= \color{red}{1}+p^{11}+p^{22}+\cdots +p^{11k} \\ &\hspace{8.5mm}\color{red}{+ p^{11}+p^{22}+\cdots +p^{11(k+1)}} \\ &= p^{11}(1+p^{11}+\cdots +p^{11(k-1)}) \\ &\hspace{7mm}+1+p^{11}+\cdots + p^{11(k+1)}\\ &= p^{11}\sigma_{11}(p^{k-1})+\sigma_{11}(p^{k+1})\end{split}\end{equation}

と容易に確認できます。

*1:Mordell作用素=Hecke作用素に対する\Deltaの固有性を用いて証明できる。

*2:Ramanujanは原論文において変数はsではなくtを用いています。

*3:L関数はゼータ関数の仲間。