インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

100以下の自然数に魅せられて

療養中であったRamanujanの見舞いに行く途中、Hardyが乗ったタクシーのナンバーが1729であった。
Hardyが

「その数はどうでもいい退屈な数字であった。凶兆でなければよいが」

というと、Ramanujanは即座に

「そんなことはありません。大変面白い数です。それは二つの(正の)三乗数の和で二通りに表すことができる最小の数です」

と返したと言われている。

この有名なエピソードから1729ラマヌジャンのタクシー数と呼ばれています。


こういう話を聞くと、1729というただの一つの数に愛着が湧いてきませんか?


まだ読んでいないのですが、

マーク・チャンバーランド (著), 川辺 治之 (翻訳), 「ひとけたの数に魅せられて」, 岩波書店

という本があるようです。

他にも

デイヴィッドウェルズ(著), 「数(すう)の事典」, 東京図書

など、数の魅力的な特徴をその著者の好みで集めた書籍が幾つか存在します。


ブログ「インテジャーズ」も数の特徴的な性質をたくさん紹介しようというものですが、執筆した記事も200を超えました(証明付きで解説したいというポリシーのために定理解説のカテゴリーに入る記事が多いですが汗)。2018年2月現在は500記事を超えています。


小さい数から順番に紹介すると、いつまでたっても1729には辿り着かないでしょうし、もっともっと大きい数にも魅力的な数はたくさんあります。なので、紹介する数の順番には特にルールがなく、書こうと思った数から書いています。


とは言っても、それなりの数の記事を書いていけば、小さい数(例えば100以下の自然数)については当ブログで紹介した特徴的な性質が一つはあるという状況になってもおかしくないと思います。


というわけで、100以下の全ての自然数について少なくとも一つは特徴的な性質を当ブログで紹介するという目標を立て(ただし、大きい数もちゃんと取り扱いたいので、目標達成への期限は設けない)、それがどれだけ達成されたかをこの記事にまとめておくことにしましょう。

  • 既に記事を書いている数については、その特徴を書き、記事へのリンクを貼ります。
  • 一つの数について二つ以上の記事がある場合は、暫定的に私が一番好きな特徴を選んで一つだけ書きます。
  • 一つも記事がない数についても、今後記事を書く予定がある特徴についてはリンクなしでその特徴を書いておきます(現在該当なし)。

最終更新日:2018/6/16
達成率:70/100

100以下の自然数の特徴まとめ

1:整数であるような唯一の多重調和和

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24で割った余りが1であるような素数は必ず二つの平方数の和として表すことができる

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3:最小のレルヒ素数

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4:全ての自然数は四つ以下の平方数の和として表す事ができる

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5:ハッピーエンド問題 HE(4)=5

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6:唯一の素数サンドウィッチ完全数

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73の補助素数であって非隣接条件を満たす最小の数

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8:カタラン予想「隣り合う冪乗数の非自明なペアは(8, 9)のみである」

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9:非正則指数の世界記録

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10

11:最小のレピュニット素数

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12:最小のサブライム数

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13:発見されている唯一の素数であるようなレルヒ商

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14:偶数であるような最小の非トーシェント数

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15:最小のエマーパイムス

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16:天才素数少年の母の発言「違うでしょ、16でしよ。」

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17:唯一のジェノッキ素数

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18:辺の長さが正整数で周長と面積がともにnである正方形でない長方形が存在する唯一の整数n

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19:(素数の三乗) - (素数の三乗) と書ける唯一の素数

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20:交代的数を倍数にもつための必要十分条件は20の倍数でないこと

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2121連続ハーシャッド数は存在しない

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22:円周率近似値である約率の分子

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23:ラマヌジャンのτ関数について、半数の素数p\tau (p)23で割り切れる

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244の階乗。博士曰く潔い

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25p!/p\#+1が平方数になるのは、7!/7\#+1=25のみであろう

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26:アルファベットの数。全ての素数は26変数多項式で表現できる

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27:コラッツ予想の1に至るまでのステップ回数が50以下で最も多い数

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28:二番目の完全数

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29:3点集合に入る位相の数

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30:リュカ数列が原始的約数を持たない最大の番号

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31:ラマヌジャンによる円周率近似作図のキーとなる数

113=12^2-31, 355=18^2+31
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32

33:相異なる三角数の和として表すことのできない最大の整数

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34:唯一のFibonacci偶半素数

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3535以上の任意の整数Nに対して、1からNまでの整数をどのように二色に塗り分けたとしても、必ず同じ色で塗られた長さ4の等差数列が存在する。

