§8 A Furstenberg tower, and the proof of Theorem 3.5 を二回に分けて読んでいきます。この記事では、擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理 (Thm 3.5)を構造定理 (Prop 8.1)に帰着させます。
ここで、改めてTaoによるSzemerédiの定理の証明のスキームを思い出しましょう:
- 或るという対象がある。
- には或るランダム性と構造という概念を定義することができる。
- を(構造化部分)+(誤差項)に分ける構造定理を示す。誤差項はランダムな部分。
- 誤差項を取り除く一般化von Neumann定理及び構造化部分に関する構造化回帰定理を証明する。
Tao (2006)の証明では定数測度で押さえられる非負値関数に対するランダム性をGowers一様性で、構造を一様概周期関数で定め、上記スキームの通りに証明を実行していました。
Green-Taoによる擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理の証明も同様のスキームで証明されます。ただし、Szemerédiの定理は既に証明されているため、
と一段階粗く考えることができます。すなわち、構造化回帰定理は既に証明されているのです!
後述する擬ランダム測度に対する構造定理は
= (Gowers一様関数) + (Gowers反一様関数) + (無視できる)
という形の分解を与える定理で、Gowers一様関数の部分は§5(その二)で証明した擬ランダム測度に対する一般化von Neumann定理により制御することができ、Gowers反一様関数の部分にSzemerédiの定理を適用することによってThm 3.5が示されるというプランです。
構造定理を正確に述べると次のようになります:
を-擬ランダム測度とし、を非負値関数であって、を満たすようなものとする。また、を十分小さい正の実数とし、は十分大きいものとする。このとき、或る -加法族 と例外集合 が存在して次の三条件が成立する:
・スモール性条件
・のの外における一様分布性
・Gowers一様性評価
それでは、この命題さえ証明すればThm 3.5の証明が完了することをみましょう(以下の証明では 依存を思い出します)。
Prop 8.1 Thm 3.5の証明
をThm 3.5の通りにとる。は後で に依存して決める十分小さい数とする。として*1、を命題によって存在するのものとし、
とする。であることと、、命題のスモール性条件より
が成り立つ。また、の非負性より も非負値関数であり、命題の"のの外における一様分布性"より
である。このとき、或るを変数とする関数 で補正した は
を満たす。理由: スモール条件における なる関数を 、のの外における一様分布性における なる関数を と書くことにし(を変数とし、に対しては定数)、を に依存して後で選択する正の実数とする。は非負値関数である。より
であり、より
が成り立つ。そうして、
が成り立つようにしたい。これが成り立つためには、
であればよい。ただし、に注意して*2、は左辺が 以上になるように選んでおく。必要ならば をとることによって と仮定してよいので、
が所望の補正関数となる。
従って、定数測度に対するSzemerédiの定理(Prop 2.3) を に適用することによって
が成り立つ。ここで、
と展開することができ、項の和の部分については が(を動かしたときに)有界関数であることから
である。よって、
が得られた。
次に、Gowers一様関数の部分を制御する。
であることから、或る補正関数 が
を満たす。理由: として、
とすると であり、に依存した十分大きい に対して を満たす。また、
とすれば、三角不等式により に対して
が得られる。
命題のGowers一様性評価より なので
であり、§5(その二)で示した擬ランダム測度に対する一般化von Neumannの定理より、で、少なくとも一つは であるものに対して
が成り立つことがわかる。のときと同様に左辺を展開してばらすと 項は誤差項となり*3、
で、少なくとも一つは であるものに対して
が得られる。
とすれば、①、②より
となり、が任意の に対して成り立つので、
が結論付けられる。より少しだけ小さい を好みで選んで固定すれば、に依存して を十分小さく選ぶことによって、
となり、Thm 3.5の証明が完了する。 Q.E.D.
よって、§8の残りの部分では§6, 7で準備した結果を利用して、命題 (一般化Koopman-von Nemannの構造定理)を証明します。