インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

2017-01-01から1年間の記事一覧

グリーン・タオ論文の§3を読む

§3 Psuedorandam measures を読みます。測度の線形形式条件、相関条件を定義し、擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理を定式化します。定義1 (線形形式条件, Definition 3.1) を測度とする。正整数パラメータに対して、が-線形形式条件を満たすとは次が成…

グリーン・タオ論文の§2を読む

§2 An outline of the proof には重要な発想の転換について書かれています。何もないところからいきなり歴史的大難問を解くのは難しいでしょう。今となっては我々はSzemerédiの定理という等差数列に関する大定理を手中にしています。これを足掛かりにGreen-T…

グリーン・タオ論文の§1, 4を読む

それでは記念碑的論文B. Green, T. Tao, The primes contain arbitrarily long arithmetic progressions, Annals of Mathematics. 167 (2), (2008), 481–547.を読んでいきましょう。§1から§4まではイントロ的内容で本格的な証明は§5から始まります。なので、…

タオのセメレディ論文の§10を読む(その二)

この記事でSzemerédiの定理の証明が完結します。 §6(その一)の補題3直後の式、Cauchy-Schwarzの不等式、前記事④より、任意のに対してが成り立つ。従って、Markovの不等式より −①である。に対してをと定義する。このとき、各に対して −②が成り立つ。理由: に…

タオのセメレディ論文の§10を読む(その一)

Taoの論文の最終節: §10 Recurrence for almost periodic functions に入ります。Szemerédiの定理の証明で残っているのは(再掲) 一様概周期関数の回帰性 (Theorem 3.3) を整数とする。非負値有界関数 は或る に対して1. 2. 3. を満たすと仮定する。このとき…

タオのセメレディ論文の§9を読む(その二)

この記事では、前記事の命題の証明を完成させます。定義 をの部分集合とし、とする。に対して とすると、はHilbert空間になる*1。に対して-ノルム はで与えられる。前記事の第四帰着を更にもう一段階帰着させます。第五帰着 前記事命題の設定のもと、任意の…

タオのセメレディ論文の§9を読む(その一)

§9 Compactness on atoms, and an application of van der Waerden's theorem を二回に分けて読んでいきます。残すところは構造化回帰定理(Thm 3.3)のみですが、これは§9と§10の二節を使って証明されている最も難しい部分となります。この記事ではKeyとなる…

タオのセメレディ論文の§8を読む

§8 Proof of the structure theorem では前節のエネルギー増加法を用いて構造定理(Thm 3.5)を証明します。命題 (構造定理ダイコトミー, Lemma 8.1) を整数とし、非負値有界関数 は或るに対して条件を満たすと仮定する。を任意の関数とする。また、は整数で、…

タオのセメレディ論文の§7を読む

§7 The energy incrementation argument ではエネルギーを定義し、構造定理(Thm 3.5)と構造化回帰定理(Thm 3.3)の証明で用いるエネルギー増加法を抽象的な形で用意します。定義 (エネルギー) 関数の組 と 上の-加法族 に対して、エネルギー をと定義する。§6…

タオのセメレディ論文の§6を読む (その三)

前の記事では一様概周期関数に対して良い上の-加法族が存在することを示しましたが、この記事では複数の一様概周期関数によって生成される上の-加法族について議論します。定義 (Definition 6.4) 整数 に対して、上の-加法族が-コンパクトであるとは , が存…

タオのセメレディ論文の§6を読む (その二)

この記事では、一様概周期関数に対して良い振る舞いをする上の-加法族の存在を示します。命題 (Proposition 6.2) を一様概周期関数*1とし、とする。このとき、とのみに依存する-加法族が存在して、となる任意の非負整数 となる任意の実数 に対して のアトム…

タオのセメレディ論文の§6を読む (その一)

§6 Factors of almost periodic functions に入ります。まず、上の-加法族の基本事項をまとめます。定義1 (Definition 6.1) の部分集合族*1が上の-加法族であるとは、 が成り立つときにいう*2。また、包含関係について極小となる空でないの元をのアトムと呼…

タオのセメレディ論文の§5を読む (その二)

§5 Almost periodic functions の後半です。構造定理(Thm 3.5)は前半で導入した一様概周期性と§4で導入したGowers一様性のある種の双対性と思うことができます。ここでは二つの双対性(命題1&命題2)を示しますが、命題1はSzemerédiの定理の証明には使わな…

タオのセメレディ論文の§5を読む (その一)

§5 Almost periodic functions を二回に分けて読んでいきます。前半は一様概周期性ノルム族の定義を行います。定義1 (Banach代数, Definition 5.1) をの部分-代数とする。このとき、が上の関数達のなすBanach代数*1であるとは、ノルムが備わっており、ノル…

タオのセメレディ論文の§4を読む

§4 Uniformity norms, and the generalized von Neumann theorem ではGowers一様性ノルムを定義して一般化von Neumann定理(Thm 3.1)を証明します。van der Corputの補題 任意の関数 に対してが成り立つ。証明. 左辺はであり、右辺はなので、とすることにより…