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36:二番目に小さい平方三角数(一番小さいのは1)

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37:最小の非正則素数

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38

39:なんら面白い性質を持たない最小の整数と言われることが多いが別にそんなことはない数

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40\frac{40999920000041}{999999^3}の小数展開には0を挟みながら40個の素数が並ぶ。

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4141以下の素数の個数は13個であるが、13以下の素数の総和は41に等しい

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4242の繰り返し+1は最初の五つが素数である

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43:Göbel数列はx_{43}で初めて非整数となる

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44

45

46:メルセンヌお助け数

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47n, n+1がともにウラム数となるようなnのうち、知られている最大の整数

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48:どの三つをとっても和が素数となるような四つの素数の総和の最小値

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49:最初の六つの合成数の和

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50

51

52:源氏香の組み合わせの数

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53:素数pであって、p^2(p+1)^2の間に双子素数が含まれないような最大の素数(予想)

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54

55

56

57:グロタンディーク素数

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58:各桁の総和が素数であるような最小のスミス数

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59:合成数であるような最小のユークリッド数の小さい方の素因数

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60:二つ目の基準完全数

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61e^{-\frac{1}{2}}に最も近い整数。正則素数は素数全体のe^{-\frac{1}{2}}%を占めると予想されている

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62

63:Zsigmondyの定理における例外的数

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64

65

66

67908=67+179+283+379は面白い性質をもつ

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68

69

70:最小の奇妙数

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7111^{p-1}\equiv 1 \pmod{p^2}が成り立つ、知られている唯一の素数

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72

73:二番目のアペリー素数

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74

75759乗の最初と最後に75が現れる

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76N \geq 76であれば、1, 2, \dots, Nを四色で塗り分けたとき、必ず長さ3の同色等差数列が存在する

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7777以下の素数の個数は21個であるが、21以下の素数の総和は77に等しい

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786の倍数であって無平方数であるもののうち、関-Bernoulli数の分母になり得ない最小の自然数

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799-Göbel数列\{x_n^{(9)}\}x_{79}^{(9)}で初めて非整数となる

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80

81

82

8310-Göbel数列\{x_n^{(10)}\}x_{97}^{(10)}で初めて非整数となる。

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84

85:素数番目の素数と素数番目の素数との積でありなが、合成数番目の合成数でない最小の自然数

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86

87

88

8911番目のフィボナッチ数。1/89=0.011235…89の逆数の小数点以下の数に最初の方のFibonacci数0,1,1,2,3,5が現れる

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90\varphi (n)= \pi (n)が成り立つ最大の整数

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91:合成数であるような最小のヘックス数

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92:二進法、八進法、十進法、十六進法のいずれにおいてもひっくり返すと素数となるような最小の合成数

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93

94M(1)=1の次にメルテンス関数が1をとるのはM(94)=1

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95

96

97:最小の超ハッピー素数

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98

99

100:「n以下の素数の個数」以下の素数の和がnに等しくなるような最大の自然数

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リーマンゼータ関数の級数表示による解析接続

リーマンゼータの解析接続には様々な証明が知られています。このブログでも、Riemann自身による二つの証明のうち、テータ関数を使う方を紹介しました:
integers.hatenablog.com

Riemannのもう一つの証明はコンタワー積分を使うもので、どちらも関数等式も同時に示せる優れものです。

Euler-Maclaurinの和公式を用いるものやRiemann-Siegelの方法を含め、Titchmarsh の"The Theory of the Riemann Zeta-Function"には七通りもの証明が掲載されています。

これらは全て、積分表示を用いる証明です。しかしながら、tsujimotterさんの代表的な記事である

tsujimotter.hatenablog.com

で用いられているリーマンゼータの解析接続を与える式

\displaystyle \zeta (s) = \frac{1}{1-2^{1-s}}\sum_{m=1}^{\infty}2^{-m}\sum_{j=1}^m(-1)^{j-1}\binom{m-1}{j-1}j^{-s}

