§5 Almost periodic functions を二回に分けて読んでいきます。前半は一様概周期性ノルム族の定義を行います。
- (斉次性)
- (非退化性)
- (三角不等式)
を満たし、かつ
- (複素共役不変性)
- (積閉性)
を満たすときにいう。
に対しては便宜的に と定めることによってノルム は任意の関数に対して定義されていると考えることにします。また、
と記号を導入します(単位球)。
シフト不変な場合は定義から 、 スケール不変な場合は に注意。
- 空でない有限集合
- 定数
- 毎に定まる有界関数
- 毎に定まる
が存在して、任意のに対して
が成り立つときにいう。 ただし、右辺のの部分は点毎に期待値を返す関数とする。
一様概周期関数に対して一様概周期性ノルムを定義します。
次の命題はの基本性質を述べるものです:
が成り立つ。更にがスケール不変であれば、もスケール不変となる。
証明. 確かめることが多数あるので一つずつ示していく。
の非負性: ①においてであることから明らか。
がシフト不変であること: 一様概周期関数の定義におけるは のシフト軌道に対して一律に存在することが要請されているので、である。
が複素共役不変性を満たすこと: 一様概周期関数 に対して①のような表示があれば、
であり、が上の関数達のなすBanach代数であることから
であるので、は一様概周期関数であり、が成り立つ。
がスカラー倍で閉じていることとの斉次性: をと極形式で表す。一様概周期関数 に対して①のような表示があれば、
と表示でき、であることから は一様概周期関数であることがわかる。また、これは
であることも示している。
がスケール不変であればもスケール不変であること: なので、一様概周期関数 に対して①のような表示があれば、
が成り立つ。のスケール不変性より
なので、も一様概周期関数であり、 が成り立つことがわかる。
であることと、の非退化性: を一様概周期関数とするとき、表示①に対して
が成り立つので、通常の絶対値に関する三角不等式によって が成り立つ。よって、定義より が成り立つ。非退化性はこの不等式からわかる。
であることと、: に対して を
によって定義する(非退化性により)。が-代数であることから であり、の非負性・斉次性より 。また、任意のに対して、のシフト不変性によって である。このとき、
なので、 に対しては①の表示を持つ。すなわち、は一様概周期関数であることが示された。また、この表示はを示している。 の場合は明らか。
が加法で閉じており、が三角不等式を満たすこと: 次を示せば十分である:
理由: 帰着の主張が示されたと仮定する。が の場合に主張を示せば十分。は
を満たすので、任意の に対して
である(に注意)。がスカラー倍で閉じていることと、の斉次性から
が成立する。は任意なので、三角不等式
が従う。 帰着の主張の証明: とをとる。このとき、或る空でない有限集合 , 毎に , 毎に , 毎に有界関数 , 毎に有界関数 が存在して、毎に
と表示される。更に、或るが存在して
とすることができる。理由: 定義からが存在して、毎に
と書ける。よって、, とすればよい。
このをとって、を任意に固定する。また、とする。
と有限集合 を導入すると、なので、
と各元に適当に名前をつければ
と書ける。よって、
を得る。この先、を固定して、が有理数であるか無理数であるかによって場合分けする。
が有理数であるとき. と書ける(は正整数で、)。このとき、
と書けるので、③と④を合わせれば、なる有限集合 , 毎に , 毎に有界関数 が存在して
と書けることがわかった(はに依らないことに注意)。これは、を示している。
が無理数であるとき. と書ける(は正整数で、。 はを満たす実数)。が無理数であることから、としてはいくらでも大きいものをとることができる。そこで、であるようにとっておく(これはであることから可能である)。このとき、
と書ける。の取り方から
である。これに注意すれば、が有理数のときと同様に、③と⑤からが従う(である)。
が積で閉じており、が積閉性を満たすこと: であれば であることを示せばよい。理由: それが示されたとする。がともにでない場合に主張を示せば十分である。仮定より、任意のに対して
であることから、のスカラー倍に対する不変性によって であり、の斉次性より
が成立する。は任意だから、積閉性が従う。 であるとし、②の表示を持ったとする。このとき、とし、に対して
とすれば であり、は有界関数である。そうして、
が成り立つので が示された。
以上で証明すべき項目は全て達成された。 Q.E.D.
上記命題により、予告していた一様概周期性ノルム族
が次の定義から定まります:
Szemerédiの定理の証明には使わないですが、例を一つ見ておきましょう。
証明. に関する帰納法で証明する。のときは は絶対値が以下の定数関数なので、確かにの元である。のときに成立すると仮定する。とし、に対して
とすれば、の次数が以下であることから帰納法の仮定により であり、は有界関数である。よって、
という表示を持つことから であることが示された。 Q.E.D.
Szemerédiの定理の証明には不要なので証明しませんが、実は集合としては に対して
が成り立っています。
追記) カナンさんのセミナーに出てわかったこと: 命題について、加法で閉じていることの証明で有理数と無理数に分けている部分はも含めれば場合分けの必要がない。また、積で閉じていることの証明は帰着しなくとも直接簡明に示すことができる。
付録 有限次元ノルム空間の完備性
証明. を次元とし、をの基底とする。のCauchy列をとる。は
と表示できる。双対基底をとると
と評価できるので はCauchy列であることがわかる。従って、
が存在し、とすれば三角不等式から
が従う。すなわち、は完備である。 Q.E.D.