タオのセメレディ論文の§3を読む

§3 Overview of proof では証明のスキーム 或るという対象がある。 には或るランダム性と構造という概念を定義することができる。 を(構造化部分)+(誤差項)に分ける構造定理を示す。誤差項はランダムな部分。 誤差項を取り除く一般化von Neumann定理及び構造…

タオのセメレディ論文の§1, 2を読む

この記事からT. Tao, A quantitative ergodic theory proof of Szemerédi’s theorem, The electronic Journal of Combinatorics 13, (2006), 1−49.を読んでいきます。integers.hatenablog.comSzemerédiの定理の証明のスキーム*1を常に思い出しておきましょう…

等間隔に並ぶ素数を追い求めて〜グリーン・タオの定理〜

素数のもつ秩序。それは人類に幾度となく驚きと喜びを与えてくれました。そして、これからも与え続けてくれることでしょう。 素数の秩序に関する人類の最初の大きな勝利は素数定理 を発見し、証明したことだと思います。 素数の分布は高度に非自明で、一見す…

ロスによるエルデシュ・トゥーラン予想の解決

をに関する-数列の最大項数とします(この記事ではRothに従ってやも正整数を表します)。Rothは以下のErdős-Turánによる予想integers.hatenablog.comErdős-Turán予想 を1953年までに解決しました*1。彼はその直後、より精密な定理定理 (Roth, 1953) とする。こ…

エルデシュ・トゥーランの定理

を正の整数とし、を満たすような整数列を考えましょう。が等差数列をなすような三項を一切含まないとき、は(に関する)-数列であるといいます。定義 をに関する-数列としてあり得る最大項数と定義する。このとき、ErdősとTuránは次のようなの上からの評価を与…

謎の数学者バウデットが死の直前に遺した真珠

時は1921年。前年には日本人数学者高木貞治が類体論に関する大論文を発表していたが、この年、一人のオランダ人数学者は新しい数学の鉱脈を発見した。彼の名は Pierre Joseph Henry Baudet 「自然数全体のなす集合を二つの集合に分けてみよう。このとき、ど…

リーマン予想の証明

Riemann予想の証明を宣言している論文(プレプリント、Webページ)を集めます。取り下げられたもの、間違っていると指摘されているものについても掲載しています。情報提供があると嬉しいです*1。最終更新日 2019/1/8 2018年 Xiao-Jun Yang arXiv [v1] Sat, 3 …

モーリーの定理

この記事では1899年にFrank Morleyが証明した初等幾何学に関するMorleyの定理のAlain Connesによる証明を解説します。Morleyの定理についてはmathtrain.jpを参照してください。 エピソード Connesがこの証明を発表するに至った経緯には少し面白いエピソード…

カタラン予想の簡単な場合

この記事では正の整数のことを自然数と呼ぶことにします。記事integers.hatenablog.comで証明したEuler-Legendreの定理を思い出します。定理 (Euler, Legendre) 方程式が整数解を持てば、またはが成り立つ。今回はこの定理から簡単にわかる帰結を紹介します…

立方数からなる非自明な長さ3の等差数列は存在しない。

次の古典的Diophantus方程式を紹介します。定理 (Euler, Legendre) 方程式が整数解を持てば、またはが成り立つ。これはFermatの最終定理の指数がの場合の方程式のに係数をつけたものになっています。Fermatの最終定理の形の方が綺麗に感じるかもしれませんが…

xxxx+9xxyy+27yyyy=zz

この記事では、正整数のことを自然数と呼ぶことにします。定理 方程式は自然数解を持たない。Wakuliczによる初等的な証明(Fermatの無限降下法)を紹介します。補題1 方程式の正の有理数解に対して、とし、互いに素な自然数を用いてと表すと、が成り立つ。証…

Ormistonペア

連続する素数のペアが各桁の数の入れ替えになっているようなものをOrmistonペアと言います。これは、Ormiston Collegeの教員であるAndy Edwardsによって名づけられたもので、最小のペアはであり()、次のペアはです()。ちなみに、最小のOrmistonトリプルはで(…

方程式3^a+5^b-7^c=1

定理 (Leitner, 2011) 方程式の非負整数解はまたはのみである。証明. まず、の場合を考える。であれば となり、が従う。のときもで。ならとなって、大きさを考えれば。よって、以下 と仮定してよい。さて、を満たすであって −①が成り立つようなものがしかな…

Smith-Honaker数

番目の素数がHonaker素数であるとは、を各桁の数の総和とすると、が成り立つときにいいます。最小のHonaker素数はで、実際、となっています。 Smith数であって、その素因数が全てHonaker素数であるようなものをSmith-Honaker数といいますが、最小のSmith-Hon…

スミス数いろいろ

幾つかのSmith数を鑑賞しましょう!Smith数についてはintegers.hatenablog.comをご覧ください。 回文数でない最小のSmith数であるが、ひっくり返してもSmith数である*1。また、各桁の総和が素数となる最小のSmith数。 自分自身を除く正の約数の総和とそれ以…