はTitchmarshに載っているどの手法とも異なるものであり、積分表示ではなく二項係数を含む(二重)級数表示で与えられています*1

私はtsujimotterさんの記事を読むまでこの公式を知らなかったのですが、証明が気になって勉強したので記事にまとめておきます*2

定理 (Hasse-Sondow) リーマンゼータ関数\zeta (s)の解析接続は
\displaystyle \zeta (s) = \frac{1}{1-2^{1-s}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{2^{n+1}}\sum_{j=0}^n(-1)^{j}\binom{n}{j}(j+1)^{-s}
で与えられる。すなわち、右辺は\mathbb{C}\setminus \{1\}内の任意のコンパクト集合上で絶対一様収束し(従って、\mathbb{C} \setminus \{1\}において正則関数を定め)、\mathrm{Re}(s) > 1において\zeta (s) = \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s}に一致する。

若干見た目がtsujimotterさんの記事にある式と異なりますが、全く同じ式です。MathWorldによればこれはKnoppによって1930年に予想され、同年にHasseが証明。1994年にはSondowが再証明を与えているということです。Hasseの論文よりSondowの論文の方が入手しやすく英語のため、

J. Sondow, Analytic Continuation of Riemann's Zeta Function and Values at Negative Integers via Euler's Transformation of Series, Proc. Amer. Math. Soc. 120 (1994), 421-424.

に従って証明を解説します。Sondowの論文にはHasseについて言及がないのが気がかりですが、とりあえず証明を知りたいので今は歴史的考察は入れないでおきます。この記事では、\mathbb{N} := \mathbb{Z}_{\geq 0}とします。

数列の収束に関する準備

補題1 二重複素数列\{a_{nm}\} \ (0 \leq m \leq n, \ m=0, 1, 2, \dots)
1. 任意の固定した非負整数kに対して\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_{nk} = 0.
2. 或るK > 0が存在して、任意のnに対して\left|a_{n0}\right|+\left|a_{n1}\right|+\cdots +\left|a_{nn}\right| < K.
を満たすと仮定する。このとき、任意の複素数列\{x_n\}\displaystyle \lim_{n \to \infty}x_n =0を満たすものに対して、y_n := a_{n0}x_0+a_{n1}x_1+\cdots +a_{nn}x_nによって複素数列\{y_n\}を定義するならば、\displaystyle \lim_{n \to \infty}y_n=0が成り立つ。

証明. 任意に\varepsilon > 0をとる。\{x_n\}に対する仮定から、n \geq k \Longrightarrow \left|x_n\right| < \frac{\varepsilon}{2K}なる番号kが存在する(固定)。このとき、仮定2. から

\displaystyle \left|y_n\right| < \left|a_{n0}x_0+\cdots +a_{nk}x_k\right| + \frac{\varepsilon}{2}

が成り立つ。更に、仮定1. から番号n_0 \geq kが存在して、

\displaystyle n \geq n_0 \Longrightarrow \left|a_{n0}x_0+\cdots +a_{nk}x_k\right| < \frac{\varepsilon}{2}

とできる。すると、n \geq n_0に対して、\left|y_n\right| < \varepsilonを得る。 Q.E.D.

補題2 複素数列\{a_n\}_{n=0}^{\infty}\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_n=0を満たすならば、
\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{1}{2^n}\sum_{m=0}^n\binom{n}{m}a_m =0
が成り立つ。

証明. 非負整数kを固定すれば

\displaystyle \frac{1}{2^n}\binom{n}{k} < \frac{n^k}{2^n} \xrightarrow{n \to \infty} 0

であり、

\displaystyle \sum_{m=0}^n\left| \frac{1}{2^n}\binom{n}{m} \right| = \frac{1}{2^n}\sum_{m=0}^n\binom{n}{m} = 1

なので、補題1が適用できる。 Q.E.D.

作用素\Delta

複素数列のなすベクトル空間上の作用素\Delta \colon \mathbb{C}^{\mathbb{N}} \to \mathbb{C}^{\mathbb{N}}を、a=(a_n)_{n=0}^{\infty}に対して、\Delta a=(a_n-a_{n+1})_{n=0}^{\infty}で定義します*3

個人的には好きではないですが*4、慣習に従って(\Delta a)_n\Delta a_nと書きます。また、非負整数kに対して\Delta^k\Deltak回合成を表します。すなわち、

\displaystyle \begin{cases}\Delta^0 a_n := a_n& \\ \Delta^{k+1}a_n = \Delta^{k}a_n- \Delta^{k}a_{n+1}& \end{cases}

と帰納的に定義されます(\Delta^k a_nも先ほどと同じ略記)。

\Delta^k 1^s(\Delta^k (n^s))_1を意味します(s \in \mathbb{C})。

補題3 複素数列(a_n)_{n=0}^{\infty}および非負整数kに対して、
\displaystyle \Delta^k a_n = \sum_{m=0}^k(-1)^m\binom{k}{m}a_{n+m}
が成り立つ。

証明. kに関する帰納法で証明する。k=0のときはOK。kで成立すると仮定すると、

\begin{align} \Delta^{k+1}a_n &= \Delta^ka_n-\Delta^ka_{n+1} \\ &= \sum_{m=0}^k(-1)^m\binom{k}{m}a_{n+m}-\sum_{m=0}^k(-1)^m\binom{k}{m}a_{n+1+m} \\ &= a_n+\sum_{m=1}^k(-1)^m\left\{ \binom{k}{m}+\binom{k}{m-1} \right\} a_{n+m} + (-1)^{k+1}a_{n+k+1} \\ &= \sum_{m=0}^{k+1}(-1)^m\binom{k+1}{m}a_{n+m}\end{align}

k+1のときも成立することがわかる。 Q.E.D.

Eulerの級数変換公式

補題4 a_1-a_2+a_3-\cdotsが絶対収束交代級数ならば、
\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}a_n = \frac{1}{2}a_1+\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\Delta a_n
が成立する。

証明. 和の順番を入れ替えて良いので、

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}a_n = \frac{1}{2}a_1+\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}(a_n-a_{n+1})

は容易にわかる。 Q.E.D.

命題 a_1-a_2+a_3-\cdotsが絶対収束交代級数ならば、
\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}a_n=\sum_{j=0}^{\infty}\frac{\Delta^ja_1}{2^{j+1}}
が成立する。

証明. まず、正の整数kに対して

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}a_n = \sum_{j=0}^{k-1}\frac{\Delta^j a_1}{2^{j+1}}+\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^ka_n}{2^k} ー①

が成り立つことをkに関する帰納法で証明する。k=1のときは補題4に他ならない。次に、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^ka_n}{2^k}が絶対収束して、kのときに①が成立すると仮定する。このとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^ka_n}{2^k}に対して補題4を適用することにより

\begin{align} \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^ka_n}{2^k} &= \frac{\Delta^ka_1}{2^{k+1}}+\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^ka_n-\Delta^ka_{n+1}}{2^k} \\ &= \frac{\Delta^ka_1}{2^{k+1}}+\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^{k+1}a_n}{2^{k+1}}\end{align}

が成り立つので、kに対する①と合わせて、k+1のときの①が得られることが分かる。

あとは、

\displaystyle \lim_{k \to \infty} \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^k a_n}{2^k} =0 ー②

を示せばよい。補題3より

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{\Delta^k a_n}{2^k} = \frac{1}{2^k}\sum_{m=0}^k(-1)^m\binom{k}{m}\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}a_{n+m}

であるが、a_1-a_2+a_3-\cdotsが絶対収束交代級数なので、

\displaystyle \lim_{m \to \infty}(-1)^m\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}a_{n+m} = 0

である。よって、補題2より②が示された。 Q.E.D.

定理の証明

補題3より、定理の式は\Deltaを用いて表すと

\displaystyle \zeta (s) = \frac{1}{1-2^{1-s}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\Delta^n1^{-s}}{2^{n+1}}

と書けることに注意する。

まず、\mathrm{Re}(s) > 1において等号が成立することを証明する:

(1-2^{1-s})\zeta (s) = \zeta (s)-2\cdot 2^{-s}\zeta (s) = 1^{-s}-2^{-s}+3^{-s}-4^{-s}+\cdots

と絶対収束交代級数が得られるので、Eulerの級数変換公式により、\mathrm{Re}(s) > 1では確かに

\displaystyle (1-2^{1-s})\zeta (s) = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{\Delta^n1^{-s}}{2^{n+1}}

が成り立つ。

1-2^{1-s}s=1が単純極であり、他には極がないことは明らかなので、後は

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\frac{\Delta^n1^{-s}}{2^{n+1}}

が複素平面全体で絶対局所一様収束することを示せばよい。任意の正整数kおよび複素数sに対して、

\displaystyle \Delta^kn^{-s} = (s)_k\int_0^1 \!  \! \cdots \int_0^1(n+x_1+\cdots+x_k)^{-s-k}dx_1\cdots dx_k ー③

が成り立つことに注意する。ただし、(s)_kはPochhammer記号

(s)_k := s(s+1)\cdots (s+k-1)

であり、積分は逐次積分として定義され、s=1-kのときは両辺0とする。証明はkに関する帰納法。

しばしkを固定する。この積分表示から、\sigma + k \geq 0 (\sigma := \mathrm{Re}(s))ならば

\displaystyle \left|\Delta^kn^{-s}\right| \leq \frac{\left|(s)_k\right|}{n^{\sigma +k}}

と評価できるので、右半平面\sigma > 1-kにおける任意のコンパクト集合Kに対して、\displaystyle M:= \max_{s \in K}\left|(s)_k\right|とすれば

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\left|\Delta^kn^{-s}\right| \leq \sum_{n=1}^{\infty}\frac{M}{n^{\sigma + k}} = M\zeta (\sigma + k)

は収束し、優級数定理によって\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\Delta^kn^{-s}は絶対一様収束する。従って、この交代級数に対してEulerの級数変換公式を適用することにより、

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\Delta^kn^{-s}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\Delta^n\Delta^k1^{-s}}{2^{n+1}} = \sum_{n=k}^{\infty}\frac{\Delta^n1^{-s}}{2^{n+1-k}}

K上絶対一様収束する(\Delta^n\Delta^k=\Delta^{n+k})。すると、2^{-k}倍して\displaystyle \sum_{n=0}^{k-1}\frac{\Delta^n1^{-s}}{2^{n+1}}を加えた

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\frac{\Delta^n1^{-s}}{2^{n+1}}

も当然K上絶対一様収束する。こうして、\sigma > 1-kでこの級数は絶対局所一様収束することが示されたが、kは任意なので、全平面で同じことが言える。 Q.E.D.


収束の証明においてもEulerの級数変換公式を使う所が若干トリッキーに感じました。

関-Bernoulli数に関するWorpitzkyの公式

以上で級数表示による解析接続の証明は終わりましたが、これを応用してリーマンゼータの負の整数点における値を導出しようと思います。代入してハイ終わりとはいかず、関-Bernoulli数に関する公式を一つ証明する必要があります。

関-Bernoulli数B_nについては関-ベルヌーイ数 - INTEGERSを参照してください。「定義'」ではなく、やはり「定義」の方を採用します。

この節で証明するのは次の公式です:

定理 (Worpitzky) 非負整数mに対して次の等式が成り立つ:
\displaystyle B_{m+1} = \frac{m+1}{2^{m+1}-1}\sum_{k=0}^m\frac{1}{2^{k+1}}\sum_{j=0}^k(-1)^j\binom{k}{j}(j+1)^m.

Garabedianが1940年に"新しい公式"として発表したことに影響を受けてCarlitzが1953年に発表した証明を紹介します。Carlitzが指摘しているように、実際には1883年にWorpitzkyが既にこの公式を得ていました。

まずは作用素\Deltaを用いて

\displaystyle B_{m+1}=\frac{m+1}{2^{m+1}-1}\sum_{k=0}^m\frac{\Delta^k1^m}{2^{k+1}}

と書き直せることに注意します(補題3)。

Bernoulli多項式B_n(x)

\displaystyle F(t, x) := \frac{te^{(1+x)t}}{e^t-1} = \sum_{n=0}^{\infty}B_n(x)\frac{t^n}{n!}

によって定義され、

\displaystyle B_n(x) = \sum_{i=0}^n\binom{n}{i}B_ix^{n-i}

が成り立つことを思い出します。また、この証明では

\displaystyle G(t, x) := \frac{2e^{xt}}{e^t+1} = \sum_{n=0}^{\infty}E_n(x)\frac{t^n}{n!}

によって定義されるEuler多項式E_n(x)を用います。

補題5 \ \ \ \displaystyle B_n \left( -\frac{1}{2} \right) = \frac{1-2^{n-1}}{2^{n-1}}B_n.

証明. 母関数の計算

\displaystyle F(t, \frac{x}{2}) + F(t, \frac{x-1}{2}) = \frac{te^{(1+\frac{x}{2})t}}{e^t-1}+\frac{te^{(\frac{1}{2}+\frac{x}{2})t}}{e^t-1} = \frac{2\frac{t}{2}e^{(1+x)\frac{t}{2}}}{e^{\frac{t}{2}}-1} = 2F(\frac{t}{2}, x)

より、

\displaystyle B_n\left( \frac{x}{2} \right) + B_n\left( \frac{x-1}{2} \right) = \frac{B_n(x)}{2^{n-1}}

が得られるので、x=0とすればよい(B_n(0)=B_n)。 Q.E.D.

補題6 \ \ \ \displaystyle E_n(x)+E_n(x+1) = 2x^n.

証明. 母関数の計算

\displaystyle G(t, x)+G(t, x+1) = \frac{2e^{xt}}{e^t+1}+\frac{2e^{(x+1)t}}{e^t+1} = \frac{2e^{xt}(1+e^t)}{e^t+1} = 2e^{xt}=2\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}t^n

より従う。 Q.E.D.

補題7 \ \ \ \displaystyle E_n(x) = \frac{2^{n+1}}{n+1}\left\{ B_{n+1}\left( \frac{x-1}{2}\right) - B_{n+1}\left( \frac{x}{2}-1\right) \right\}.

証明. 母関数の計算

\displaystyle F(t, \frac{x-1}{2})-F(t, \frac{x}{2}-1) = \frac{te^{(\frac{1}{2}+\frac{x}{2})t}}{e^t-1}-\frac{te^{\frac{x}{2}t}}{e^t-1} = \frac{\frac{t}{2}\cdot 2e^{x\frac{t}{2}}}{e^{\frac{t}{2}}+1} = \frac{t}{2}G(\frac{t}{2}, x)

より従う。 Q.E.D.

\displaystyle \ \ \ E_n(1) = \frac{2(2^{n+1}-1)}{n+1}B_{n+1}.

証明. 補題7でx=1として、補題5と組み合わせればよい。 Q.E.D.

Worpitzkyの公式の証明

補題6より

\left( 1- \frac{1}{2}\Delta \right) E_m(n) = E_m(n)-\frac{1}{2}(E_m(n)-E_m(n+1))=\frac{1}{2}(E_m(n)+E_m(n+1)) = n^m ー④

が成り立つ。③より、k \geq m+1ならば\Delta^kn^m=0なので(ー⑤とする)、④より

\displaystyle E_m(n) = \sum_{k=0}^m\frac{\Delta^kn^m}{2^k}

が従う((1-\frac{1}{2}\Delta)^{-1}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{\Delta^k}{2^k})。故に、系より

\displaystyle E_m(1) = \frac{2(2^{m+1}-1)}{m+1}B_{m+1} =  \sum_{k=0}^m\frac{\Delta^k1^m}{2^k}

を得る。 Q.E.D.

負の整数点での値

最初に証明した定理とWorpitzkyの公式を組み合わせることによってリーマンゼータの負の整数点での値を計算することができます。

定理 mを非負整数とする。このとき、
\displaystyle \zeta (-m) = -\frac{B_{m+1}}{m+1} \in \mathbb{Q}
が成り立つ。

証明. リーマンゼータの級数表示による解析接続によりおよび⑤より

\displaystyle \zeta (-m) = \frac{1}{1-2^{m+1}}\sum_{k=0}^m\frac{\Delta^k1^m}{2^{k+1}}

が得られる。よって、Worpitzkyの公式より所望の等式が得られる。 Q.E.D.


他の標準的方法によってこの定理を証明しておけば、本記事の解析接続はWorpitzkyの公式の別証明を与えます。また、関数等式によってひっくり返せばリーマンゼータの正の偶数点における値に関するEulerの公式が得られます。

m=0のときに上記定理の場合分けが発生しないこともB_1=1/2なる関-Bernoulli数の定義の利点の一つです。

*1:単にこのような表示があるという面白さだけではなく、後で述べるように負の整数点での値への応用等もありますが、関数等式の別証明を与えることができるかについてはまだ考えていません。

*2:積分がない表示であり、Dirichlet級数による定義式の収束範囲外での値の計算を一から実装しやすいことからこの公式に着目したそうです。

*3:-\Deltaのことを\Deltaと書くことの方が多いと思われるので注意(前進階差作用素)。

*4:というか非常に良くないと思っています。\Delta a_1と書くと、定数列(a_1, a_1, \dots)\Deltaを作用させたもの(すなわち0列)と勘違いする可能性があるからです。「括弧を省略しているが、{}_naにではなく\Delta aに付いている」と主張するのなら良いですが、直後に述べる\Delta^k 1^sという記号の慣習からそうではないことが分かります。

ロジェ・アペリーと奇跡の証明〜数学界を震撼させた伝説の老兵〜

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非公開前の内容要約: アペリーの定理のアペリーによる証明について。
この記事の内容は部分的に書籍『せいすうたん1』の第5話に収録されています。
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